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えげつないけどかわいいの(有賀桜+トキ)
家で飲むと言う行為はなんというかこう、非常に、宜しくない。
そもそも俺は酒にあんまり強くない。
強くない事を見越してきちんと酒量わきまえて三杯目くらいで打ち止めつつ適当に軽い梅酒あたりをちびちび飲んで誤魔化してやり過ごすのが常なのだけれど、どうにもこの日は飲み過ぎていた。
会場はスワンハイツ。
今日のメインは有賀さんじゃなくて、緊張した面持ちでお酒のグラスを持つトキくんだ。
いやぁ、だって、亮悟がフォトスタジオの用事で珍しく遠出してるっていうもんだから。
じゃあ彼氏居ぬ間に俺とご飯たべよーよ、ってナンパした。いや勿論、とても健全な意味でのナンパだ。お友達ナンパだ。
俺は有賀さん超絶愛してるし絶対に浮気なんかしないし、それはきっとトキくんも亮悟も一緒だろう。
二人で色々喋りたいこともあったけれど、まーそれはいつでもいいし、とりあえず俺は自分の恋人自慢も含めてトキくんを古めかしいアパートの一室に連れ込んだ。
テーブルに並んでいるのは有賀さんがだらだらと作ってくれたつまみの数々だ。
ハタハタの一夜干し、胡瓜の梅肉和え、スナックエンドウとレンコンのきんぴら、柚子の匂いの茶碗蒸し。どうやら有賀さんは、無意識に見栄を張ってしまうらしく、作り終えてテーブルに並べてから微妙に恥ずかしそうに「やりすぎた……」と崩れ落ちて居て滅茶苦茶可愛かった。
有賀さんは日本酒で、トキくんと俺は辛口のシャンパンで乾杯した。
本当は唯川君とかも呼ぼうかなって思ったんだけど、ものすごく有賀さんに止められたから結局三人の飲み会だ。
最初はガチガチだったトキくんも、お酒のせいか有賀さんのイケメンタラシ力のせいか、気が付けば素直に笑うようになっていた。顔だけでいったら正直トキくんの方がイケメンなんだろうなーと思うけど、俺は有賀フィルターかかってるので酔っぱらった勢いで「かっこいいでしょー?」なんてトキくんに絡んでしまう。
「……かっこいいです……しかも料理おいしい……すごい……」
その有賀さんは酔っぱらいの俺たちの為に、切れたお酒を買い足しに行ってくれていた。
相変わらず水の用に酒を飲むくせに全然酔わない、怖い男だ。
「だろー。でも亮悟もさーかっこいいよなーずるいよなー。俺、有賀さんめっちゃくしゃ好きだし最高の恋人だと思ってるけど、亮悟かっこいいなーって思うもん人間として。恋とか愛とかじゃないけどさ」
「わっかります……オレもその、そういうんじゃないけどアリガさん、すごくかっこいいなーと思うし……あと、サクラさんも、その、かっこよくて好きだし」
「あ、ほんと? 嬉しいなー最近みんな世界が俺に優しくてよくないわ。軽率にテンション上がっちゃう」
酢のものの残りをつまみながら、ふわふわする頭で笑いかけると、トキくんも笑う。
にこっと笑う時の口角の上がり方が格好良くて好きだなーと思う。ちょっと、女子みたいに笑う子だ。唇が薄いからかっこいいのにかわいい。
「オレも最近それめっちゃ思います。なんか、世界が優しすぎてマジこわい」
「あはは、わっかるー。なんかさぁ、俺は比較的きっと人生恵まれてる方なんだろうなって思ってたけど、こんなできた彼氏様が現れるなんて思って無かったしさ。人生何が起こるかわっかんないよなーって。大げさだけど、わりと生きてて良かったなって最近思うんだよな」
「あああ……わかる……わかります……」
「亮悟なんか最高にイケメンだもんな。何があっても絶対に守ります、とか素で言っちゃいそうなとこちょっと惚れそう。いやでも二十二歳とか若すぎてやばいかもしんないなー……あいつ喫煙者のわりに体力有り余ってそうで小憎らしいわ。俺なんかひ弱そうな有賀さんで手いっぱいなのに」
「…………えっと、ちょっと、アレな話?」
「うふふ。だって今邪魔もの居ないし?」
まー、そこまで猥談好きな方でもないし下ネタ大好きでもないけどさ。やっぱ、同じ年下ノンケ彼氏持ちとしてちょっと気になっちゃうとこもある。
別に友達の下の話聞きたいとは思わないけど。でも、トキくんが結構正直に話に乗ってくれるから俺も良い気になってつっこんだ話題に踏み込んでしまう。
「ぶっちゃけどうよ。亮悟くんうまい?」
「……うまいっていうか、あー……優しい……?」
「あー。あーうん、だよなー! って感じだな……」
「優しいし体力あるから結構許してくれない……めっちゃへろへろになる……」
「ぶは! ナニソレかんわいいなきみら……! いやーでも、あれじゃん、年下彼氏が頑張ってんのかわいいじゃん? あー、あと、サイズ感でへこんでんのも結構かわいい」
「あ、わかる。わかります。なんだろ、別にオレはそういうの気にしないんだけど、やっぱ普通の男の人ってそういうの気にしちゃう……?」
「みたいねー。俺も別に、気にしないっていうか、なんかもう逆に俺の方がちょっとでかくてごめん? くらいの気持ちだけどさ。やっぱこう、アレが生殖器じゃない俺たちと、ノンケ男子じゃ感覚違ったりすんのかもね? ゲイでもそういうの、気にしちゃう人だって居るだろうけどさ」
そういやどっかで、身長がでかいとアレは小さい、みたいな話を小耳に挟んだことがある。
言われてみりゃそうかなーと思うし、確かに実際のところ有賀さんのソレと俺のアレ比べたらうーん、まあ、お察しなわけで。別に本当にそんなの俺はどうでもいいんだけど。
ただちょっとだけ気にしてる風な有賀さんってばめっちゃかわいい。
亮悟も身長でかいもんなーなんてとてつもなく失礼なこと考えてたらトキくんがぼそりと呟いた。
「……小さい方が有り難いくらいなのに……」
「あはははわっかるー! やっばいやつとかすんげーこわいもんなー!」
思わず大爆笑してしまって、一回噎せてしまった。
いや、わかる、すげえわかる、わかるよそれ。別に俺、どっちとか決まって無いし掘ってくださいっていう彼氏だったらそっちに回るけど、なんていうか、バイのイケメンとかは自分が入れること前提だし、セックスって言ったら腰を動かしてなんぼだと思っている節がある。
俺はそもそもオーラルセックスが好きな方だし、あんまり無理してそこ使って頑張んなくてもよくね? 派なので、セックスにこだわらない有賀さんで大変嬉しい。
セックス自体は結構ねちっこいけど。入れないと気が済まない系男子じゃないからね有賀さん。そういう理解あって応用きくとこほんと好きだ。
「いったいもんなー肛門科とか絶対行きたくないし」
「行きたくない……超行きたくない……絶対ゴム必須でお願いしたい……」
「まあ、ゴムナシで大変な事になんの、正直やられる方じゃなくてやるほうだしねー。あ、そういえば有賀さんわりとゴムかっこよく切ってくれる。好き」
「え、いいな。倉科クン未だに口で切れなくて練習してるっぽい」
「亮悟……! くそかわいい……!」
げらげら笑ってたら涙が出てきた。
あーこんな友達の彼氏捕まえて猥談とかよくないの知ってるんだけど。でもだって、楽しいもんは楽しい。こういう話できる人間ってあんま居ない。行きつけのバーもなければコミュニティもない。
だから俺は楽しくなっちゃって、トキくんのグラスに残ってたチューハイを注ぎながら、ねーねーと横ににじり寄った。
「亮悟ってさー、対面座位とか好きっしょ?」
「……なんでばれてるの…………」
「うはは! もー、ほんっとかわいいな俺君ら好きよ……! ちな俺ねー騎乗位が好、」
「ちょ、何の話してるのサクラちゃん!」
「あ、」
後ろからかかった慌てた声に、やっべーと思って笑顔を作って振り返る。
「おかえり有賀さん~何の話ってえっちな話だよな~?」
「いや、あのね、別にカマトトぶるわけでもないけど僕があとでシナくんにどんな顔して会ったらいいかわかんなくなるでしょ……! あと僕が恥ずかしいのでやめてください!」
「えー。かわいいじゃん。つかそこまで細部語ってないもんー」
「……サクラちゃん酔ってるでしょ」
「えへ。若干?」
もう、とため息ひとつついて、オレンジジュースをついでくれるからやっぱり有賀さんってでろ甘いしかわいいと思ったし、俺のそのでれでれした愛情全部トキくんにばれてて、なんか代わりに真っ赤になってた。
あ、やべ、巻き込んじゃった。
あんまり若人に見せつけたりしたくないし、わりと俺は今日普通の友人っぽく有賀さんに接してたんだけど、さっき下世話な話したせいか酔ってるせいか、ガードが微妙に緩めになっちゃってるらしい。
よろしくないよろしくない。
にやにやするのもいちゃいちゃするのも、トキくんを送ってからにしようと決めてたのに。
どうにか甘ったるい雰囲気を流そうとしてでもさっきのエロいというよりえげつない話が頭から離れなくて「亮悟の性感帯」を話題にしようとしたら有賀さんに睨まれた。
わぁ。久しぶりに睨まれた。ちょっとどきどきする。
「サクラちゃん、酔いがさめるまで発言禁止」
「え。いいじゃん。だってさー俺嬉しいんだってーあんま居ないんだよゲイ友達。亮悟だって結局ノンケじゃん。有賀さんもさー女の人好きな人だしさーいいじゃん喋らせてよ」
「ほんと、なんだろうねサクラちゃんって酔って無ければものすごく気がきくしさらっと話題も譲ってくれる人なのにねぇ……小早川くん、大丈夫?」
「え。え? あ、いえ、オレはその、結構普通に楽しいです……オレも友達居ないんで、ちょっと面白いっていうか、あの……いろいろ喋ってもらいたいです」
「えーいいよいいよ喋ろう? 長さの話とか?」
「サクラちゃん」
「……うそうそ。今のはちょっと調子に乗り過ぎたごめんてー。有賀さんごめんーってばー。健全なお話しますー」
じゃあえぐいお話は今度二人でね? と笑ったら、トキくんは真っ赤になってたし有賀さんには珍しく耳を引っ張られた。痛い。痛いけど、トキくん笑ってたから有賀さんも許してくれて、ほんとお酒ってよくないなーと思った。
楽しくて良くない。
多分明日朝起きて、俺ってばなんつーことを、って思っちゃうんだろうけど。
でも酔っぱらうと俺すぐ有賀さんにちゅーしたくなるから、それもよくないわって思った。
桜が咲く前の時期、ちょっとまったり家飲み会で有賀さんに怒られた話。
end
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