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第4話

それから毎日、巽は店に……俺の元に来た。 他のΩは指名しないし、俺も他の客を相手にしなくなった。正確には……他の客を相手にする時間が無くなったんだ。 オーナーから聞いた話によると、俺の為に巽は大量の金を払ったらしい。 だから毎日部屋で巽が来るのを待ち、あいつが来たらクローズの時間まで相手をする。 きっとこれが、世の中でいう「愛」ってやつなんだろう。 「紬っ! 今日こそ休んで下さいっ! オーナーのことは私が説得するので」 「煩いっ! βのお前がそんなこと出来るわけないだろ! それに巽は俺の番になる相手なんだ!」 「運命の番(あいて)なのは分かりました。でも、心から……本当に愛してる相手にはこんな事をしませんっ!」 「っ!!」 腕を掴まれ、奏多の胸の中へと引き寄せられる。 「手首の締め付け跡……身体中に出来た痣や傷……貴方方の行為を見ていなくても……あの部屋の中でどんな事をされているのか、分かるんですよ!」 自分でも分かっていた……。 会う回数が増えれば増える程、その行為が酷いものに変わってきていることを。本当はそれが惹かれあって激しくなっているものではなく、巽の性癖のようなものだってことを……。 「う……さい」 それでも俺たちは……運命の番なんだ。 本当は心の底から愛し合っているけど今は互いに素直になれず遠回りをしているだけ。……だから、いつかは気持ちがちゃんと通じ合って、もっともっと……今以上に幸せになれるんだ。 「僕ならもっと、紬のことを見て、心から愛しーー」 「煩いっ!」 気づいてはいけないんだ、この言葉に出来ない謎な感情に。 見てはいけないんだ……傷ついたような目で俺を見つめる奏多の顔を。 巽の言う通り、俺はアイツと番になるはずなんだ。 あんなに身体が反応したんだから、違うはずがない……なのにーー 『開けろっ! 紬、大丈夫かっ! 紬っ!』 あの日、俺たちが本能のままに求めあっている間、奏多はずっと俺を心配して扉を叩きながら叫び続けていたらしい。 そして今は、俺が巽の相手をしている間常に拳を握り締め唇を噛みながら、扉の前で監視をしているとΩ仲間から聞いた。 そんな話を聞いてしまったからか、奏多を見る目が変わってしまったんだ。 (αがいる前でβとΩが結ばれるなんて……どこのお伽話だよ) 「もうすぐ巽が来るんだ。離せーーっ!」 俺が突き飛ばしたせいで奏多はその場で尻餅をつく。 「お前のことなんて、これっぽっちも眼中にないんだよ」 ズキズキとする胸の痛みに気づかないふりをしながら部屋の扉を閉めて、いつも通り巽が来るのを大人しく待ち続けた。

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