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第5話
しばらくして巽はいつも通り俺の元へやって来て、いつも通り……いや、昨日よりも更に痛みを感じる抱き方をする。
「どうした? 今日は上の空みたいだね」
「そんなこと……なーー」
「……別の男のことでも考えているのかな?」
その冷たい言葉にぴくっと反応し身体が震えだす。恐る恐る巽の方を向けば、目だけが笑っていない表情で俺を見下ろしていた。
「……ご……めんな、さ……」
咄嗟に出た謝罪の言葉。しかし巽は、表情を崩さず話続ける。
「大丈夫だよ。それよりも今日は……特別なものを持って来たんだ。……これでもう、私以外の事は考えられないーーねっ!」
太腿に何かを刺されるのと同時に俺の鼓動が速くなる。ハッ……ハッ……と息が切れるような呼吸が続き身体の芯から熱くなった。
(発情……期? でも、予定ではまだ先じゃ……)
「ヒートを起こす薬だよ。紬……君を迎え入れる準備ができたんだ。今日こそ番になろう……」
俺の香りにあてられたからか、巽の息も徐々に切れていき、硬くなったアレを蕾にグリグリと押し付けられる。
「…………だ」
無意識に出た抵抗の言葉。しかし身体に力が入らず、逆に襟足を掴まれるとそのまま力ずくでベッドへと押しつけられた。
「んぐっ!」
顔面が枕にぴったりとくっ付き呼吸ができなくなる。
「何断ろうとしてるの? お前に……Ωに拒否権なんてないんだよっ!!」
興奮状態に陥った巽は、俺の首に着いた金属の存在を忘れて噛みついてくる。
背後から聞こえる、ガチガチという金属と歯がぶつかる音に俺は恐怖を感じる。
「……だ……いや……だ」
震える身体を自分の腕で抱きしめる。
「何その反応……俺たちは運命の番でしょ? 怖くないよ。それに家に来ても紬が寂しくないように、沢山のオトモダチを用意しているからね?」
ーーカチャッ。
突然スッと軽くなる首回りに手を伸ばすと、今まであった筈の首輪が無くなっていた。
「ゔっ……!」
片手に鍵と外された首輪を持ち、薄気味悪い笑顔で噛み付こうと近づいてくる巽よりも先に、自分の手でうなじを隠す。手の甲に感じる痛みと鉄っぽい臭いに涙が出てくる。
(本当に……こいつと番になっていいの? 幸せに……なれるのか?)
ふと頭をよぎったのは、いつも側にいたあいつの顔だった。
「……だ、いやだ……助け……て、奏多ーっ!」
大きな物音がした数秒後、俺にのし掛かっていた重みが一瞬で消える。
朦朧とする中、知っている温もりと香りに包まれた気がして、俺は安心して意識を手離した。
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