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望まぬ行為*性描写

 乱暴に身体を落とされた先は、平らな岩の上に幾重にも獣の毛皮が敷かれたベッドで、案外にも痛くはなかった。大きさは人が三人ほど横になれそうなくらい広い。  この三日間は自分に宛てがわれた女王の部屋で過ごしていたため初めて訪れた場所だったが、王と女王の部屋らしかった。入口は絹の上質な布で覆われ光が差し込まず、部屋の中は灯された蝋燭の炎によってゆらゆらと照らされている。岩のベッドの他に動物の骨で作られた装飾品が、テーブルの上には果実酒や皿に盛られた果物が置かれていた。  まさかこの部屋を使うことになろうとは予想もしていなかった。  女王をベッドの上に落としたクバルを、ブラッドは反抗的な目で睨め上げた。威圧的だと評されることが多い顔でクバルに凄んでみせても、ダイハン族の王は冷たい表情で見下ろしてくるだけだ。褐色の上半身は血に濡れ、そして美しい顔立ちも赤く染まっていた。 「お前と寝る気はない」   クバルに向かって厳然と言い放つ。共通語は理解しないだろうがこの男も馬鹿ではない、拒絶の意は汲んでくれる筈だ。  クバルは神秘的な赤い瞳でブラッドの全身を舐め回すように見た後、唐突に口を開いてダイハンの言葉で何かを言った。入口の絹の布が押し開かれ、数人の王の従者と、女王の僕であるヤミールとカミールが入ってきた。  言語が違うのは不便だ。相手が何を話しているのかわからなければ、何を企んでいるのか図れない。ブラッドはじっとりと嫌な汗を掻きながら、静かな足取りで王のもとへ歩み寄る従者たちの動きを目で慎重に追っていた。クバルの従者である男ふたり、女ふたり、そして女王の僕の双子だ。  王にかしずく従者たちにクバルが命じると、ヤミールとカミールのふたりがベッドの上に乗り上げてきた。自然と身体が強張り緊張が増す。これまでブラッドの側を離れず付き従っていたふたりが王の命令で動いているのが、今ばかりは恐ろしく思える。  ヤミールの腕がブラッドへそっと伸ばされ、女のような細い指先が胸元の衣服の留め具を外そうとする。反射的にその手を払ったブラッドの指先は、ヤミールの頬を引っ掻いた。  一度手を引っ込めたヤミールは目を伏せたまま黙っていたが、クバルは違った。秀麗な眉を顰めた王が自らの従者に命じると、かしずいていたふたりの男はブラッドの背後に回って羽交い締めするように取り押さえた。 「やめろ」  自分の声が怒りに震えているのがわかる。線の細い双子とは違う、王の護衛となる屈強な男ふたりに拘束されてはいくらブラッドでも抵抗はできない。  両隣でじっと待っていたヤミールとカミールが再びブラッドの身体に手を伸ばし、べっとりと血液に濡れてしまった白い衣装を脱がせ始めた。 「やめろ。お前らは俺の僕だろう、俺がやめろと言ってる」  怒りを押し殺しつとめて冷静に命じたが、双子は意に介する様子もなく、命令に従う気配もなかった。留め具をひとつひとつ丁寧に外し、袖を肩から抜く。ひんやりとした洞窟の外気に触れた肌が粟立つ。 「すみません、アステレルラ。ヘリオサの言葉には逆らえないのです」  罪悪感の一欠片もない平静さを保った声で詫びられ、ブラッドは鼻梁に深い皺を寄せた。今は誰もブラッドの味方ではない。  厚い筋肉に覆われた上半身が露わになる。褐色の肌を持つダイハン族に比べればブラッドの肌の色は白すぎる。腰のベルトを抜かれ、下履きを下ろされる。慣れた手つきで一緒に下着まで脱がせられ、ブラッドはついに一糸纏わぬ姿になった。  大勢の視線がある中で裸にされるのは何と心許ないことか。こちらの心情には関心も寄せず、ブラッドの服が剥かれる様子をクバルは憮然とした表情で見下ろしていた。  これは互いに望まない結婚。望まない行為。クバルも乗り気ではない筈だ。シュオンが言ったように同衾する必要性など皆無だろう。 「ヤミール。アトレイア王の言葉に従う必要はないと王に伝えろ」   シュオンの言葉によって駆り立てられたダイハンの民たちが担ぎ上げただけ。クバルはやむを得ず民意に応えただけ。王と女王がともに洞窟の奥に消えただけで彼らは満足する。  ヤミールは静かな声音で王に伝え、ブラッドはクバルの言葉をじっと待った。クバルは厚い唇をおもむろに開き、低く穏やかな声で言った。 「断れば、あの赤毛の小僧は俺の民を殺す」     滑らかに紡がれる言葉に、ブラッドは緑の目を見開いた。 「……共通語がわかるのか」 「すべてではない」   では、クバルの肩に荷物のように担がれたブラッドが彼を蛮族と罵った声は理解していたのか。グランと小声で交わした会話の一端も、もしや聞こえていたのか。  クバルは血塗れの顔でブラッドを見下ろし、濃い睫毛に縁取られた目をすっと眇めた。 「俺もお前も、望まぬ結婚。だがこれは俺の民を守るため」  硬い声で言い放った後、クバルはダイハンの言葉で何かを言った。途端、ヤミールがおもむろにブラッドの下肢に手を伸ばす。反射的に腕の筋肉が動くが、背後から拘束されては抗うことはできなかった。 「俺に、触るな」    思ったよりも低く、唸るような声が漏れ出た。ヤミールはブラッドの拒絶に構うことなく、中心で萎えているものに手を触れた。細い褐色の指が柔らかくペニスを握り込み、やわやわと揉みしだく。ぞっとした。 「触るな……っ」 「じっとしてください、アステレルラ」   背筋を震わせるブラッドをよそに、ヤミールは愛撫を続けた。これも王の命令なのだ。  ベッドには上がらず口を閉ざして見下ろすクバルは、何の感慨もなさそうな表情で佇んでいる。他人に性器を弄られている様子を観察されるのは何とも耐えがたいことだった。ブラッドは羞恥に目を伏せ、硬く唇を噛んだ。 「……ッ」   だが、生理現象には抗えない。遠慮がちながらも意志をもって施される愛撫に、ブラッドの性器は芯を持ち始めた。指先で亀頭を擽られ、先端が潤み始める。  城に勤める侍女や城下の娼館の女に同じ行為をされた際は、こんな複雑な心境になったことはなかった。今ブラッドの性器を扱いているのは異民族の男。そしてブラッドは女を抱くのではなく、野蛮な異民族の王に抱かれるのだ。 「ふ、っ……」  思わず漏れそうになる声を押し殺す。ふと花のような甘い香りが漂ってきて伏せていた瞼を上げると、カミールが透明な小瓶に入った桃色の液体を掌に溢していた。  「何だ……」 「香油です、アステレルラ」   ヤミールが耳元で囁いて、ペニスの先端からぷっくりと零れる先走りを竿全体に撫でつける。滑りがよくなった手で敏感な亀頭を擦られ、内腿がびくりと震えた。  甘い香りを放つ香油がカミールの手から下肢に垂らされ、薄く血管の浮き出た下腹と屹立を濡らした。彼女の掌で温められた液体はとろりと粘着質で、すでに起ち上がったペニスからゆっくりと下方へ伝い、その奥の窄まりまで行き着いた。ヤミールの手がその滴りを追って睾丸を撫で、濡れた指先で尻の穴を撫でる。閉じようとする脚を、カミールの手が阻んだ。 「触るな」  頑なに拒むブラッドに、もはやヤミールは何も言わなかった。香油を纏った指が躊躇なく濡れた尻の狭間を撫でる。穴の周りの皺を伸ばすように何度か撫で、中へゆっくりと差し入れた。細い一本の指が入ってくる感覚に、ブラッドは喉を上下させた。 「力まないで」  この状態で力まずにいられるか。言い返したかったがあまりの異物感に声は出なかった。排泄する器官へ侵入してくる異物を押し出そうと下腹に力が入り、余計にヤミールの指の形を中の粘膜で感じ取ってしまう。  「う、ぅ」  「アステレルラ、大丈夫です。すぐに慣れます」  「ッ、慣れたくない」   開かされた脚の間でヤミールの指が自分の中に抜き差しされるのを、低く呻きながら見下ろす。細長い中指の第二関節ほどまで埋まり、一度抜き、もう一度挿し入れ、それを何度か繰り返されるうちに異物への不快感も薄まってくる。苦しげに短く吐いていた息が次第に長く安定したものになると、ヤミールは指の数を二本に増やした。薄まった筈の異物感がぐっと増し、ブラッドは顔を歪めた。  指二本どころで臆していては男性器を受け入れるなど到底無理だ。できる訳がない。そういう風に作られた器官ではないのだから。入れたところで痛みと苦しみを味わうだけだ。   「怖くありません。私に任せて」 「抜け、って……無理だ……、ぁ、あ」   不意に横から伸びた手がペニスの先端を擽る。ブラッドの身体の横に膝をついたカミールが、異物感に萎えかけていた性器に優しく触れる。その手つきに性的な雰囲気は感じない、壊してはならない大切なものを扱うように繊細な指先でブラッドの意識を逸らした。  ふるりと震えたペニスの先から透明な液体が溢れ出る。桃色の香油と混じり合ったそれを竿全体に塗り伸ばし、カミールの手は睾丸を柔らかく揉んだ。けして強烈ではない微弱な快感が緩く波になって押し寄せるのを目を伏せてたえる。  その間にヤミールの指が奥まで押し進んできた。弛緩した肉の間を割って指が根元まで埋まると、ゆっくりと抽挿を繰り返す。香油で湿った内壁と指が擦れ合ってちゅぷちゅぷと細かな水音が自分の下肢から立つのを、ブラッドは不規則に息を吐きながら聞いていた。  徐々に苦痛が和らいでいくのが明確にわかる。最悪だ。  ヤミールとカミールの手つきは慣れていた。他人の性行為に介入するのに拒絶感や嫌悪感は見られない。女王の僕とは女王のあらゆる面倒を見るのか。王と女王の閨事に際しても。 「う、ぅ……んっ」  中に埋まった指が一点を掠めた時、下肢に甘い痺れが走った。天を向いた屹立が震え、下腹が引き攣る。吐息に声が混じって鼻から抜けるような甘い声が漏れ、ブラッドはしまったと咄嗟に息を潜めようとする。上目にクバルを見上げると、冷酷な王は片眉をぴくりと持ち上げた。  無様な姿を見られている。クバルの視線を意識すればするほど頭の奥がかっと発火して熱くなる。こんなのは俺じゃない。顔を伏せゆるゆると左右に頭を振ったところで、内壁を探るヤミールの指の動きが露骨になった。 「ぁ、アっ!?」  今まで苦痛を減らすため異物に慣らすように動いていた指が中の腹側の面を執拗に擦ると、過剰なほど内腿がびくびくと震えた。手でペニスを擦られるのとも、女の膣に出し入れするのとも違う、経験したことのない快感が下腹にじんじんと広がっていく。 「な、ん……ッ、やめろ、ヤミール……!」  声が情けなく上擦るのが抑えられない。身体の下に敷かれた柔らかい毛皮を踵が蹴るのをカミールの手にやんわりと掴まれて、快感の逃げ場所がどこにもなくなってしまう。ぐちゅぐちゅと下肢から立つ淫猥な音と強制的に与えられる快楽から少しでも逃れるように首を捻り顔を背ける。  怖い。自分の力でも、命令しても、どうにも為す術がない。他者に一方的に蹂躙される恐怖は今まで味わったことのない感覚だった。  「アステレルラ、少し力を緩めてください。でないとヘリオサを受け入れられません」 「無理、だ……っ」  尻を広げられ、王のものを受け入れる準備をさせられる。その一方で、挿入する棒が硬くなっていなければ王と女王の床入りは不可能なのではないか。  横顔を毛皮に押しつけ硬く瞑っていた目をおそるおそる開けて見ると、クバルに興奮しているような様子はまったくない。平静さを崩さないクバルの目の前で、ブラッドだけが僕の手によって乱されていた。 「できねえ、だろ……王のあれは起ってない」  同じくらい立派な体格の男相手に起たせろと言われても無理な話だろう。ブラッドがクバルの立場でも顔を歪めて断る。  クバルの傍らに付き従っていた従者の女ふたりが、王の下履きに手をかける。しゅるしゅると腰紐を解き、下肢を覆っていた布と下着を繊細な手つきで足首まで落とす。女が足元に屈んで硬い大地から王の足を守っていた履き物を丁寧に脱がせる間、ブラッドは王の雄々しい姿から目を離せずにいた。  逞しい上半身に見合うどっしりと頑丈そうな腰、筋肉のついた長い褐色の脚。その間にある一物は勃起の兆しこそ皆無なものの、平常時でも十分なほどの大きさだった。 「嘘だろ……」  絶望の入り交じった声をぽつりと漏らす。アトレイアの娼婦が見たら失神しそうだ。こんな凶器のようなものを即席で広げられた穴に受け入れろと言うのか。  堂々と佇む王の側に寄り添った女たちはクバルの身体に愛撫を施し始めた。ヤミールとカミールがブラッドにそうしたように、下腹の薄い皮膚を撫で、黒い茂みの先にあるペニスに手を触れゆっくりと扱く。扇情を掻き立てるように滑らかな褐色の肌を女の柔らかい手が撫で回す。物理的に与えられる快楽にクバルが浅く息を漏らすのを、ブラッドは息を飲んで見上げた。 「あんなもの、入る訳ねえ」 「大丈夫です。受け入れられます。そのために準備をしています」  唐突に腹の圧迫感が増したと思ったら、ヤミールは指を三本に増やしていた。顔を歪めるほどみちみちと広げられた入り口が痛い。だがそれも一度ヤミールに探り当てられた場所を刺激されてしまえば、痛覚に向いていた意識はすぐに奪われた。カミールがペニスに愛撫を施すのも手伝って、苦痛と快楽に呻きながらもブラッドの後孔は王を受け入れるために徐々に解された。

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