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罰*性描写
ヤミールが後孔から指を引き抜くと彼の細い三本の指に香油と腸液が糸を引くのを、ブラッドは浅い息を吐きながらぼうっとする頭で見ていた。クバルに愛撫を施していた女たちが離れ、王がベッドの上に乗り上げてくると、双子は王の前で軽く目を伏せてベッドから下りていった。
むっすりと唇を引き結んだ顔は至極冷然としているのに、彼の脚の間にあるペニスが硬く勃起して天を向いているのが酷く不釣り合いで恐ろしかった。
「無理だ」
先程から同じ拒絶の言葉しか吐いていない。それもダイハンの者たちには意味をなさないだろう。
無意識に後ずさろうと踵が毛皮を蹴るが、ブラッドを押さえ込んでいた男たちはブラッドの肩と腰を掴むと身体を反転させて俯せにした。男たちが拘束する代わりに、クバルの大きな手が背後からブラッドの肩を強い力で掴んでベッドに縫い付けた。
そこまでしなくても、もうどこへも逃げられる状態ではない。つい数刻前の決闘で、この男の豪腕を見せつけられた。この期に及んで拒もうものならブラッドの首も刎ねられそうだ。
王の一物を突っ込まれ、抜き差しされ、射精に至るまでたえればいい。ほんの十数分だけ硬く目を閉じてやり過ごせば苦痛は過ぎ去る。ブラッドは突っ伏した毛皮の上で己の惨めさを低く嗤った。
本来は、自分に回ってくる役割ではなかった。蛮族の王の妻として王に共寝し王を慰める弟を想像し、ブラッドはアトレイアの玉座で笑っている筈だった。それが実際はどうだろうか。
「何を笑っている」
クバルの硬い声が背中に降ってくる。
「はは……とんだ茶番だ」
くぐもった笑いを漏らすブラッドにクバルはそれ以上何も言わなかった。クバルの手が腰の下に差し入れられ、尻を高く持ち上げられる。交尾をする獣の雌のような姿勢だ。
尻たぶのあわいに、硬く猛った熱いものがぴたりと押しつけられた。香油で濡れた入口を何度か擦り、クバルの一物は穴を広げて入ってきた。
「あ゛――……」
太い亀頭によって肛門が強引に広げられる苦痛に、言葉にならない声が漏れた。臀筋にぎゅっと力が入り、背中が引き攣りそうになる。クバルはブラッドの腰骨を両手で掴み、ゆっくりと腰を進めた。
内臓が内側から圧迫される感覚が酷く苦しい。ヤミールの指とは比べものにならない熱さと質量が有無を言わさず肉を切り開き進んでくる。ブラッドは短く浅い呼吸を繰り返しながらたえた。
「半分入りました」
ベッドの側に控えたヤミールが律儀にも教えてくれる。これでやっと半分だというのか。すでに十分苦しくて、全部入れて抜き差しされようものならケツが壊れてしまう。
ブラッドは無理な体勢で荒い息を吐く合間に、何とか喉から声を絞り出す。
「は、……っ、一回、抜け」
「……」
「頼む……」
今にも息絶えそうな懇願に、背後から浅い嘆息が漏れる。中に中途半端に埋まっていた一物がずるると粘膜を擦りながら出ていき、ブラッドは安堵した。腹の圧迫感が消え、ようやく深い呼吸ができるようになる。毛皮に顔を押しつけ、鼻で息を整えようとするのも束の間だった。
「お゛あ゛あ゛あアッ!?」
一息に入り込んでくる。
パン、と尻と下腹の皮膚がぶつかる音がした。先程とは到底比べものにならない重量感と圧迫感。ブラッドは一瞬、呼吸を忘れた。まさか全部入れたのか。
「あ゛、が、ぁッ……!」
濁った悲鳴が唾液とともに口から出る。毛皮に横顔を押しつけ、はくはくと魚のように酸素を取り入れようとする。自由な手の先で柔らかな獣の皮をぎゅっと掴んだ。
「てめえ……ッ、全部、一気に……!」
「早く終わらせた方が互いのためだろう」
「ふ、ざけんな、ケツが裂ける」
王と女王の初夜が流血沙汰だなんてとんでもない。幸いヤミールが丹念に慣らしてくれたおかげで切れていないが、限界まで広げられた肛門はめりめりと音がしそうだった。ブラッドは肩越しに振り返り、自分を犯そうとする王を睨め上げた。目尻から生理的な涙が零れ落ちるのにクバルは何の感慨もなく、わずかに腰を引いて再び熱塊を打ちつけた。
「ア゛、ぐっ……」
勃起したクバルのペニスは長く太く、硬い。凶器のようなそれで中を穿たれると、腹が突き破られそうに感じた。男に尻を掘られるのは初めてだというのにクバルに慈悲や容赦はなく、ただ擦って射精して終わらせるための義務的な動作で抽挿を繰り返した。
これは王と女王が愛し合う性交などではない。結婚したという事実を作るための行為。王と女王であるということを示すための必要不可欠な儀式だ。
「し、死ぬ……ッ」
腰を鷲掴みにしガツガツと乱暴に腰を振るクバルは、実はブラッドを殺そうとしているのではないか。そう疑うほどクバルの犯し方は粗暴で、慈悲の一欠片もなかった。ブラッドが息も絶え絶えに漏らした言葉に、クバルはブラッドの肩を手でベッドに押しつけ言い放った。
「お前は死なない。お前はアステレルラ。ヘリオサが死ぬまでアステレルラも死なない」
快楽も色気も何もない床入り。低い呻き声だけが上がる行為は獣の交尾の方がまだまともだと思える非情さ。中を打ちつける衝撃にぐっと息を殺してたえていると、不意に中に埋まっていた塊が抜けていった。なぜと思う間もなく、身体を反転させられ仰向けになる。
「…っ、は」
王の猛々しい姿が、荒い息を繰り返すブラッドの無様な姿を見下ろしていた。狭すぎる器官に抜き差しし強引な快楽を得たクバルの一物は硬く反り返り、香油と先走りに濡れててらてらと光っていた。それを見てブラッドが得るのは興奮ではなく、純粋な嫌悪と暗鬱した感情だけだ。
「俺はお前の妻にはならない」
虚ろな瞳でクバルを見上げ吐き捨てると、王は浅く息を吐きながら首を傾げた。
「お前はもう俺の妻で、俺の民の女王だ。アトレイアには戻らない」
「アトレイアにだって戻りたくはない。……兄の顔も見たくはない」
「ならばここで務めを果たせ。俺はお前を毎日犯す。お前は俺を毎日受け入れる」
それが女王の務めだとでも言うのか。ブラッドの喉に思わず乾いた笑いが込み上げる。引き攣った頬を抑えようとすると卑屈に捩れた笑みになった。
クバルの手がブラッドの両の膝を掴み、左右に押し開く。すでに散々犯されたそこに勃起した王の一物が再び侵入してくるのをブラッドは瞼を下ろして待った。
抗うのは不可能。玉座に座る幻想を見るのも虚しい。許されるのは、たえがたい現状を受け入れることだけ。
「ふ、ぅ……は、っ」
ぐっと膝を上体の方へ押され、もとより内側から圧迫されていた腹部が苦しくなる。クバルはそれを気にもかけず、ガツガツと身体を揺さぶって中を穿った。徐々にその動きが速まり、同時にクバルの息遣いも荒いものになる。
何も見たくない。何も聞きたくない。ブラッドは視界を閉ざして、この拷問のような行為が早く終わることを祈った。
奥を突く間隔が長くなった。そう感じた途端、腹の中がじんわりと温かく濡れるのがわかって身体が震えた。クバルのペニスが何度かビクビクと震え、長い時間をかけて精液を吐き出す。
「……っ」
女ではないので孕むことはない。だが腹の中に男の子種を残されるのが、これほどまでに寒々しいものだとは。
その感覚にブラッドは唇を噛んでたえた。やっと解放されるのだ。
長い射精が終わり萎えたものが身体の中から出ていく。栓の抜けた穴からどろりと粘着質な液体が漏れ出るのに背筋が震えた。粗相をしたような不快さだ。
そろりと目を開けると、用の済んだクバルはベッドから下りて立ち上がった。そのままブラッドに一瞥をくれることもなく、裸のまま王と女王の部屋を出て行く。その後を王の従者の男女四人が追随していった。
ヤミールとカミールが近寄って身体を起こそうと手を差し伸べるのを、力の入らない腕で振り払った。
「ひとりにしろ」
喉が渇いてひりついている。水が飲みたかったが、それよりもまずひとりになりたかった。困惑している様子の双子に眉を顰める。
「聞こえなかったか。出て行けという意味だ」
掠れた声で絞り出すように強く言うと、ふたりは顔を伏せて立ち上がり、ブラッドをひとり残して部屋を出て行った。絹の幕が下りるのを見送って、ブラッドは瞼を閉じた。
「……罰」
これは罰か。ブラッドが祖国や弟にしてきたことに対する罰か。罪の意識もなく、民のためだと思って父を助け、弟を蔑ろにし、のうのうと暮らしていたことを責められているのか。誰に? クバルに? 神とやらに? ……そんな訳はない。
思わず喉が震え低く笑いを漏らすと深く咳き込んだ。
強引に犯された身体の節々が軋んで、ひとりでは身動きが取れなかった。何て無様で滑稽なのだろう。
きっとここが自分に相応しい地獄なのだ。
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