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知らせ*性描写

 こらえきれない吐息が、薄く開いた唇から零れ落ちる。強張った項に温かく濡れた感触、ついで柔らかく皮膚を吸い上げられる。ぴちゃ、と水音を立てながら舌は日に焼けた肌をなぞり、敏感な耳裏を撫でる。 「ん、……っ」  背中を駆ける震えに息を詰める間もなく、背後から熱塊が身体の中を再び穿ち始める。背中から腰までぴったりと密着したクバルの体温は高く、触れた部分からじんわりと汗が滲んでくる。ダイハンの夜よりは涼しいが、天幕の中にはやはり熱がこもる。 「アステレルラ……」  耳元に熱い吐息。快感から逃れようと伸ばした腕は捕らえられ、汗ばんだ掌に指の間を握り込まれる。身体の内側に絶え間なく押し込まれる熟んだ快楽に、形ばかりの抵抗を示す体力もいい加減底をついた。 「は、ぁ……っ、しつ、こい……」  硬い亀頭が割り入る腹の奥はすでにクバルが放った精液でしとどに濡れていて、彼が腰を動かす度にブラッドの中はじゅぷじゅぷと淫らな音を立てていた。  ダイハンを発ってから連日交わっているうえ、今夜も二度果てたというのにこの男の精力は衰えを見せない。ブラッドもすでに何度か達していて、下肢には力が入らず頭の奥もぼうっとしている。これで最後だろうと挿入を許したものの、まだ続くのであれば体力が持たない。 「早く、いけよ」 「まだだ」 「ぅ、っ……」 「少し休むか」  腹の下に腕を差し入れられ、俯せになっていた身体が横を向く。クバルのものは中に埋まったまま、太い腕で下腹を抱かれ身体の密着は解けない。散々出し入れされた穴の縁から精液が溢れ出しそうな感覚があり、無意識に引き締めると背後でクバルが息を詰めた。 「こんなんで休めるかよ……」  いっこうに萎えを見せないクバルのペニスが腹に埋まったまま、感じるか感じないか曖昧な悦楽の小波が押し寄せる。数回達したブラッドのペニスも、否応なしに与えられる刺激に再び勃起していて、できることなら扱き上げて早く楽になりたかった。だがブラッドの腕ごと背後から抱擁するクバルはそれを許してくれそうになかった。  体勢を落ち着けたクバルの吐息が、火照った項にかかる。 「平気か」 「ん……お前の体力に付き合うのは疲れる」 「すまない。だが、そうじゃない」 「……ん?」  首筋に、再び濡れた感触が落ちる。ちゅ、と弱く吸われただけでも、今の中途半端な状態では熱を煽る要因になる。 「っ、……やめろ」 「嫌か」 「そういうことじゃ、ない」  ツチ族との一件があって以来、屈服させられるための獣の交わりではなく、伴侶として抱かれるようになった。行為中のクバルの愛撫は、以前に比べれば過剰だった。自らの欲望ではなく、ブラッドに恍惚を与えるために身体中の感じる部分を舌で指でなぞる。反応を伺う視線にたえきれなくなってブラッドが目元や口元を覆うと、身体の上に被さって手を引き剥がしにかかる。それが毎晩だ。いっそ、肉欲を満たすためだけに犯される方がましだとも思う。  柔らかく耳の縁を啄みながら、クバルが低く囁く。 「明日には王都に着くんだろう」 「そうだな。夕刻は過ぎるかもしれんが」 「大丈夫なのか」 「……何がだ」 「緊張しているだろう」  兄に会うんだ、とクバルは呟いた。 「使者が来てから、アステレルラはずっと難しい顔をしている」  クバルに気づかれないように、ブラッドはひっそりと息を飲み込んだ。  アトレイア王国の第一王子ブラッドフォード・ロス・サーバルドが即位する。式典とその後の晩餐会に参列願うという旨の書簡が使者によって届けられたのだった。  ダイハンはアトレイアと友好を結んだ民族である。そして、ダイハンの王クバルの妻は、アトレイア王ブラッドフォードの弟シュオンである。参列を断ってアトレイアの顔に泥を塗ろうものなら、アトレイア王は決してダイハンを許さないだろう。ダイハンの王とダイハンの女王の来訪を心より願う。おそらく本人がしたためたのであろう流麗な字で書かれた言葉を読んだ時、思わず顔を歪めたのだった。  明日には王都に到着してしまう。王都サラディが近づく度に憂鬱が高まっていく。クバルの指摘は的確だった。 「確かに喜ばしい気分じゃねえな」 「お前を遠ざけるためにダイハンへやった男だ。会いたくないんじゃないか」 「会いたくなくても、ダイハンの代表として新王に挨拶はしなきゃならねえんだ。一度酌でもしに行って、あとは黙って飲んでいればいい。少しの時間たえていればすぐに終わる」 「……そうか」  今回の件は国と国の間のことだ。関係を悪化させるのは望ましいことではない。  クバルの声は腑に落ちていないようだった。ブラッドは薄く息を吐き、腹部に回ったクバルの腕に触れた。 「俺が悩んでいるように見えるなら、お前が忘れさせてくれよ」  熱い手の甲をなぞり、指を絡ませる。わずかに下肢を動かすと、繋がった部分からぐちゅりと水音が鳴る。首を捻って肩越しに見れば、クバルが口を引き結んで見つめていた。 「頼む」 「……わかった」  おもむろに背後の体温が動き、中に埋まっていたものが抜けていく感覚にブラッドは息を詰めた。身体を仰向けに倒され、開かされた脚の間にクバルが入り込む。失ったものを求めて収斂する肉襞の間を、熱い塊が再び押し進んでくる。  クバルを見上げ激しい抽挿を感じながら、ブラッドは恐れていた。自分が、シュオンとして祖国アトレイアへ帰ることを。シュオンとしてかつての臣下たちに迎え入れられることを。そして、偽りが露になってしまわないかと。胸に重石を抱えながら、王の腕の中で夜が過ぎていく。

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