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 同盟を結んだダイハンの者、しかも王の伴侶が王室の息女と姦淫の罪を犯したとなれば、友好関係はたちまち崩れ落ちる。  よりにもよって彼らがブラッドに犯させようとしている罪は殺人でも収賄でもない。殺人に並び個人の尊厳を踏みにじる醜い行為だ。この男は己の目的を果たすために、罪のない娘まで辱しめようとしている。 「無駄だ。俺がアイリーンを犯すことはない」 「心配なさらずともいい。準備はすべて我々でさせていただく。あなたはただ、そこに座って陰茎を起てているだけで十分だ」  アンバー候はおもむろに動き、ブラッドの下履きの留め具に手をかける。 「純粋なお姫様にはこう言うつもりだ。従兄の上に跨がらないとふたりとも殺すと。泣きながら従ってくださるだろう。その意味も理由も考えることなく」 「てめえの馬鹿げた計画のために無関係の者を巻き込むことに抵抗はねえのか、下衆野郎」 「あなたもこれから、婚前の乙女の純潔を散らす下衆になる」  身体を捩って抵抗を試みるが、下着ごとずり下ろされ勃起したぺニスが飛び出す。周囲の男たちが下卑た笑いを漏らし、己の意思で制御できない悔しさと羞恥にブラッドは唇を噛んだ。アンバー候は、赤く充血して先端を滲ませているブラッドのものを見て嗤った。 「ご自慢の立派な一物はすでに準備万端のようだ。あとはアイリーン様をお待ちするだけだな」 「……クソが」  掠れる声で悪態を放ち、アンバー候の足元に唾を吐く。丹念に磨かれた光沢のある皮が汚れる。候は「行儀の悪い人だ」と呆れたように一人ごちただけだったが、真横に佇んでいた騎士が腕を振り翳し、ブラッドの頬を打った。  パン、と乾いた音が広い空間に響き渡る。舌に血の味を感じながら、間もなく若い娘の悲鳴でこの部屋が満たされるのかと思うと、形容しがたい怒りが湧いてくる。  彼らの計画のために、自分と若い従妹の名誉が汚されるのだけは我慢ならなかった。 「っ……俺は、女を抱かない」  血の混じった唾液を嚥下して低く吐き捨てると、アンバー候は聞こえなかったように首を傾げた。 「何か仰ったか?」 「俺は、女を抱かないと言った」  候は眉を顰めるが、しばらくして得心したようで「ああ」と息を吐いた。 「あの蛮族の男との婚姻は建前だけではなかったということか。それでもう女は抱けない身体になった?」 「……アイリーンを連れてきたところで、無駄だ。この計画自体が見込み違いだ」 「あなたの仰ることが本当かどうか、確かめてみないといけませんな」  候が騎士を一瞥し頷くと、騎士はブラッドの下履きをすべて下ろして足から抜き、左の足首を掴んだ。膝が胸につくように折り曲げさせられると、隠れていた会陰の奥が眼前に晒される。候は騎士に足を固定しているよう指示し、皮の手袋を穿いた手で白い内腿に触れ、乾いた指先で閉ざされた場所をぐっと押し込んだ。 「い、っ」 「ここを使っているのか。おい、濡らすものを持って来い」  あらかじめ用意してあったのだろう、すぐに候の手には液体の入った小瓶が手渡され、小さなコルクを抜くと中の液体を直接ブラッドの秘所にかけた。冷たく、ぬるついた液体の上を皮の感触が這い、指先が狭い孔の中に入り込んでくる。  クバルやヤミール、カミールたちにしか見られたことのない、触られたことのない身体の内側を暴かれている。吐き気がするほど嫌悪している筈なのに、薬で強制的に欲求を高められている身体は律儀に反応し、体内に入り込んだ異物をきゅっと締めつける。 「う、ッ……」 「面白い。本当のようだ」 「胸糞悪い、抜け……」 「これは愉快だ。あの誇り高いブラッドフォード王子殿下は、蛮族の獣の女にされているようだ!」  蔑む視線が身体を這い、複数の低い笑い声が響く。砕けそうなほど奥歯を噛み、顔を背け、上擦りそうになる声を抑えながらブラッドは苦々しく言葉を紡いだ。 「わかっただろ……別の手を考えた方がいい」 「その必要はない。あなたが女の膣を突くよりもこの狭い穴を突かれる方が好みだというのは、些細な問題に過ぎない」  候が身を引くと、騎士はブラッドの肩を掴んでその身体を長椅子から乱暴に引き摺り落とした。硬い床へ頭を強かに打ちつけ、呻きが漏れる。涙の滲む視界で見上げると、アンバー候は同士たちを振り返っていた。 「少し趣向を変えよう。誰かブラッドフォード女王陛下を辱しめたい者はいるか?」  下肢に直接触れる床の感触は冷たく、高められた身体には心地よいが、そう感じたのも一瞬だった。候の発言に緑を見開き、無意識に足裏が床を蹴ろうとする。 「悪趣味だ……貴様は気が違ってる」 「あなたを恨み屈服させたいと思う者はいる。生憎私は男の身体を抱こうなどとは思わないが、抵抗がない者もいるようだ」  後退しようとする身体の上に、ひとりの男が跨がってくる。この中では最も若くブラッドと同等か年下に見える男の顔には、わずかながら見覚えががあった。眉を顰めるブラッドの顔の真横に、アンバー候が膝をつく。 「案ずるな、彼は紳士だ。乱暴にはしない。その姿をアイリーン様にも見ていただこう」 「……従妹には手を出さないと誓え」 「それではあなたがアイリーン様を犯したという証拠が用意できない。あなたが女を抱けない身体でも、事実だけはこちらで作らねば」 「は……」 「あなたと違って処女だ。簡単に出血するだろう」  彼らのしようとしていることを理解し、思わず上体を起こそうと身を捩るが、男に肩を床に押しつけられる。それでもブラッドはアンバー候を射殺そうとする視線を緩めることはなかった。 「本当のことが知れれば処罰を受けるのは貴様らだぞ」 「陛下には知られまい。たとえあなたが証言したとしても、陛下が肩を持つのはあなたではないだろう。多くの臣下も、当然あなたの言葉は信じない」 「王室の若い娘の心に一生の傷を負わせることになるのを理解しているのか」 「……あなたは頭の悪い従妹よりも自分の身を心配した方がいい」  アンバー候は立ち上がり、先程までブラッドが腰かけていた長椅子に腰を下ろした。他の者も蔑んだように頬を歪めながら、これから始まる見世物を見物するために足を組んで寛いでいた。 「ダイハンの女王陛下のことは貴殿の好きなようにしていい」 「感謝します、アンバー候」  一見したところ好青年に見える男は酷く冷静な声で礼を述べ、眼下で顔を歪めるブラッドを見下ろした。  別段珍しくもなくどこにでもいそうな、目尻の垂れた柔和そうな男に見覚えがあったのは、唇の端から裂けたような裂傷が走っていたからだった。

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