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懇願*性描写・流血描写
腰を押し進めようとするアーリス候の動きが止まる。ブラッドは目の縁を限界まで広げたまま、薄く開いた唇から細く息を吸い込んだ。
「いらっしゃったようだ」
男が身を起こし、ブラッドはようやく身体の力を抜いた。身体が快楽を求めていても、この男に犯されてしまったら自分の中の何かが崩壊してしまうような気がした。
しかし安堵には程遠い。長椅子に腰かけてブラッドの痴態を見物していたアンバー候が立ち上がり、部屋の扉まで歩いて行った。再度叩かれた扉に「ただいまお開けします」と、恭しく声をかける。扉の向こうに佇んでいるのは、高貴なる王室の令嬢だ。
その令嬢に、この男たちは最も醜く卑劣な行為をするつもりなのだ。そして、その罪をブラッドに擦りつけようと画策している。
「来るな、アイリー……ぐっ」
「お静かに」
アーリス候の手によって口を塞がれる。くぐもった呻き声を上げるブラッドに男はぐっと顔を近づけて囁いた。
「無駄だ。あなたは姦淫の罪で死刑になる」
「ふ、ぅ……ンんっ」
「この一物で、あなたはアイリーン様を犯した」
男の手がぺニスを弾く。毒のような快楽はまだ身体中を巡り、苛んでいる。こんな惨めな姿を従妹の目に晒すのも恥だった。
「彼女にはまず従兄の姿を見てもらいましょうか。男根で尻を突かれて女のように悦がる様を」
「ん……っぐ、う……」
アーリス候の身体によって見えないが、ついに扉の開かれる音がした。
絶望的だった。ブラッドも、アイリーンも、ダイハンも、終わりだ。クバルにも、ブラッドの犯す罪のために不名誉を着せ……無事に故郷へ帰れるかわからない。
「――何だ、貴様は!」
アンバー候の上擦った声に、腰かけていた諸侯たちの顔に動揺が走り、慌ただしく立ち上がる。
「何を持ってる、やめろ、近づくな……」
アーリス候が身を捻って立ち上がったことで、ブラッドにも全貌が見えた。詰襟の黒い衣服に身を包んだ褐色肌の男が、戸口に佇んでいる。
「クバル……?」
扉が閉まる。ぽろりと、痰の絡んで弱々しい声が零れ落ちた。
彼の手にはアトレイアの騎士が帯びている筈の剣が握られ、逆手では銀色の甲冑を引き摺っていた。否、それは甲冑を纏った騎士だった。
赤い瞳がこちらを一瞥する――瞬間、空気が変化したように感じた。鋭利な殺意によって満たされ、肌を刺すような緊張が走る。
物々しい金属音が響く。甲冑を纏った騎士の身体が投げ飛ばされ、後ずさるアンバー候の身体に衝突する。甲冑が覆い被さった候の脳天には剣先が突き刺さり、ぐしゃりと濡れた音とともに血飛沫が飛んだ。複数の男の悲鳴が木霊する。
「何をしている、我々を守れ!」
圧倒されていた騎士のひとりがようやく剣を抜いたが、遅かった。わずかに覗く甲冑の隙間に刃が突き刺さり、身をよろけさせる。間髪なく頭部へ刃が振り下ろされ、割れた断面から血と脳漿が飛び散った。
あまりに手早い殺しに、貴族たちは足を動かすことさえできずに立ち尽くしていた。助けを求めて叫ぶ男の首を横に薙ぎ、咄嗟に背を向けた男の胸を後ろから突き刺す。流れる体液が、床に血溜まりを作っていく。
「ひぃっ、来るな!」
アーリス候が喚いた。立っているのはクバルと、アーリス候だけだった。血に濡れた剣を携えて近づくクバルから、一歩一歩後退する。下履きがずり下がり、萎えたぺニスが剥き出しになったまま、候は震える声を必死に引き絞った。
「ま、待て、誤解だ、これは、貴様の妻の方がたぶらかしてきたんだ」
舌を縺れさせながら男は必死に弁明するが、クバルの動きが止まることはなかった。膝を震わせるアーリス候に近づき、血に濡れた手で、股間にぶら下がる一物を掴む。
「ぎゃっ」
「二度と使えないようにしてやる」
根本に剣が押し当てられてすぐに、断末魔が響いた。急所から大量の血を溢れさせたアーリス候が倒れ、その傍に切り取られたぺニスが転がった。びくびくと身体を痙攣させる男の頚部に剣が突き刺さり、動きが止まった。
息をする者の数が減り、静寂が支配する。立ち尽くすクバルが、長い息を吐いた。すべてを殺し終えた男は濡れた剣を投げ捨て、ブラッドの傍らに膝を突いた。
秀麗な顔とアトレイア式の上着には赤黒い飛沫が飛び散っている。血に濡れた手を下履きに擦りつけて手早く拭うと、横たわるブラッドの上体を起こし、裂けた服を申し訳程度に羽織った身体を力強い両腕で抱き締めた。
「アステレルラ」
喉で引き絞った声が呼んだ。温かい身体からは、アトレイアとは違う大地の匂いと、血の匂いがした。途端に視界にじわりと滲んだものが零れてしまわないよう、ブラッドは目の縁をいっぱいに開いた。
クバルの肩越しに、真っ赤に濡れた床と硬い表情をして息絶えた男たちの姿を見る。取り返しのつかないことをさせてしまったという後悔よりも、この腕に抱き締められる安堵が大きく勝っていた。
しばらくこの体温を感じていたかった。心を落ち着ける温度と匂いに包まれて、今や死んだ男たちから知らされた企みや、与えられた苦痛の記憶をなかったことにしてしまいたかった。
しかし、クバルの纏った絹の上着が剥き出しになった肌へ擦れる度に、燻った微熱がちりちりと呼び起こされ、自身への嫌悪と情けなさが込み上げる。
「手……取って、くれ」
しゃがれた声で頼むとクバルは身体を離し、項で縛られたブラッドの手首の戒めを解いた。長く拘束された腕は痺れ肘から下は感覚がなく、弛緩して肩から垂れ下がる。
かろうじて反応する右手を動かし、ブラッドは下肢に施された戒めを解こうとする。案外に強く結ばれた青い布の結び目は、力の入らない指先では掴むことさえできない。
「あ……、くそ……」
「俺がやる」
縺れる指先を褐色の手が掴んだ。痛々しげに瞼を伏せた表情には後悔と、そして憤怒が表れている。逡巡し、ブラッドは口を開いた。
「犯されては、いねえよ」
「……そうか」
それ以外は何も言わなかった。厚い唇を引き結び、クバルの手はブラッドのぺニスの根本を縛る布の結び目を解こうとする。
「あ……」
完全に変色してしまう程ぐっしょりと濡れた布の拘束が緩み、塞き止められていたものに血が通う。ぶわりと足裏から這い上がってくる衝動を抑えられそうにない。戒めが完全に取り去られると、今まで吐き出せていなかったものが溢れ出す。
「――っ!」
びくびくと何度かに分けて白濁が噴き上がり、等しく割れた腹直筋を汚す。吐き出しても射精した後の充足感は得られず、達しているのにまだ達していないかのような曖昧な絶頂感が続いている。
「ん、ぁ……っ」
吐き出すものがなくなってもぺニスの勃起はおさまらず、芯を持ったまま揺れている。痺れの抜けない手をぎこちなく操り、硬く起ち上がった自身を慰めるよう上下に扱くが、まともに握れない手では射精に至るまでどれだけかかるかわからず、もどかしさにブラッドは腰を揺らして自分の手にぺニスを擦り付ける。
「クバル……っ」
助けを求めて赤い双眸を見上げるが、クバルは唇を硬く引いて首を横に振る。
「こんな状態のお前は抱けない」
苦しげに拒否するクバルは、ブラッドがどのような薬を飲まされ、何をされ、身体が何を求めているのか理解しているようだった。だから尚更、凌辱紛いの行為をされた身体を抱き酷使するようなことはできないと、目を伏せる。
「頼む……」
「……できない」
浅く呼吸を繰り返しながらじっと訴えるが、クバルは自身のことを考慮して頑なに頷こうとしない。体内に蓄積したままの苦痛とも呼べる淫欲を早く解放したくて、焦れたブラッドは唇を噛んで切羽詰まった声音で言い放った。
「じゃあ、黙って、見てろ……っ」
助けてくれないのなら、自分でどうにかするしかない。そろりと脚を開いて膝を立て、濡れた秘所へ指を這わせる。散々弄られた中の肉壁が、どくどくと脈打って刺激を求めている。自身の指を差し入れた粘膜は熱く濡れていて、訪れた異物をきゅっと締め付ける。
「んっ……」
ぐちゅぐちゅと指を動かすだけで、敏感になった粘膜はそれを刺激と受け取って引き攣れる。もっと、とねだるように収斂し、指を飲み込むように妖しく蠢くが満足には程遠い。
いくらかは動くようになった左手を、勃起し続けるぺニスへ這わせた。親指と中指で作った輪でくびれをきゅっと締め、人差し指の腹で亀頭の先を擦る。蜜を溢れさせ続ける切れ目をなぞり、赤く熟れた秘肉を剥き出しにするように押し込めば、脇腹がびくりと引き攣れ、熱い吐息が漏れた。
「ぁ、う……っ、ん、あぁ……」
どうしてクバルがブラッドの居場所を知ることができたのか。連れてこいとアンバー候が言ったアイリーンはどうしているのか。確かめなければならないことはあるが、今はもう頭にはない。ただ、早くこの苦痛に等しい欲望から楽になりたいと、それだけを考えて自慰を施す。クバルの腕に支えられ、向けられる視線も行為の枷にはならない。
「は、ぁ……あっ、あ……!」
内側の感じる場所を探り当て、指先でぐりぐりと抉る。強い性感を受け取ったぺニスは止めどなく涙を流して喜ぶが、射精には至らない。身体の中と男性器を同時に慰めても、限界近くまで追い詰められた身体は悲鳴を上げるだけで決して楽にはならなかった。
「ひ、うっ……、いけ、な……ッ」
何で、と泣き言のような情けない声が喉から漏れる。達することのできない苦しさに、ブラッドは目元を潤ませた。陰嚢はぱんぱんに膨れ上がって、迫り上がる精液を放出したいと訴える。赤黒く充血した竿は太く血管を浮き上がらせ、痛々しいほどに脈打っている。それでも絶頂を迎えることができない。
荒く息を吐きながら、ブラッドは身体を支える腕の主を濡れた緑でそっと仰ぐ。
「クバル……っ」
薄く開いた唇の合間から、舌が縺れそうになりながら喉を引き絞って訴えた。
「俺を、抱いてくれ……」
お前の手でないと楽にはなれないと、息を詰まらせながら懇願する。恥も矜持も、この時ばかりはどうでもよくなっていた。クバルの手で触れて欲しい。身体の奥まで容赦なく荒らして欲しい。抱き竦めるばかりでなく、その太い腕で掻き抱いて求めて欲しいと、赤に汚れた服の裾をぎゅっと握った。
クバルは細めた赤色を、そっと伏せる。唇の隙間から長く息を吐き出すと、まるで恐れるように、ゆっくりと腕を動かしブラッドの下肢へ触れた。
「あ……!」
先程まで戒められていたぺニスの根本を、ぎゅっと掴まれる。そのまま強い力を込めた手で、下から上へ絞るように扱かれ、内腿がびくびくと痙攣した。
「ぃ、あ……っ、あぁ、ん……!」
痛みを感じるほどに強く握られているのに、情欲に熟みきった身体は快感しか受け取らない。先に放った精液と先走りで滑りはよく、クバルは手を大振りに動かし柔らかな睾丸ごと擦り上げる。
「ふ、……ん、クバル……っ」
「……っ」
「……ッ出る、……あ、ぁっ、出る、ッ!」
びくびくと引き締まった下腹が震え、膨らんだぺニスの先から白濁が勢いよく吹き出る。一度射精したにも関わらず、びゅっ、びゅっ、と濃い色の精液がクバルの手の動きに合わせて放たれ、ブラッドの胸まで飛び散った。
強すぎる刺激で達したブラッドは胸を喘がせて息を落ち着けようとするが、その合間にも精を吐き出した筈の自身は再び芯を持ち始めている。
「っ……嘘、だろ……」
下腹を重く痺れさせる淫靡な欲望は、まだ消え去らない。手の甲で息を押さえながら下肢を見下ろせば、射精前と同じように天を向いているのだ。
「アステレルラ」
やけに静けさを湛えた低い声がブラッドを呼んだ。
「ん……」
「奥の部屋は寝室か」
簡潔な問いに、小さく頷く。クバルの眇めた赤色が、隠された感情を露わにして揺れる。
ふわりと、身体が浮き上がった。腰と、膝の裏に腕を回され、横抱きにされている状態だった。
「こんな血生臭い場所ではお前を抱けない」
険しく顰められた眉の下にある赤い瞳は、観念したように欲情の色を浮かび上がらせていた。
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