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慰め*性描写

 かつてブラッドが執務を行っていた部屋は、濃厚な鉄錆の匂いが立ち込める。もの言わぬ身体が複数転がる床には血溜まりが、壁の一部には赤黒い飛沫が散り、この場所で何が起こったかは誰が見ても明らかだった。  部屋の奥は寝室になっていて、前室とは異なって噎せ返るような血の香りはないが、閉めきられていたためかやや湿った匂いが鼻につく。こちらもほとんどの家具が取り払われていたが、壁際の天蓋つきのベッドだけは残っていた。  寝室は薄暗く、曇った小窓から差し込む月明かりだけが唯一の光源だった。曖昧な輪郭の光がぼんやりと降りる寝台の上に身体をそっと下ろされ、やや黴臭くひやりとした感触に身体がたじろぐ。胸で浅く呼吸をしながら仰ぐと、汚れた上着を脱いでクバルが寝台の上に乗り上げ、ブラッドの身体の横に腕を突いた。  身体の中が酷く疼いて仕方がなかった。影の差す表情を見上げながら、膝を立てた脚をそろそろと開く。 「入れて、くれ」  自分から何かをこの男に懇願するのは初めてだ。それも、浅ましく股を開いて尻の穴に男根を入れて欲しいなどと。ダイハンに嫁いだばかりの頃は、支配されるためだけに行われるその行為が何よりも苦痛だったのに、今は違う。  薄く開いた唇の合間から赤く濡れた舌を覗かせて哀願するブラッドを、クバルは笑うことはせずに、熱を帯びた頬を手の甲でなぞった。  性急に挿入しようとはしなかった。視線を下へ落とせばクバルの下履きの前は膨らんでいて、ブラッドも早く与えられることを望んでいるのに、その行為に移ろうとしない。 「早く……、っん」  気が急いたブラッドが訴えると、剥き出しの首筋に温かく濡れた感触があった。萎縮して強張る筋肉の上を舌先がなぞり、柔らかく吸う。それだけでじわじわと得体の知れない甘やかな感覚が腰を痺れさせる。ちゅ、と鎖骨を吸い、クバルの頭がその下へ下りていく。 「っう、……あ、っ」  肌に飛び散る白濁を舌先が舐めとる。熱を帯びる肌の感覚を煽るように、盛り上がった張りのある筋肉の縁をなぞり、小さな突起を唇の先で掠め、ブラッドの肌をびりりと粟立たせる。  舌先で施される曖昧で優しい愛撫に、ブラッドはベッドの上で身を捩らせた。即物的な刺激がなくとも、興奮はますます高まっていく。  濡れた唇が硬い腹直筋を覆う薄い皮膚を撫で、窪みをなぞる。さらに下降して薄く血管の浮き出る下腹に吸いつくと、クバルの顔の横にはだらだらとはしたなく先走りを溢し続けるペニスが揺れていた。  何度も射精したのに、身体の疼きも、勃起も治まらない。だから早く抱いて、身体の奥を滅茶苦茶に暴いて欲しいと願っているのに、叶わない。 「クバル、頼む……早く……、ンぁ、あッ」  期待に揺れるペニスの先端が熱いものに包まれて、ブラッドは悲鳴を掌で覆った。ひりつくほど敏感になった亀頭が、クバルの口に含まれている。赤い舌と白い歯が見え隠れし、顔の熱が耳朶にまで広がるのを自覚した。口の中の粘膜は熱くねっとりと濡れていて、膨らんだ欲望を優しく包み込んでくれる。  あのダイハンの王に……クバルに、口淫されている。その事実だけで性感が酷く高まり、ぞくぞくと背骨に震えが走る。 「や、め……っ、お前に、そんなこと……ッ」  震える声で制止するが、すぐに音を飲み込んだ。尖った舌先が先端から溢れる蜜を掬い、ひくつく小さな穴を何度も舐めとる。赤い秘肉を露わにさせるようにぐりぐりと捩じ込まれ、横顔を黴臭いシーツに押しつけて呻いた。 「っひ、ぅ……はな、せ……っ、ァあ……!」  そんなに何度も先端を舐められたら、強く尿道を弄られたら、すぐに達してしまう。やめろ、と声にならない声で訴えるが、クバルはブラッドのぺニスを咥えたまま離さず愛撫を続ける。腰がぞくぞくと震え射精欲が高まった時、亀頭をじゅば、と強く吸引される。 「ア、ぁあっ……!」  瞬間的に高まった絶頂感を、爪先をぎゅっと丸めてやり過ごす。どくどくと音が聞こえそうなほど張り詰めたぺニスが震え、尿道を這い上がる精液が外気に触れることはなかった。  クバルの口が受け止めている。射精する間、それを考えて羞恥が込み上げるが、止めることができない。 「っふ、……あ……」  すべて吐き出し、ブラッドは身体を弛緩させて呼吸を整えようと息を吐く。その間、芯を失って柔らかくなったペニスの先をぢゅう、と吸われ、尿道に残る白濁が強制的に排出される感覚に身体を震わせていた。  ペニスを包む粘膜の熱さが離れ、涙の浮かぶ視界を向けると、クバルの喉仏が上下し嚥下する瞬間が目に入り、顔が発火したように熱くなる。 「お前、飲んだ……のか……」 「……アステレルラのなら」  平然と言うクバルは、しかし喉に張りつく苦さを落とすようにわずかに眉を顰めながら再度喉を動かし、濡れた唇を手の甲で拭った。  誇り高い、ダイハンの誰もが平伏するヘリオサに、ペニスを口で愛撫され、さらに精液まで飲ませた。その事実に羞恥心やら背徳感やらが込み上げ、いたたまれなくなる。 「お前も前に同じことをしただろう」 「そうだが、あれは……」  王を手玉に取れるとヤミールに言われ手解きを受け、初めてクバルを押し倒した夜の記憶が甦る。男の一物を口に含むことには躊躇いがあったし、飲精もしなかった。今のクバルの愛撫と呼べる行為とはまったく違う。  深く吸い込まれそうな瞳から逃れるように視線をさ迷わせると、クバルの下履きが窮屈そうに布を張っているのが目に入る。ブラッドの濡れた視線に気づいたクバルは、どこか気が咎めるように眉間を寄せながら、下履きの隙間に手を入れ、すべて脱ぎ去った。 「……っ」  脚の間で聳え立つ雄の形が露わになる。自身の痴態に欲を駆り立てられ勃起したぺニスは、十分な硬さを持って反り返っていた。あの大きく硬く、熱い塊に中を埋められ穿たれれば、声が引き攣れるほど深く満たされることを知っている。  脚を優しく割り開かれ、間にクバルの身体が入ってくる。十分に柔らかくなり、期待するように収縮する秘孔へ濡れた切っ先が触れただけで、ブラッドは恍惚の息を漏らした。自分の手で慰めるだけでは到底鎮めることのできない獣欲を、この男が満たしてくれるのだと。 「本当は、こんな形でお前を抱きたくはない」  苦しげに吐露する声にゆるゆると頭を振って、ブラッドはクバルの褐色の腕にすがるように手を伸ばした。 「俺は、お前に来て欲しい……今」  早くその体温を感じたくて、肩を引き寄せる。同時に、柔らかく開いた孔にぬぷ、と太い亀頭が埋まり、熱い吐息が漏れる。  クバルでない男に服を裂かれ、クバルでない男に身体を弄られ、クバルでない男に中を開かれるのは恐ろしく、形容しがたい嫌悪があった。お前でないと駄目なんだと口内に転がした言葉を発する前に、繋がりがより深くなり、身を襲う快感に目の縁を大きく開いた。 「ン、ぁあ、……あ、――!」  熱い楔が中を埋めていく。蠢く肉壁を割いて、奥へと進んで行く。張り出た亀頭が腸壁をずるりと滑る感覚に、ぞくぞくと瘧のような快感が背筋を這い上がる。ひたり、と尻たぶにクバルの腹部が触れ、すべて収まったのだとわかる。 「はぁ、あ……っ」  ぬちゅ、と濡れた音を立てて腹の奥を小突かれる。わずかに腰が離れ、そして再び尻に熱い肌が触れる。その動作は気が焦れてしまうほど緩慢だった。  軽く身体を揺さぶるような抽挿が繰り返される。中に埋まる熱塊は腹の奥を押し広げ甘やかな快楽を植えつけるが、それだけだった。 「う、ぅ……ッ、あぁ……」  腹で反り返るペニスの先から白濁が溢れ落ちて肌を汚す。クバルの抽挿はあくまで労るように優しい。高められた身体では、物足りないと感じるほどに。 「辛いのか」  低く穏やかな声が落ち、クバルの硬い指先がブラッドの目元を拭う。温く濡れた感触に、知らぬうちに涙が溢れていたことに気づく。 「やはり、どこか傷つけられたのか」 「ちが、う……っ」  案ずるように目を細めるクバルの表情を滲む視界で仰ぎ見ると、焦れったく感じていた律動が止む。 「お前の身体に無理をさせたくない」 「っ止める、な……」 「けど泣いている」 「……激しく、してくれ……壊れねえから……、今みたいのじゃ、全然、足りねえ……」  酷い渇きに襲われている。薬を盛られた当初よりも、興奮は増しているように思える。腰が揺れ、腹の中に埋まったままのものを飲み込むように熱く熟れた粘膜が蠢く。無意識でなく、意識的に身体がしていることだと自覚がある。  はしたないと思われようが構わない。労りなど必要ない。今だけは、身体が軋むほどに激しく抱いて、止まない飢えを満たして欲しい。それだけを望み、褐色の腕に縋る。  クバルは深紅を伏せて、深く息を吐いた。ぽつりと、短く言葉を呟いたがそれは共通語ではなく、ブラッドには理解できなかった。 「何……、ひ、あ、あああッ」  一度引き抜かれた楔が、一息に奥まで貫く。目の前が眩み、何度も射精したぺニスから、飽くことなく再び白濁が噴き上がり胸を濡らした。 「っ……アステレルラ」 「な、…んッ、あぁっ……ぅ、奥まで、当たって……ッ」  ぐっと膝裏を強い力で押さえ込まれ、そのままクバルの身体が覆い被さってくる。繋がりがより深くなり、太く硬い切っ先が腹の一番奥をごりごりと抉る。耳元にクバルの荒く湿った息づかいが触れ、項がぞわりと粟立つ。  達したばかりで引き攣る肉筒が、ばちゅん、と再び穿たれ、ブラッドは口を覆う指の隙間から悲痛な喘鳴を上げた。 「ひっ! っあ、また、……っくる、…あっ、――ッ!」  びくびくと中が波打って、果てしない絶頂感が襲う。柔らかいままのぺニスが勢い良く射精することはなく、薄く濁ったものをとろりと力なく吐き出すだけだった。瞬間的に高まった性感が引かず、ずっと達しているような、苦しいほどの快感が断続的に襲ってくる。  言葉もなく、ただ引き攣った音を漏らす間も、抽挿は続いていた。 「んっ、あ、う…ッ、へん、だ……っ、ずっと、いってる……!」 「大丈夫だ、……息をしろ」 「ふ、ぅウ……っは、あぁ、ん」 「……っ、う」  どくん、と腹の中のクバルのものが脈打って、熱いもので腸壁が濡れていく。びゅ、びゅ、と精液が注ぎ込まれる間も、熟れた粘膜は雄を搾り取るように引き締まり、淫靡に蠢く。緩んだ隙間から溢れそうなのを、逃すまいと身体が勝手に反応する。 「っ……アステレルラ、また……」 「あ、ッ! う……中、熱い……っ」  ぎゅう、と引き絞った体内で再び雄の形を感じ取る。達したばかりなのに再び硬さを取り戻したクバルのぺニスは、酷く脈打って、熱かった。触れた粘膜が溶け出て合わさり、ひとつになってしまうのではないかと思うほど。その熱い塊が、しとどに濡れた腹の中をぐるりと撹拌すると、ぐちゅりと淫らな水音が密着した下肢から聞こえてくる。 「…クバル、っ足りない……まだ……」  互いの腹の間で強く擦れたぺニスは勃起を示していないのに、性感を受け取るとぐずぐずになった先端の割れ目からとろりと薄い色の体液を吐き出す。自分の身体が正常には程遠い状態であることに恐れを感じる余裕などなく、ブラッドの言葉で再び中を穿つクバルの腰の動きに、もはや抑えることを止めた喘ぎが充血して嗄れた喉から出てしまう。 「お前が満たされるまで、抱いてやる」  耳元に落ちた掠れた色香。くすんだシーツを握り締めていた両手を絡め取られ、指の間を強く握り込まれる。全身を余すところなくクバルの匂いと体温で包み込まれ、瞬いた深緑のあわいから生温い滴が伝って落ちた。

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