59 / 75
ブラッドフォード*性描写
ブラッドも夢中で食らいついた。冷たかった厚い唇は唾液に濡れ、すでに熱を持っている。下唇を食み、開いた隙間から現れた舌を柔らかく噛み、吸う。鼻に抜けるような音を出したクバルは、捕らわれた舌をブラッドの口の中に侵入させ、口腔内を荒々しく舐めた。
「っは、……ん」
ぞわりと項が粟立ち、震えが走った。
愛しくて堪らなかった。王の責任を果たそうと自分に刃を向けた男が、その決意を覆して自分を抱き締めた男が、ブラッドは痛切に愛しいと思った。
もっとクバルを感じたい。唇を合わせることを覚えたばかりの少年のように、口端から唾液が溢れるほどに必死に縋った。
互いの唇を貪りながら、クバルの手はブラッドの胸元を這う。衣服の留め具を外そうとする性急な手つきは常に平静を保つクバルには似つかわしくなく、異様な興奮を覚えた。
鼻で呼吸をし、唇を触れ合わせたまま、ブラッドの手は手間取るクバルの手を掴み、もう片方の手で衣服の合わせを剥いで強引に留め具を外した。上着と、中のシャツもすべて外して前を開けると寒さに鳥肌が立ったが、乱暴に袖を抜いて地面に落とした。
わずかに顔を離し、一度息を吐く。今までにないくらいに興奮していたが、血に濡れたクバルの肩が目に入るとにわかに高ぶりが息を潜める。
「俺が斬った肩……」
「問題ない。お前に触れるのが先だ。……それより、持っていたのか」
クバルの手が硬い胸の上を滑り、熱くなった肌の上の白く小さな石をなぞった。細く編まれた紐に指をかける。
「ああ……持っていた。お前に貰ったものだ」
かすかな動きだったが、クバルの引き結んだ唇の端が笑んだ。初めて見る表情だった。クバルは首飾りの石に唇を寄せ、鎖骨に軽く歯を立てる。筋の浮き出る首に口づけて、再び唇同士が触れ合った。
急くクバルの手が、ブラッドの腰のベルトを抜こうとする。ブラッドも、クバルの麻の腰紐を解いて強引に脱がせた。足首まで落ちた下履きから足を抜いて邪魔だと蹴飛ばす。
すでに互いに兆していた。ぐっと腰を寄せると半ば起ち上がったもの同士が触れ合い、下腹に浮き出た血管がびくりと跳ねる。
互いのものを擦り合わせ、扱いた。形容のしようがないほど興奮していて、クバルの手に触れられただけで達してしまいそうだった。
「ン、……っ」
漏れ出そうになった声がクバルの口の中に吸い込まれる。不規則に口づけを交わしながら、硬く反り返るペニスを扱く。限界が早く訪れることはすぐにわかった。腹の底と睾丸が苛立ったように熱くて、先端からはすでに先走りが溢れている。そのせいで滑りがよくなり、快感が加速する。
「クバル、もう……っ」
「ああ、俺もだ……」
ざらつく掌で亀頭をぎゅっと包み、強い力で扱く。呆気なく弾け、先端からどぷりと白濁が溢れた。余韻に浸りながら惰性のまま竿を絞り、高揚し吐き出す息を吸い込むように口を合わせる。
熱く濡れた舌を絡ませる。触れる体温はすでに熱くて、寒さはとうに忘れていた。降りしきる雨の音も、馬の悲鳴も聞こえなくなっていた。
「っふ、……ん、……」
奪い尽くすような激しい口づけ。舌先を強く吸われると下腹には解放したばかりの熱がずんと蓄積する。獣のような呼吸をし互いの唇を吸いながら、ゆっくりと膝を折る。雨に濡れた衣服の上に腰を落とし、粟立つ背筋を濡れた石床につけた。
「は、……クバル……」
首筋を這って下りていく熱い舌の感触が堪らず、濡れた息を吐く。臍の下を舐められ爪先が跳ねる。大腿の切創を見たクバルの動きが止んだ。
「……脚を斬られたのか」
「ああ……だが大した傷じゃない。お前と同じだ」
今はそれよりも大事なことがあると、膝を立てて促した。クバルも興奮には逆らわなかった。
膝を手で割り広げられ、再び勃起したペニスには触れることなく、会陰を辿ってその先の窄まりへ濡れた指先が触れる。硬い指の腹で押し開き、太く骨ばった指が身体の中に入ってきた。
「あ……」
毎夜のように抱かれていたから、実に久しぶりのように感じた。わずかにブラッドが身を硬くすると、クバルは晒された胸や腹をあやすように撫でた。緊張が緩んだ隙に、指を進めてくる。
中を開かれ身悶えるブラッドを、クバルは獲物を見定める鷹のように熱心に見つめた。ブラッドも、熱に浮かされ濡れた緑の瞳で見上げた。
また、触れられるとは思っていなかった。その熱を感じることは二度とないと思っていた。ダイハンでともに過ごしたことは、本来起こりえなかったことで、誤りだったのと、自身に言い聞かせなければならないのだと思った。
けれど今、クバルはブラッドの目の前にいる。偽りでも幻影でもなく、本物だ。ブラッドをアステレルラとして慈しんだように、今も手に触れて感じている。
堪らなくなって名前を呼んだ。するとクバルの汗ばんだ手が頬を撫でる。
「早く、してくれ」
胸で呼吸をしながら頼んだブラッドの言葉に、クバルは首を傾げた。二本になって中に再び侵入した指が、ペニスの裏の辺りを柔らかく押し上げる。じわりと広がる甘やかな感覚に、熱い吐息が零れ出た。
霞む視界でクバルの下肢に視線を這わせると、一度射精したクバルのペニスはブラッドのものと同じように血管を浮き上がらせて、再び硬く反り返っていた。先端から先走りを漏らし、酷く興奮しているのがわかった。
「クバル、早くしろ……」
堪らなく欲しい。急く気持ちが滲み出て、懇願するような声色になる。
「まだ辛いだろう」
「いい……早くお前が欲しい」
頬をなぞる手を掴み、指先に唇を寄せる。昂りを抑えられず要求するブラッドの熱を孕んで掠れた声を聞いたクバルは、何も言わずに後孔から指を抜いた。十分でなくとも受け入れるに問題なく解れた腸壁は、これから与えられる愉悦に期待して引き締まる。中の粘膜がひくつき収斂するのを感じた。
「ブラッドフォード」
吐息とともに名を呼ばれる。額に張りつくブラッドの短い前髪を、硬い掌が掻き上げる。艶やかな黒髪から落ちた雨粒が、ぽたりと頬の上に水滴を作る。真っ直ぐに見下ろす赤い宝石を見上げた。同時に、指よりも熱くて硬いものを濡れた窄まりに感じ、期待に息を飲んだ。
「ゥ、……」
ぐ、と穴を押し広げるようにして、指とは比べものにならない質量が身体の中に入ってくる。無理に広げられた縁が痛くて、圧迫される内蔵が苦しい。しかしクバルを受け入れる歓喜を覚えていた身体は、多少の苦痛を訴えながらもゆっくりと飲み込んだ。
「は、ぁ……っ」
すべて収まったのがわかった。短く息を吐きながら、自分でもほぼ無意識に腕を伸ばすと、クバルの上体が近づく。胸に体温が触れて、安堵のようなものが広がる。汗の滲む額に、ちゅ、と唇が触れた。
「ブラッドフォード……また、お前に触れたかった」
切ない声色に、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされて胸が苦しくなる。
「ブラッドで、いい」
「……ブラッド」
目の奥がじわりと濡れるような感覚に戸惑った。額から下りてきた唇が、目元に、頬に、鼻先に口づけをする。ああ、とこらえきれない嘆声が漏れた。
クバルから名前を呼ばれることに、切なくなるほどの幸福を覚えると知りもしなかった。不意に訪れた愉悦に、胸の奥が熱くなる。満たされる感覚に言葉は何も出ず、応えるようにクバルの唇に食らいついた。
「ん……」
やっと陶酔に浸れる。ヘリオススの王の住まいで、夜に張られた天幕の中で、アステレルラとして慈しむように抱かれても、抱えている秘密が重石となって邪魔をしていた。クバルのすべてを受け入れるには罪悪感が勝り、完全な恍惚を得るには一歩及ばなかった。
もう隠すことは何もない。ブラッドが何者だろうが、クバルの思いは変わらないのだと、彼が自分の名前を呼ぶ声色で知ることができた。
「ブラッド」
目元に、顎先に、唇が降る。緩やかに突き上げが始まった。
「っあ、……!」
ずちゅ、と柔らかく解けた腸壁をペニスが擦り上げる。溢れた先走りと腸液で湿った粘膜は、熱い剛直に絡みつき、太く浮き出た血管やくびれの形まで感じ取ろうとする。堪らずに、クバルの濡れた背を掻き抱いた。硬い亀頭が腹の内側を抉った時、下腹に重い痺れが生まれた。
「……う、っア、あ」
行き場のない熱が蓄積していく。ブラッドのペニスは、腹の間で限界まで勃起して、膨らんだ亀頭の先から涙を流していた。陰嚢が精子を出したいと引き攣って、尿道がじんじんと痛いくらいに痺れている。びくびくと震える怒張を、濡れた褐色の掌が包み込んだ。
中を穿ちながら、クバルの手は熱い竿をぎゅっと掴んだ。透明な滴を漏らし続ける割れ目を指の腹で捲るように強く擦り、溢れる粘液をまぶして赤黒く充血した亀頭をざらついた掌で撫でる。直接的で強すぎる刺激に、ブラッドは喉を引き攣らせ喘鳴を上げた。
「は、ァ、あ……ッ! クバ、ル……!」
「っ……いきそうか」
「いや、だ……、お前も……っ」
中に埋まった熱塊を、ぎゅうと締め上げる。クバルが耳元で息を詰めた。まだもう少し、一緒に悦楽を共有していたい。先に果ててしまうのは嫌だった。
息も切れ切れに訴えると、口を塞がれて苦しくなった。だが、そのおかげで悲鳴を上げることはなかった。急に激しくなった抽挿に、薄く開いた視界がちかちかと点滅する。
「ふ……ぅ、っん、ン!」
ばちゅ、と中を深く貫かれ、腹の奥がくにゅりと広がるような感覚がした。硬い切っ先が、一番奥を突いている。行き止まりのそこを掘削されて、背筋と腰に鋭い電流が走り、足の先が跳ねた。
今までに経験したことのない感覚で、一瞬、気が飛びそうになった。苦しくて堪らない筈なのに、正体がわからなくなるほどの快楽が襲う。頭が混乱して、ただクバルにしがみついていることしかできない。
熱く湿った舌が唇を這う。訳がわからないままにそれに応え、舌を絡ませた。目元を指先で擦られて、涙に濡れていることに気づく。
「ブラッド……っ」
何か弾けたように頭の中が真っ白になる。全身が強張り、腹の中のものを締め上げた。深く穿たれ、声もなく達した。限界を訴えていたペニスの先から、どくどくと白い粘液が溢れる。狭い尿道を精液が抜ける感覚が堪らなく気持ちいい。同時に、身体の中に埋まったペニスが震え、濡れる感覚があった。飢えた獣のように荒い息を吐きながら、その吐息さえ食い合うように唇を貪った。
「ぁ、…はぁ、っ……ン……」
汗ばんだ肌を合わせながら、しばらく快楽の余韻に浸っていた。不思議なことに、波が引かない。射精したのに、ずっと達しているように下肢がじんじんと痺れて、腸壁が放たれた精を搾り取るよう収縮を繰り返している。
たえ忍んだ欲望を解放しても、まだ離れたくなかった。できることならずっとこうしていたいと、ブラッドはクバルの首を抱いた。
「……平気か」
濡れた額に熱い唇が押しつけられる。胸を喘がせながら、ブラッドは浅く頷いた。背の下に腕が差し込まれ、上体を起こされる。胡座を掻いたクバルの上に座る姿勢になると、繋がったままの秘所から精液が溢れ出る感覚があった。それさえ惜しく感じ無意識に逃すまいと後孔を締める自身が、なぜか突然女々しくなってしまったのがおかしくて、ブラッドはクバルの肩に頭を預けながら低く笑った。
「何が、おかしい?」
「いや……俺は、お前から離れたくないんだと、思って」
訥々と話し、ブラッドはクバルの額に触れて濡れた前髪を掻き上げてやった。汗を滲ませる顔は上気して、赤い瞳は熱に潤んでいた。
「アトレイアでお前に置いて行かれた時、心臓を杭で打たれたようだった。あの時に勝る絶望はない……ダイハンに嫁いだ日に感じた以上だ」
打ち明けると、クバルは沈痛にたえるように軽く瞳を伏せた。
「待ってくれと叫びそうになった……まさか俺が、呼び止めようとするなんてな」
「ブラッドフォード……」
「怖くてお前の顔も見られなかった。心残りもなく去って行くお前の後ろ姿しか……」
ブラッドの頬を包み、唇を軽く啄むと、クバルは額をこつんと合わせた。
「心残りだけだった。ダイハンに帰ってから、考えるのはお前のことばかりだった」
「本当か?」
「ああ。お前を置き去りにしたことは……正しいことだと、自分に言い聞かせて納得させたが、ヘリオススでも、ずっと迷っていた」
王としての責任を果たすべきだと、報復すると誓った言葉に背くべきではないと己の決意を貫く一方で、考えていたのだろう。苦しげなクバルの声音からは葛藤が痛いほど伝わってくる。
「まさか、ここへ来たアトレイアの国王がお前だとは思わなかったが……ずっと考えていたことがある。お前と会うことはもうない、けれどもし、また会えたら、俺は許してしまうかもしれないと……そして、もう一度、一緒にいて欲しいと、願ってしまうかもしれない」
クバルは腕を伸ばし、濡れた床に蹲ったままの衣服を手繰り寄せた。自身の下履きの皮袋の口を開き、中から何かを取り出す。
それは白い花だった。茎も葉も花弁も白色に縁取られた、乾いた南の地にだけ咲く花だ。
「アステレルラでなくなった者を再びアステレルラにすることはできない。けれど、俺はお前にともにいて欲しい。ブラッドフォード」
王が婚姻の際に女王に贈る、一年に一輪咲くかもわからない、奇異な見た目の花を、クバルはブラッドの胸の前に差し出した。それは悩んだ末の覚悟だった。胸の奥が熱くなり、息切れする感覚があった。震える喉に唾を押し込み、ブラッドは口を開いた。
「俺も、お前とともにいたい。女王でなくても、お前の伴侶じゃなくてもいい。ただお前の傍にいれればそれでいい。……王のお前を助け、そして背中を守ってやる。約束する」
ブラッドは茎を持つクバルの手に自身の掌を重ね合わせた。聖堂の神々の御前でも、赤い大地の婚姻の儀でもなかったが、決して違わぬよう誓った。命がある限り俺はお前とひとつだと、固く約束した。
ともだちにシェアしよう!