5 / 122
第5話 契約反故
「はい、これ契約書ね。ここと、ここに名前書いて。現金支払いで、三本って事でどう?」
監督と呼ばれた人が指を三本立ています。三万円……大学生にしては大金です。それにあんな動画が出回った日には生きていけないことは間違いありません。
「顔……絶対に解らないですよね?」
念には念を入れよです。しっかり確認しておかないといけません。
「おーい、メイク入れて」
鞄を持った女性がずいと近づくと、いきなり髪に茶色のスプレーをかけられました。そして顔を隠すように伸びきった前髪を持ち上げられ、ワックスとスプレーで整えられました。
眉の形を整えられ、茶色いコンタクトを入れられました。
「どう?」
その女性に得意げに鏡を見せられてびっくり!だ、誰?これ本当に自分の顔なの?
「おや、かなり可愛いね。さすが香月ちゃんだね、見る目あるね。いい原石、乳首の色も綺麗だし、こりゃかなりいけるなあ」
薄くて短い検査着を一枚だけ羽織った情けない格好じゃなければ、かなりいけてる?うん、可愛いって、喜んでしまうなんて……。
「俺の思ってた以上だな、これは楽しみだ」
綺麗なその男性は本当に嬉しそうですが、一体何の楽しみでしょうか。怖いです、これから何が起こるのでしょうか?
「監督、今回の台本通りだと無理だよねこれじゃ」
「うーん、そうだな。任せるから流れで撮って行くか。本当の初体験だからそれなりに価値出るでしょ。香月ちゃん、腕の見せ所だな」
「もちろん、張り切らせてもらうよ。かなり可愛いし、楽しそうだよね?」
同意を求められても答える術はありません。僕を独りおいてどこへ話は進むのでしょう。何をどうするんでしょうか?僕はどうすれば生き延びられますか?聞きたいことは山々ですが、何も質問する猶予はなさそうです。
「将生、始めようか?こっち来てちゃんと洗浄してあげるから」
洗浄?何をって聞いた方がいいでしょうか?聞かない方が幸せでしょうか?ずるずると香月さんに引き摺られバスルームへと向かいました。
この先は……言えません。親にも誰にも言えません。あんなに情けない思いをしたのは生まれて初めてでしたから。
「何、いじけてるの?ちゃんと洗わなきゃ突っ込めないでしょう」
そうですか、そうかなとは思っていましたが。僕の役割はそうなのですね。
「やっぱり……無理です。お願いです帰してください!」
監督がにやりと笑いました、気味悪いです。
「契約書、サインしたよね?契約反故かなあ。違約金二百万って記載されてたよね。払ってもらえれば問題ないけど?……はい、そろそろ始めるぞ」
はいもう終わりですね僕……
ともだちにシェアしよう!