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第6話 代理撮影

 「はい、これ」  香月さんと名乗る男性は僕に微笑みながら新しい服を渡してくれました。優しい笑顔。帰してくれるですか。嬉しいです。嬉々として新しい服を身に着けました。白い薄手のシャツに脱ぎ着しやすそうなパンツです。  「似合うね、こっちだよ」  手を引かれて、ベッドの方へ。えっと?ベッドの方?  「今日はね、本当は違う人とだったんだけど乗り気じゃなかったから。嬉しいよ。その人の代理撮影だけど、もう痛い思いはさせないからね。俺に任せて」  えっ?痛いことがあるはずだったんですか?良かった、本当に……良かったのかな?あれ?  ……その前に、やっぱり帰してはもらえないって事ですか!  ベッドに腰掛けさせられるとアップで綺麗な顔が近づいてきました。  「髪さらさらしていて綺麗。……伏せた目ってこんな感じなんだ。まつ毛長い」  しっかりしなきゃ!僕は何を考えているんだろう。両手でぱしっと頬をはたきました。  「どうしたの?大丈夫だよ、子鹿みたいな目。良いね」  えっと、僕が今ライオンに食べられそうな子鹿ってことで合ってるのでしょうか?誉め言葉のように言っていますが、嬉しくないのはなぜでしょう。  そっと優しく両手で頭を包み込まれました。耳を覆われ聴覚が遮られました。他の部分が敏感になって……。  触れている指の温度や、かすかに香る香水の匂い、見つめられる視線。全てが五感を刺激してきます。おかしな気持ちになってきました。大丈夫でしょうか本当に僕は。  「そろそろ行くよ」  監督から声がかかります。  「はい、スタート」の声と同時ににじり寄ってきた香月さんに洋服が破りとられました。僕は驚きと恐怖で叫ぶ事になりました。  そして、これが僕のデビュー作になりました。

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