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第9話 サンセット

 「今日の撮影は野外って言ってたけど?」  えっ?野外、野外って……何でしょう?  野外、つまり外で……って事ですよね。暖かい季節とは言え夜は冷えますよ。この方たち何を考えているのでしょうか。  ああ、何も考えてないからこの設定、そうでした。  車のドライブシートの方に目をやると本当に綺麗な顔です。運転する姿ってやっぱ男らしいですね。僕、なぜか今ドキドキしています。病気でしょうか、どうしたんでしょうか。  そろそろ傾きかけたお日様が海に反射して、きらきらと本当にこの時間の海は素敵ですね。素敵な海辺を香月さんとドライブ……。この前の恐怖がだんだんよみがえってきました。 もう忘れたい、過去のはずなのに。人間嫌な事は忘れる生き物だそうです。でないと、生きていけないとか。今日のこの思い出はどっちでしょう?  「お、香月ちゃんお疲れ。こっちは準備できてるからすぐにでも始められるよ」  ああ、あのいい加減な監督ですね。そもそも筋書きなんてないし、設定だけあって後はやって終わりでしょうね。そうですよね。解っていますよ。  そして、悲しいかな言われたことはやらなきゃいけないと思う性格です。きちんと香月さんに教えられた通り、準備してきましたからね僕は。  太陽はだんだんと傾いて、地平線に近づいていきます。大きくなる太陽と、オレンジ色に輝きだす海。本当に……。  「綺麗です」  感動しながら見ていたら、この前のメイクさんと呼ばれる方がやって来ました。  今回はグレーのスプレーと、グレーのコンタクト。僕の髪は持ち悪いくらい不自然な色で輝いています。  ああ……僕のアイデンティティはどうなってしまったのでしょう。少し根暗、違う控え目なところが美徳だった筈です。丸めた背中に哀愁を帯びてこれまで生きてきたんですから。  顔にまでなぜかきらきらの粉はたかれて、気持ちはどん引きです。  「サンセットに合わせて撮るよ」  「はい衣装」  渡されたのは、細い三日月みたいな水着とまたまた破けそうに薄い白いシャツ一枚です。  これ着ていても裸でも、ほぼ変わらないですよね。

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