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第10話 ファーストキス

 波の上を滑るサーフボード、オレンジ色に輝く海。そして、それを背景として僕は香月さんと口づけをすると聞かされました。  「僕のファーストキスって撮影の一環ですか?」  その話を聞いて、香月さんに涙目で訴えるましたが、嬉しいねと微笑まれました。  え?嬉しい?……嬉しいことなのですか。  それでもこの前よりもずっとましです。あの時はこんな艶っぽい現場ではありませんでした。ええ、違いました。恐怖映画そのものでしたから。叫んで、泣いて終わったような気がしています。多分そうです。あの後、腰に残る痛みと、喉にのこる痛みで翌日もバイトさえいけませんでしたから。  「ざ・強姦」っていかにもな低俗なタイトルで売られた……そうですね。別に事後報告はいらなかったのですが、わざわざ知らせてくれました。  そして、なぜかあれが評判良かったらしくて、今度はしっかり恋愛ものと聞いてます。まあ、結局のところ何して終わりってやつでしょうけれどね。  可愛いキスなんて期待してないからと監督に言われて香月さんが大丈夫と返しています。大丈夫ではないのは多分僕だけの様です。いきなり舌を絡められ、ついてくのに必死で呼吸も出来ずにあふあふと、変な声まで出てしまいました。  「本当に今まで手付かずなんだよなあ。本当に良かった、全部一から教えてあげるからね」  香月さんって不思議な人です。綺麗なだけじゃなくて本当に……笑顔も素敵です。身のこなしも、その指の動きさえ。見てるだけで心臓が……。あれ?緊張しているのかな?  笑顔をぼーっと見てしまいます。見つめていたら距離はどんどん近くなり……。  少しずつシャツをずらされ肩に爽やかな海風が当たります。きっとモデルのように見えるのかもしれません。ついなり切って、うっとりとしていたらいつの間にか白い水着にシミができてしまいました。情けない。こんなの恥ずかしいと、思っていたらカメラが寄ってきました。そうでした、これは撮影でした。  「はい香月ちゃん、そこまででOK」  監督?そう言われましてもこの身体はどうすればいいのでしょうか?  いつの間にか陽が落ちて、夜の帳と同時に冷えた空気が体を包み込みます。    太陽って偉大なんですね。そう、考えながら仄かな灯りに照らされている香月さんを見ていました。  「じゃあ、次ねあそこの小屋つかうから」  指さされたのは、今時どうして海岸にあるのか不思議な壊れかけた漁師小屋。まるで浦島太郎でも出てきそうです。  もしかして、香月さんが漁師役なのかな?うーん、似合わない。きっと違うでしょう。どちらかと言うと人魚に近いでしょう。  そう考えながら小屋の方に歩いていくと、日に焼けたごつい男の人が待ってました。僕をみるなり服を脱ぎ始めて……監督何か違っていませんか?  相手は香月さんと言われてここまで来ています。知らない人と、何をするのですか?こ、怖いのですが。誰が、誰か助けてください!

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