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第13話 カット
「ひっ……。い…たい。痛い、痛いっ。無理です。無理、死んじゃいます。痛いっ」
もともと経験も少ないのに、本当に無理です。泣きながら懇願しているのに止めてくれない。監督にいたっては涼しい顔。お願いです、勘弁してください!
顔は涙と涎でぐちゃぐちゃになっています。やっぱりこの人は人間じゃないようです、どちらかと言うとゴリラ……。いやゴリラに失礼かも。逃げようとすると、頭をガンと床に押さえつけられました。
「お、いいね」
監督の呟きが聞こえてきますが、結局は何でもいいのでしょう。
涙目で横を見ると香月さんが目の端に映ります。まるで当たり前のように見ています。仕事と言われてもこれは……。
これ本当に僕が望んでやってる仕事じゃないですよ。
……望んで無かったはず?あれ、あ?どっちでしたっけ?
香月さんが相手だと聞いて、嬉しかったのに。え?嬉しかった。なのに相手がゴリラで悲しくて、あれ?やっぱり望んでいる?
ただガンガンと突き上げて来るだけの優しさのかけらもないやり方に、やめて欲しいと思っていたはずですが……何かの拍子に的確にいいところに当たってしまったようです。
ゴリラ相手に感じるのだけは絶対に嫌です。
でも、プロはプロ。きちんとこちらの反応は解っているようです。
「ああ、ここね」そう聞こえた気がします。
だめだと思っても頭で思っていても、直接的に引っ張られて……。
この人は嫌だ、いやだ。あ……いい。
……理性と感覚がずれ始めました。
「う…ああ、あ゛、うぅつ」
あれ、声が出ています。涙も出ています。またこのパターンですかあ。
「イくっ」
ズルッと身体から熱いものが引き抜かれ、背中に何かが散りばめられました。
「はいっ、カット!」
監督の声がして、気持ちも体もぼろぼろの僕にタオルが投げかけられました。ボクシングだったら試合終了です。
「よし、お疲れ。いや良かったよ、交代だね」
爽やかに笑う巨人に苦笑いしかできません。自分だけ終わって僕は放置なのと、叫びそうです。
「将生、大丈夫?」
優しく心配してくれる香月さんの顔見て、本当に泣き出しそうになりました。
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