14 / 122
第14話 オールアップ
「将生が俺以外で感じてるのって何だかな……」
え?仕事だと叱ったのは香月さんじゃないですか。そう思いましたが、何だか少しだけ期待しても良いですかと、思ってしまいました。
「次が香月ちゃんね」
するすると服を脱ぐ香月さんを見ながらやっぱり綺麗だなと思います。目が離せなくなって少し見とれてしまいます。
外に手を引かれていくと焚き火の前に大きめのブランケットが敷かれていました。
ロマンチックな灯りの中、香月さんと二人きり……そこに無粋な「はい、スタート」の掛け声が。
あ、そうでした。撮影でした。つい香月さんの恋人のような気持ちになっていました。あなたは、僕のことをどう思っていますか?あ、照れてしまう。
少し冷えてきた潮風に吹かれながら誘うように脚を開くと、カメラももう気にならなくなってきています。
こんな暗いところで、よく撮れると感心してしまいました。意外と高いカメラ使ってるのかもしれません。少なくとも携帯じゃないようです。
「何?考え事?さっきのやつの事?だめだよ、俺だけ見てなくちゃ。
もう準備は十分に済んでいる身体の中を香月さんに侵食されてしまいます。何だろ……。お腹の中心が熱くなって自分の意思じゃなく動いています。
「はぁぁ……ぁっ…ふ……」
息とも声とも取れない音が漏れ続け、止められなくなってしまいました。このままだとそのうちに叫びだしそうです。
一生懸命に我慢していたら、耳元で香月さんが小さい声で囁きました。
「将生、もう少し大げさに声だして」
そうでした…これはあくまで撮影でしたね。
一気に悲しくなってしまいました。
なぜか海岸で突き上げられながら涙が溢れてしまいました。それをアップで撮る監督がいじめっ子のように見えます。
「良いね!」
監督が叫ぶと、香月さんが「んじゃ、そろそろ」と、冷静に言うとゴール目指して速度を上げていきます。
中ではじける感覚と、言いようの無い寂しさとを残して僕もゴールしました。
「はいお疲れさん、これでオールアップね」
声がかかると、香月さんが俺の髪を撫でて、じゃあまた今度ねと言います。やっぱり仕事なんですよね。……そうでした、何を勘違いしてたのかな。
お金をもらって、帰ろう。送るよと言う香月さんを断ってタクシーを拾います。
「おや?兄ちゃんしょんぼりして。失恋でもしたか?」
タクシーの運転手さんにそう声をかけられて「まさか?」と、答えました。まさか、失恋…恋愛より先に失恋したのでしょうか。
[カタカナ おしまい]
ともだちにシェアしよう!