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第16話 Action

   監督が通訳さんから聞いた話によると……。  彼は日本人の恋人を追いかけてはるばる日本まで来たものの、結局その恋人とは文化の違いとやらで破局したそうです。これから傷心で帰国するから、その記念だと言う……とても良い加減な説明を受けました。    失恋記念にゲイビに出演するって普通ではない気がしますが。そこは文化の違いでしょうか?  そう考えていたら、通訳さんが追加で説明してくれました。好みの日本人の若い子とヤらせてくれるのなら何でもOKだよと言っていたらしいです。軽い、軽すぎるでしょう、その動機。  事務所に登録してある写真見て僕に白羽の矢が立ったとのことですが……いつ写真登録しました?気が付いたらいつの間にか俳優名鑑なるものにちゃんと載ってました。そして、僕はまだ初心者です。  初心者マークつけた状態で、いきなり外国車で大丈夫でしょうか?  調子っ外れの鼻歌を歌い続ける、ご機嫌な外国人が目の前にいます。  本当に香月さんに似ているなと見てたら、するすると近寄って来ました。そして耳元で囁かれています。多分、口説かれているのでしょう。そんな気がします。    ……しかし、全く分かりません。  え、今耳に、耳にキスしました?  撮影だってまだ始まってないでしょう。何だと言うのでしょう。 通訳さんと思われる人が無表情で見ていますが……。  「もしも、あなたに私と付き合う気があれば、祖国には帰りません。……だそうです」  えっと、これはどういう状況でしょうか。いわゆるナンパですね。生涯初のナンパは男性からでした。  「あの、何を言ってるのかも理解できない人と付き合うなんて無理です。と言うより、解っても嫌です」  付き合う……、香月さんならともかく……え?香月さん…って、僕はまた変な思考回路に陥っています。  初めて香月さんのいない現場で、なぜか香月さんにそっくりの人と二人。ソファに並んで腰掛けると、すっと膝の上に手を置かれました。  いつものスタッフに混じって無表情な通訳さんが見ていますが、そもそもあの人は誰なのでしょう。  監督が何か通訳さんに聞いています、メガホンを手に取りました。  「Action!」 監督から英語でスタートの合図が出されました。それは必要だったのでしょうか?

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