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第70話 シアタールーム

 「あ、あそこの扉はどこの部屋に続いているのですか?」  まだ案内されてない部屋があるようです。  「ああ、シアタールームだよ。見たい?」  ああ、ここなら。締め切られていて外からも見えません。ちょうど良い感じに暗くて、ここなら安心して眠れそうです。  「ここで今少し休みますね。ソファお借りします」  「んー?ここで寝るのか。ここも良いけど、俺は夜はベッドで将生を抱えて眠りたいな」  「香月さん、きちんと話を聞いてください。僕は一緒に住むとはまだ言っていません」   あ……「まだ言っていません」と言ってしまいました。まだってことは、この先は可能性があるということですね。  「ごめんね将生。なんだか嬉しくて……つい」  そんなにあからさまに肩を落として悲しそうな顔をされると、僕が悪いことをしている気持ちになってきてしまいます。香月さんを傷つけるつもりはありませんでした。  「嬉しい」そうですか。大切に思ってくれているのはわかります。  「香月さん、僕はきちんとあなたのことが好きですよ。でも生活も全て違うから、いきなりは難しいと思います」  「将生、俺のことが好きなんだね。それは正直嬉しいよ」  あれ、なんだか優しい雰囲気ですよね。これからもっと近い存在になれるのでしょうか。それも素敵かもしれませんね。  「ああ、そうだ。俺の宝物、いつもここで見ているDVDを一緒にみよう」  いきなり嬉しそうな顔で取り出したパッケージ……あっ……そ、それは、僕のデビュー作品です。ちょっと待ってください、そのDVDは隠れてこそこそと見る類のものです。シアタールームの巨大なスクリーンで楽しむ映画ではありません。違う迫力しかありません、そしてまさかの無修正版ってどういうことでしょうか。  「はい、将生。ここにおいで」  両手広げて満面の笑顔の香月さん。もう良いかもしれません、流されちゃって楽しんだ方が勝ちって気がしてきました。僕も相当毒されているようです。まあ、この部屋なら……まあ……うん、良いかもしれません。  「香月さん、映像より実物が良いですよね?そろそろシませんか?」  映像の中の僕より、本物に欲情してくださいね。だってさっきのシャワーから僕は既に臨戦態勢なんですから。 [マンション おしまい]

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