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第72話 さくらんぼ

 「将生、そうだ。これもあったんだ」  冷蔵庫の中から出てきたのはさくらんぼ、つまり僕《チェリー》のことでしょうか。  「ねえ、このヘタを口の中でこうやって……」  ペロっと出した香月さんの舌の上には綺麗に結ばれたさくらんぼのへたがあります。  「どうやってそんな器用なことが!?」  衝撃です、そんなこと宴会芸にしては細かすぎます。  「ん?こうやってさ」  モゴモゴと口の中が動いているのが分かります。けれども、やり方はわからないですよねそれでは。  「上手に舌を動かせるようになるからキスの練習だよ」  香月さん、僕は朝食を摂っていると思っていましがが、これは特訓の一部だったのですか。下手だとヘタで練習?あ、大喜利ではありませんでした。朝食にトーストやフルーツ、ヨーグルト。この組み合わせで育つと香月さんが出来るのですね。僕は味噌汁に納豆、日本人万歳という食事で育ちました。ですから朝食の食卓でキスの練習なんて人生初です。まあ、常に香月さんといると常に人生初という驚きしかありませんが。  香月さんは顔もかなり洋風ですし、夕飯はパスタ、朝食にフルーツ。生活そのものも古き良き日本人というより海外ドラマですね。あ、カーテンはそれでも必要だと思っています。しかし見れば見るほど綺麗な顔です。  「将生に何をそんなに見ているの?」    「え、香月さんはやはり綺麗ですよね」  「さっきからその視線に誘われている気がしていて。あ、もしかして、そうなの?」  「ま、待ってください!今はまだ朝の八時です」  違います、時間の問題ではないのですが、やはり……時間の問題だけでしょうか?

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