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第73話 オレンジ
香月さん、本当に朝の八時です。お子様に見せてはいけないものは放送されていません。健全な時間ですね。そう!一日の始まりですよ。
「こ、香月さん。僕はそろそろ帰り……」
「将生、今日は大学は休みなの?」
今さりげなく僕の言葉を上書きしましたね。聞こえないふりしましたね。
「ええ、日曜日ですから」
「そうか、最近曜日の感覚も時間の感覚もおかしくなってきているんだよ」
こうやって普通に話していると、モデルでも俳優でもできそうだなと思うほど綺麗です。あ、気が付いたらまた普通に会話をしてしまいました。でも地雷は回避できたようです。朝からダイニングで押し倒される趣味はないです。
香月さんが小さくため息をつきました。その姿も綺麗です。何をどうして今の仕事しているのかは分かりませんが、将来のこともきちんと考えた方がいいですね。
「香月さん、いつまでも今の仕事はできませんよね。将来の事も考えないとですね」
「俺もそう思うよ。だからきちんと結婚して、しっかりとした生活がしたいんだ。ね?将生」
そうですね……お嫁さん、必要ですね。
ん、んんん?僕ですか?それてって僕ですか?
「将生に出会って思ったよ、こんなに可愛い……」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!」
このまま丸め込まれてしまいそうです。それって僕が着るのはウエデイングドレスになりませんか?ああ、そこじゃないです。そもそも論が違うという事を見失いそうになっています。
「僕は結婚するなんて言っていませんからね」
「分かっているよ、きちんと御両親の許可をもらってからだね」
……いいえ、香月さん違います、分かる分からないの前に間違っています。
「せっかくの休みか、そろそろデートにでも出かける?着替えか……何か無いかなあ」
「そうですね、一度家に帰って……」
「あ、そうだあれ。前の撮影の時に使ったやつ似合っていたから俺引き取ったんだ。ビタミンカラーのシャツ」
「オレンジ色、ですか?」
あれ……また?わざとでしょうか?「帰る」というところをさらりと無視された気がしています。
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