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第74話 ライム

 「家に帰る」と言ったところをわざと無視されました。確信犯ですね。  「あの香月さん……」  「さあ、将生おいで。出かけよう」  ああ、絶対です。俺の言葉に被せるように発言しましたね。意図的ですよね、わかっています。  「香月さんっ!僕っ、自分のアパートに帰ります!」  勢いつけて言えました!言えましたよ、頑張りました。小さくガッツポーズをした途端に、香月さんが泣きそうな顔になりました。え、どうしたのでしょうか。僕は何か悪いことをしたのでしょうか。  「香月さん、どうしたのですか?」  「将生、もうここへは帰ってこないでしょう」  あ、そうですよね。この人は頭は悪くないのですからこれまでの言動は当然計算ですよね。違いますか。  「僕は香月さんの事が好きです。でも、結婚とか一緒に暮らすとか言われても、あまりにも知らない世界なのです。初めての事ばかりで戸惑っています。一緒に住むと言われてもピンと来なくて」  「そうかあ、だよね。だよなあ……」  「すみません」  「仕方ないよ。うん、それじゃあ、とりあえず二週間だね」  にっこりと、誰でも落とせそうな笑顔で微笑まれた。た、立ち直り早すぎます!  「えっそんな無理です」    「それも無理なの?」  じっと見つめられた答えに窮しました。  「じゃあとりあえず一週間って事で……」  「OK!じゃあ、今日はとりあえずデートしようね」  あ?え……あれ?僕が強く出られたと考えたのは勘違いでしょうか。もしかして上手く丸め込まれただけでしょうか。  違いますよね、うん。きちんと自分の意思は伝えました。  ところで、僕のアパートに帰るって話はどうなりましたか。  「将生の着替えも少し買って来よう。せっかく可愛い顔してるのにいつも暗い色の服ばっか着ているよね」  確かにこんなオレンジ色のシャツなんて撮影なければ着ることはなかったでしょう。綺麗な色って綺麗な人が着る物だと思っていましたからね。  「はい、これ履いて」  手渡されたのはこれもまた撮影で使ったライムグリーンのパンツ。すみません……僕は今カラーパレットみたいになっていませんか?  「可愛いよ」  そう言われてつい喜んでしまいました。   ……あれ?

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