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第75話 いちご
結局、ずるずると引っ張られるように連れ出されました。そして、ここは?どこでしょう。色の波、人の波にのまれています。パーソナルスペースが全くありません。
近過ぎます。近い…人が近いのです。僕はある程度の距離を保って生きています。
これでは呼吸できなくなりそうです。
「将生、こっちね」
えっと、あの香月さん、手をずっとつないだままなのですが。さっきからチラチラと見られているのは気のせいではありませんよね。
「んー、やっぱり原宿ならクレープでしょ?どれがいい?」
「えっと、そのストロベリー・オン・ストロベリーって美味しそうです」
「ああ、これね」
原宿でしたかここは、そうですよね。先ほど降りた地下鉄の駅は表参道ってなってましたよね。
決して来ることはない、自分には縁がないと思っていた街です、既にクラクラしています。
「はい、どうぞ」手渡されたのはいちごの美味しそうなクレープです。
「あれ?香月さんの分はないんですか?」
「俺は後で味見させてもらえばいいの」
そう言ってニコニコしています。香月さんってきっと恋人として百点なんでしょうね。かっこいいし、行動も男前ですし、問題は僕が男ってとこだけ……あれ?問題は僕でしたか?
はむっとクレープにかじりつきました、甘くて少しすっぱくて美味しいです。
一心不乱に食べていたら、微笑んだ香月さんの顔が近づいてきました。
え?と、驚いた次の瞬間にいきなり唇を舐められました。
……!!!
今のは何でしょう、ここは公道ですから。
「香月さん!な、何をするんですか!」
「ん?後で味見させてもらうって言ったでしょ。美味しいかった。ご馳走様、将生」
思わず辺りを見渡してしまいました。カメラがあるんじゃ無いのかと、そもそもこれ衣装でしたよね。
カメラも「斎藤ちゃーん。」と呼ぶ監督もいないことに安堵しました。
あれ……、でも今日何かあった気がするんですが勘違いでしょうか。
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