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第77話 ユズ

 昨日から香月さんで、心も身体もいっぱいいっぱいです。撮影所に連れて行かれながら、なぜか何かを期待しているような気がします。あの顔で微笑みかけられると、不思議な感覚が鳩尾からせり上がってくるのです。  「お!いいね。斎藤ちゃんにその髪の色とても似合っているよ」  監督は何でも良いねとしか言いませんが、褒められて伸びない子はいません。今日は元気に撮影に……ああ、今日はスチール写真の撮影でしたね。カメラマンさんいつもと違いますしね。  「ん?何お前がモデルなの?可愛い彼氏連れてきたね」  いきなりカメラマンさんが香月さんに話しかけました。   「あ゛?」  香月さんいつもと雰囲気ちがいます。物凄い勢いでカメラマンさんのこと睨んでますが、どうしました?  「なんで、兄貴が来ているんだよ」  えっ?ええっ?お兄さん……誰の?  ……もちろん香月さんのお兄さんですね、僕に兄はいませんから。  よく見ると香月さんと同じくらいの綺麗な人です。  「は、はじめまして、斎藤将生です。よろしくお願いします」  「はじめまして、香月臣人こづきおみとです。オミって呼んでくれる?」  そうですか、臣人さんですか。よろしくお願いします。あ、あれ?香月さんの下の名前は一体何なのでしょう。聞いたことがありあません。軽い衝撃を受けました。香月さんは香月さん、それだけで完結していました。  「ユズ、いい子だからお兄ちゃんのお仕事の邪魔しないでよ」   柚ですか?香月さんの名前は柚さんなのですね。そんな可愛いらしい名前なのですね?  「ユズ、可愛い……」  つい言葉が溢れてしまいました。 「将生、その呼び方止めて、兄貴だけだからそう呼ぶの。ちゃんと柚人ゆうとって名前があるから」  柚に人って書いて「ゆうと」……初めて知りました。  「柚人さん」  何だか下の名前で呼ぶだけで、きゅんとなります。香月柚人、香月将生……どっちも似合ってる気がします。なぜか僕の脳内では蜂蜜かけの柚がまわっています。甘酸っぱい気持ちになってしまってるかもしれません。 【フルーツ おしまい】

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