77 / 122
第77話 ユズ
昨日から香月さんで、心も身体もいっぱいいっぱいです。撮影所に連れて行かれながら、なぜか何かを期待しているような気がします。あの顔で微笑みかけられると、不思議な感覚が鳩尾からせり上がってくるのです。
「お!いいね。斎藤ちゃんにその髪の色とても似合っているよ」
監督は何でも良いねとしか言いませんが、褒められて伸びない子はいません。今日は元気に撮影に……ああ、今日はスチール写真の撮影でしたね。カメラマンさんいつもと違いますしね。
「ん?何お前がモデルなの?可愛い彼氏連れてきたね」
いきなりカメラマンさんが香月さんに話しかけました。
「あ゛?」
香月さんいつもと雰囲気ちがいます。物凄い勢いでカメラマンさんのこと睨んでますが、どうしました?
「なんで、兄貴が来ているんだよ」
えっ?ええっ?お兄さん……誰の?
……もちろん香月さんのお兄さんですね、僕に兄はいませんから。
よく見ると香月さんと同じくらいの綺麗な人です。
「は、はじめまして、斎藤将生です。よろしくお願いします」
「はじめまして、香月臣人こづきおみとです。オミって呼んでくれる?」
そうですか、臣人さんですか。よろしくお願いします。あ、あれ?香月さんの下の名前は一体何なのでしょう。聞いたことがありあません。軽い衝撃を受けました。香月さんは香月さん、それだけで完結していました。
「ユズ、いい子だからお兄ちゃんのお仕事の邪魔しないでよ」
柚ですか?香月さんの名前は柚さんなのですね。そんな可愛いらしい名前なのですね?
「ユズ、可愛い……」
つい言葉が溢れてしまいました。
「将生、その呼び方止めて、兄貴だけだからそう呼ぶの。ちゃんと柚人ゆうとって名前があるから」
柚に人って書いて「ゆうと」……初めて知りました。
「柚人さん」
何だか下の名前で呼ぶだけで、きゅんとなります。香月柚人、香月将生……どっちも似合ってる気がします。なぜか僕の脳内では蜂蜜かけの柚がまわっています。甘酸っぱい気持ちになってしまってるかもしれません。
【フルーツ おしまい】
ともだちにシェアしよう!