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第78話 薔薇
「お前、帰れよ。」
香月さんがいつもになくきつい口調で、お兄さんに言います。
「残念でした。それは無理。今日はクライアントのご指名なのよ。俺が撮るとモデルさんが色っぽく写るって」
「それは……兄貴がモデルに毎回手出してるからだろ!」
なぜだか、香月さん子供みたいですね。あれ、2人とも香月さんだ!ってことは、僕が見てるのは兄弟喧嘩なんですね、兄弟のいない僕には新鮮です。
そこじゃないですよね!そこじゃない……分かっています。
初めまして、神月さんのお兄さん……あれ?挨拶の時に裸で正しいのでしょうか。
……そもそも、お兄さんって……僕のお兄さんになるわけじゃないですよね、だからいいのかな。いろいろとこんがらがってきました。そろそろキャパオーバーです。器は小さいですよ。
「とりあえず、ユズは出ていく!」
「無理、俺のだから将生は……」
「俺の撮影の時のルール知ってるだろ。モデルと2人きり、アシもつけない。部外者なんてもってのほか」
「はい、はい。外行こう、香月ちゃん」
監督がにいっと笑うと香月さんの背中を押していきます。あ、行っちゃうんですね。
「じゃあ写真の上がり具合を途中で確認させてね、ほら行くよ香月ちゃん」
監督は当たり前のように香月さんを押して出て行ってしまいました。
ふたりきりになって、緊張します。
「さて、そろそろ始めようか?」
振り返った香月さんのお兄さんの笑顔……?
あれ……似てると言うより似過ぎです。
「ん?どうしたの?じっと俺のこと見つめて?惚れちゃった?」
ああ、話の飛躍の仕方までそっくりですね。
「薔薇背負ってそうなオーラが……似てますね、香月さんに」
「あれ?知らなかった?ユズと俺双子よ、一卵性の」
かけていた眼鏡を外して髪をかきあげると……そこにいたのは香月さんのコピーでした。
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