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第80話 ポンセチア
真っ赤なサテンの布が滝のように、天井から垂れ下げられています。スタジオの中はまるで赤い滝つぼです。ライトがあてられると反射して、不思議な世界に迷い込んだようです。
「んーーー、そうかぁ。どうするかなあ」
考え込むオミさんは本当に恰好がいいです。きっと誰だってドキドキとして恋に落ちるはずです。真剣に仕事をするときのあの視線、そしてあの逞しい腕。
……あれ?僕は女性が好き……ですよね。女性が恋愛対象のはずだったような気がするのですが、がん違いでしょうか。思い起こすと、彼女ができたと騒ぐ級友に羨ましいなと思ったことはありました。もちろん「いいなぁ」と言ったことはありまます。けれど……自分が誰かを好きになった事はあったでしょうか。
……考え直してみました。僕の初恋はどうやら香月さんのようです。そうですか。そうなのですね、あまりにも強烈過ぎて気が付かなかったのですが、これが初恋なのですね。
「ごめん将生、少し待っていてくれる?監督と話しをしてくる」
考え込んでいたはずのオミさんが突然スタジオから出ていきました。どうしたのでしょう?そう思っていたら今度は、監督を連れて戻ってきました。
監督とオミさんは二人してたった今撮った写真の確認をしてながら何か話しをしています。
「……確かにそうだな。電話かけてくる」
また僕は置いてけぼりで話が何か進んでいませんか。監督が出て行ってしまいました。僕はどうすれば良いんでしょうか。
「なかなか素材だからね、フル活用しないとね」
素材?何のことでしょうか。起こっている事態が把握できず困っていると、がたがたと大きな音がしてドアが開きました。開いたドアから勢いよく香月さんがスタジオに飛び込んできました。
「オミ!駄目だから。将生をカレンダーに使うとか!絶対に許可しない!」
……え、カレンダー?一体何のことでしょうか?
「この赤い布の上に立った将生見て、この子しかないって思ったんだ。もうポインセチア手配中!ユズは口出すな、これはビジネスの話だろう!」
オミさん、何のことですか?僕はまた蚊帳の外ですね。どこまで流されていけば終点にたどり着けるのでしょうか。
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