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第92話 ロンT
「お、お醤油を借りに来ただけですから!」
慌ててドアを閉めて立ち去ろうとすると、ぐいっと引っ張られました。
「離してくださいっ」
「だって、醤油借りに来たんだろ。手ぶらで帰るの?」
あ、そうでした。あまりにも驚いて一目散に帰るところでした。
「そ、そうでした。すみません、お醤油貸してください。」
「どうぞ、キッチンにあるから勝手に持っていってくれる?俺、今仕事中で手が離せないから」
醤油くらい取ってきてくれてもいいのに。そう思ったけれど、オミさんは僕のことは無視して、すっと部屋に入っていってしまいました。
そうですか、お仕事モードなんですね。お邪魔しちゃ悪いですね。部屋の作りが同じなので、台所まで迷わずに行けます。
香月さんの部屋は白を基調とした部屋でしたが、オミさんの部屋は色で溢れています。一卵性で、同じDNAなのにこんなに違うんですね。
あれ?キッチン使っている形跡ほとんどありませんが、お醤油はどこでしょう。
「すみません!オミさん、お醤油どこにありますか」
奥の部屋からオミさんが、答えてくれました。
「最近使ってないから、シンクの上のキャビネットにあるかな」
え?シンクの上の,,,… 扉には届きますが。……お醤油なんであんなに高いところに置いてあるんでしょう。
勢いよくジャンプして、手に……。
「わぁっ!」
「将生?どうした?」
慌ててオミさんが飛び出してきました。俺は頭からお醤油をかぶってしまいました。床もびちゃびちゃです。味付けしていただかなくても、もう今日は十分なのに。
「こ、これ...…ごめなさい」
「そんなのどうでも良いからとりあえず、シャワー!場所わかるでしょ。」
キッチンペーパーでぽたぽた落ちるお醤油をふき取るとバスルームに追い立てられました。
「ロンT位しかないな……着替え、それでいい?隣に帰れば何かあるでしょう?」
ロンT?って丈が長いTシャツですか?
じゃあ、とりあえずそれを貸していただければ、香月さんのところに帰れるでしょうか?昨日着ていた服はあるから何とかなるはずです。
シャワーから出ると綺麗な色の僕の服は見事なお醤油色になってしまっていました。
「はい、これ」
白いロンTですね、下着もないけど何とかなるでしょうか。隠れるのかな。
丈は長い……え、あれっ……み、短いっ!
「これっ、短いっですっ。ロングじゃないですけれど」
「将生、ロンTって袖が長いんだよね」
えっ、袖……ホントですね。僕より背の高いオミさんのTシャツの袖からは、指の先しか出ていません。でも丈は短くて半分お尻が出ています。
「やっぱり、可愛いよね将生。」
それはにこにこ顔ではないですよ、ニヤニヤ顔です。
オミさん、この服まさかの……わざとでしょうか?
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