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第98話 褌
オミさんから借りたのか、それとも奪い取ったのかは定かではありませんが、下着と浴衣をもって浴室に逃げ込みました。
内側から鍵をかければ、あの二人も入ってこられないはずです。
「まーさーきーぃ、ここ開けて。浴衣ひとりで着付けられるの?」
ドアの外から香月さんの声がします。
「ユズ、これ越中だろ?やっぱ、六尺じゃないと駄目だな。俺、通り向こうの和装屋に行って買ってくるからさ待っていてよ」
越中?六尺?オミさんが香月さんと仲良く話している時は碌な事にならないのは学習済みです。何の話でしょうか。
あ、「好奇心は猫をも殺す」でした。余計なことに興味を持っては危ないですね。
「大丈夫です。この紐で止めればなんとかなります...…あれえっと、右が下?で腰紐で縛れば???香月さん!胸元が思いっきり開いてます、何かが変です」
「だから言ったのに。ね?あけてごらん、俺がきちんと着つけてあげるから」
「変なことしませんよね?」
「変な事なんてするわけないだろう?将生、浴衣を独りで着たことないでしょう。正しく着せてあげるだけ」
仕方なく素直にドアを開けると呆れ顔の香月さんがいた。
「ほら、汗かいてしまっているし。こっちへおいで」
優しくいつもの香月さんの笑顔に誘われて素直についてリビングへ移動しました。そうですね、香月さんは僕のために浴衣を買ってきてくれた人でしたね。丁度オミさんも帰ってきました。
「ユズ、これ」
ぽんと投げてよこした和柄の紙袋を受け取ると、香月さんが優しい笑顔で語り掛けてきます。この笑顔には逆らえません。
「一旦、この浴衣を緩めるね」
もう下着も着替えたし、大丈夫です。香月さんは緩めると言った浴衣を脱がせると、ぽんとソファの上に投げました。
あれ?なぜ浴衣はあんな遠くへ行くのでしょう。
「将生、手をだしてごらん」
広げられた香月さんの手の上に両手を乗せました。しゅるると浴衣の紐が、え?紐!?
「やっぱり正しく着るなら、ここは褌だよね」
ええっ?ど、どう言う事でしょう。いきなりリビングで下着姿で手を縛られています。
「将生が大人しく着替えさせてくれたらこんな事しなくても良いのに」
少しさびそうな笑顔の香月さん。いきなり下着をずるんと下げられました。オミさんが本当に嬉しそうにこちらをみています。
「ああ、縛られて俺の家のリビングで裸とか最高」
喜ぶポイントがそこですか。
「な、オミ将生って可愛いだろう」
器用に長い布を僕の下半身に巻きつけながら香月さん嬉しそうです。こんな事まで、手際が良い必要ってあるのでしょうか?
あれ?褌は前にひらひらとした暖簾みたいなのが下がってるあれではないのですね。何を僕は感心してるのでしょう。
ああ、これはお祭りで見た事あります。さっきのタンガとが言う下着と変わらないやつですね。後ろ姿は紐だけのようです。
「うんこれだな。将生は何を着ても似合うよ」
似合うと言われましたが、正直何も着ていません。褌一枚ですよ。
「兄貴カメラはどこ?」
どうして、この二人が共闘する時は被害者はいつも僕なのでしょうか。
【衣服というよりは衣装 おしまい】
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