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第102話 白衣
監督から聞き出した翔太さんの番号を呼び出します。コール音が二回なったと思ったらすぐに応答がありした。
「はい?」
「あの将生です、齋藤将生です」
「ああ、なかなか連絡来ないから反響なかったのかと心配してたんだよね。ネットの反応かなり良かったからさ」
やっぱりこの人なのですね。まあ、薄々そうじゃないかとは思っていましたが。あれ?翔太さんの電話の声に重なって聞こえるこの声は?......え、まさか?まさかなのですか。
急いで玄関に戻ると、三人を置いて部屋に戻ったはずが、ちゃんと四人に増えてました。
「翔太さん一体何してるんですか?そして、その白衣は明らかにお医者さんですよね?」
「そ!よくよく考えたらさ、俺まだ将生とヤってないなあって思ってさ」
よく考えるのはそこではなくて、自分の行動です。
「何もしません!そもそも何故コスプレなんですか?全て間違っていますから」
「いろんなシチュエーションで楽しめると思ったんだけどなあ。まあ、とりあえず言い出したのは俺だから最初は俺で良いでしょ?」
あの、誰でもオッケーみたいな性格ではありませんし、言わせてもらえばこれって犯罪ですよね?言い出したのは俺だからって、まるで自分が正義のように聞こえますが。
翔太さん!なぜそんなに得意そうな顔なのですか?
「何を考えているのですか?無理なものは無理です、前にも断りましたよね」
「ん?いつ?俺、いつ断られたっけ?」
ああ、この人はどこまでもズレています。そうでしたこういう人でした。間違いありません。この人の寝坊が全ての始まりで、今の自分だと思うと何故だか気が遠くなりそうになります。
「あの、どうでしょう?あの方達みんなまとめて、翔太さんにお任せするって言うのはいかがでしょうかね」
かなりの無茶振りですが、翔太さんなら引き受けてくれそうな気がしています。
「うーん?あの学生は線が細くて趣味じゃないなあ、けどあとの二人はおいしそうだよねぇ」
え?大丈夫なんですか?言ってみるものです。
「じゃ、そういう事でお願いします!」
そこにあったカバンと携帯を掴んで、悩んでいる翔太さんの横を通り抜けようとしました。このチャンスを逃したら、大変な事になるのは火を見るよりも明らかです。
「え、どこへ行くの?将生」
腕をしっかりと掴まれました。笑顔が怖いです。笑顔って優しい気持ちになるものです。恐怖を植え付けるのは笑顔ではありませんからね。翔太さんは僕の腕を掴んだまま玄関の三人に声をかけた。
「そろそろ上がりませんか?」
ええっ、ええ?どうして勝手に声をかけるのでしょうか。ここは僕のアパートです。男五人も並ぶスペースありません。
「そうですね」と、学生。
「ああ、そうだね」と、ビジネスマン。
「そうよねぇ。」と不思議な元軍人さん。
「僕は一切関係ありません!」叫ぶ俺の声は相変わらず誰にも届きません。
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