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第106話 ワイン
小さい頃からくじ運が悪い子でした。
ハズレを引くのが天才的で、母親からは「将来のために運を無駄にしないようにとっているのよ。きっとまとめていい事がやってくるからね」と言われて続けてきました。
でもね……神様だって見落とすことがあるのですね母さん。
「おお、ここに余った運がある!」ともともと持っている人に間違えてあげてしまうのです。絶対にそうです。
どうすれば取って置いていた僕の運はいつ巡ってくるのでしょう。今も間違えて引いてしまったハズレくじのせいで大変な事になっています。
「将生ってさ本当は俺のことをどう思っているわけ?」
「どう思っている」とそんな怖い顔で言われてても困ります。だって、だって何も考えずに今日まで来てしまっています。
もしかして好きなのかなと思っても、次から次へとやってくる騒動に本当に好きなのか何なのかよくわからないくらいです。
「俺はね、将生に会えたのは運命だと信じているから」
そんな事を言われるとつい、調子に乗ってしまいます。
「あの、香月さん?」
「何?」
「そろそろこれ、外してもらえませんか?」
運命を感じる相手に対して、この仕打ちは結構ひどいと思っています。何しろ僕はずっとお願いしているのに却下ですものね。
「ダメ」
やっぱり「ダメ」と言われました。僕は今、ベッドに座った状態で、俺の右手首がは右足首に、左手首は左足首に固定されてしまっています。動こうにもどこにもいけません。僕をそんな状態で放っておいて、目の前でウロウロしながら説教しているこの人は本当に恋人なのでしょうか。
少なくとも一つだけはっきりと分かります。香月さん、怒っていますね。かなりご機嫌斜めですよね。やはり。
「俺と兄貴を間違える?ありえないでしょう?全く違うでしょう。赤ワインと白ワインどっちも同じワインだから見分けがつかないなんて人いないんだよ、将生」
いいえ、少なくとも赤ワインと白ワイン見かけは全く違いますからね。何を言い出すのでしょううか。鏡をみてください、全く同じ顔が映っているはずですから。
「んー、ワインの事考えたら飲みたくなってきた。今日の夜は長くなりそうだし、一緒に飲みながら話し合おうか」
言ってる事は建設的ですが、僕のこの状況はとても一緒に飲みながら話し合うという状況ではないのはお気づきでしょうか。手も自由にはなりませんから。
「将生には俺が飲ませてあげるから大丈夫」
楽しそうに笑う香月さん。監督の持ってくる台本より、よっぽど不可思議ですね。この先の展開は僕には全く読めません!
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