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第107話 ジントニック
すっかり香月さんは忘れているようですが、僕はずっと縛られたままです。ご機嫌に鼻歌交じりでお酒の瓶をテーブルに並べ始めました。
「将生、今日はさ、ゆっくりと楽しもうね」
そう言われても楽しいのは香月さんだけだと思います。
「あの、これを外してはいただけないのでしょうか?」
もう一度、念の為に聞いてみます。
「え?何を?どれを外すって?」
「いいえ、何でもありません」
ああ、絶対に怒っています、そうですよね。香月さんは僕のことを本当はどうしたいのでしょうか。
「あの香月さん?そろそろこの姿勢が辛いのですが」
「なんで?辛いのは俺でしょう?」
香月さんが俺を睨んで涙ぐんでいます。
「で?なぜ兄貴と一緒だったのか教えてもらおうかな」
そこですか、これではいつもの堂々巡りですね。
「もしかして、ヤキモチですか?」
「え?俺が?そうかな、そうかも知れない。うん、そうだ。悔しい。将生にはどうしても俺が一番だと言って欲しい」
あれ?何故こんなに素直なのでしょう。かえってあとが怖いです。
「えっと、冗談ですよね?」
「俺はきちんと結婚して欲しいと将生に言ったのに、はぐらかすからこうなるでしょう?」
はぐらかすとか、そういう前に僕は男ではなかったでしょうか。日本の法律でどうやったらその結果にたどり着けるのか教えて欲しいです。
それと、さっきから水のように飲んでますが、それアルコールですよね?
「あ、あの香月さん?その透明な液体は何ですか?」
「これ?ジントニック」
えっと何杯目でしょう。ああ、かなり、かなり酔っていますね。
「香月さん、出来れば話を聞いて欲しいです。僕の話も聞いてください」
「何?聞いたら何かいい事でもあるの?」
もう駄々っ子ですね。グラスを空にして、お酒をグラスに注いでいますね。そしてあおるように飲み干すとこちらを振り返りました。
「あれ?ま・・・さき?なんで、そんな格好してるの?」
え……そうなります?そうなりますか、酔ってますしね。
「外してくださいね」
「んー?どうしようかなあ?」
ふふふと笑うと香月さんは床に座り込んでうとうととしています。今、火事になったら確実に二人の死者が出ます。
そしてそのうちひとつの焼死体はカエルの干物のようになるでしょう。笑えませんね。
「香月さんっ!起きてください、これ解いてくれたら何でもします!」
そう言うと寝てるはずの香月さんがにっと笑って立ち上がりました。
「今言ったよね、何でもするって。これくらいのアルコールで酔うわけないでしょう」
騙されました。まあ、いつもですが、またです。僕のデフォルトは誰かの嘘に踊らされる事なのですね。
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