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第111話 日本酒

 簡単に香月さんにイかされてしまいました。でも何だかどうしてだか物足りません。  「そろそろ次に行こうか?」  「え、次?ですか」  「何、今更分からないふりするの?将生にこれ以上飲ませると、この先ができそうにないしね」  ああ、香月さんの目は本当に嬉しそうに輝いています。それはそういう意味ですよね。そして、期待している自分自身にももう驚きません。  握りしめていたグラスはひょいと香月さんに取り上げられてしまった。  「香月さん、あの僕、いま喉がからからで……」  水を少し飲もうと、目の前に置いてあった水の入っていたグラスを持ち一気に飲み干しました。  「ばっ、馬鹿!それは俺の日本酒!」  そう香月さんが叫んだ時には全て胃の中に収まっていました。  「んぐっ?!ふーっ」  熱い液体が体内を勢いよく駆け回って、一瞬くらっとしました。そして大きく息を吐くと、床にばたんと倒れてしまいました。  「......?」  あれ?何でしょうかこれ、とてもキモチイイです。  「......香月さん?」  真っ暗な中で突然目が覚めました。手を伸ばすと目の前に軽く寝息を立てる綺麗な顔がありました。その綺麗な寝顔を見た瞬間に何か得体のしれない気持ちが音を立てて身体の中から湧いてきました。そして、ぱんと弾けてこぼれました。  どうしようもなくてその顔を両手で包んで、口づけました。でも、足りない。これでは全く足りないのです。自分の気持ちが熱い溶岩のように、どろどろと溶けながら流れ出したようです。  「香月さん、柚人さん、起きてください」  「ん?将生......どうしたの、大丈夫?」  起きて見つめられた途端に、泣きたい気持ちになりました。ぽろぽろと涙がこぼれてきて止まりません。  「こ、づ......きさん、す、きです」  何故か涙も言葉も止まらなくなり、一生懸命伝えようと訴えました。どうして何も答えてくれないのでしょう。  「ど、どうしたの?将生?」    「うっ、だ、からっ......ひっ、すきって、うっ、く」  何かが変です、本当に僕はどうしたのでしょうか。  好きでたまらなくて、そして悲しくて仕方ありません。  「だから、さっきから......言っているの、に...ど、して、わか......らない」  どんどんと感情が高ぶってきて制御不可能になりました。気持ちをどうしても伝えたいのに、香月さんはただ俺を見つめているだけです。香月さんに触れて欲しくて、その身体に縋り付いてしまいました。  「将生、落ち着いて。なんだか嬉しいけれど、こんな大サービス。酔ってる?かなり酔ってるな、これ」  言われている意味がよくわかりません。とにかくもう待てません、香月さんのシャツに手をかけると一気に引きおろしました。  「将生」  優しく囁かれた自分の名前に恍惚となりました。  「将生、大丈夫だよ。おまえは一生俺のそばにいるんだ、誰にも渡さないから安心して」  泣きながら何度も頷きました、涙より意識の方が先に途切れてしまったようです。幸せで満たされて、遠のく意識の中で愛しい人にただ手を伸ばしました。

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