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第113話 おはようございます

   「おはようございます」  午後からの撮影でも「おはようございます」が現場での最初の挨拶です。もう引退したはずだと思っていまいたが、最後は華々しくねと丸め込まれて、説得されて何故かまた次の作品に出ることになってしまっています。  多分、もう十分ですからと伝えたと思ったのですが、もしかして言わなかったのでしょうか?いいえ、言ったはずです。  いつも流されて変なところに漂着しますが、そろそろこの先の人生も考えなくてはいけないのではないかと思っています。人生そんなに甘くはないですよね。  もしかするとこのアルバイトは将来にマイナスにしかならないのかもしれないと気が付きました。遅すぎましたか?ええ、今更です。本名も素顔も公には出してはいないけれど、大丈夫なのでしょうか。  香月さんは全く問題はないと言いますが、誰かにバレたらどうするのでしょうか。  今回は何故かいつもと撮影場所が違いすぎます。というよりここはどこでしょうか。  「あの、香月さん?こんなところで撮影をしても大丈夫なのですか?」  何故か連れてこられたところは教会です。ここで何をするのですか、いえ、ナニするのでしょうけれど。それでもここはまずいのではないでしょうか。  「ああ、ここ?大丈夫だよ、映画の撮影用に作られた教会だからね。監督が知り合いの監督さんに頼んで貸してもらったんだよね」  道理で畑のど真ん中にぽつんと建っているのですね。それより監督は、まともに映画関係に知り合いがいるのですか?その事実の方が驚きです。  「監督おはようございます」  「おはよう!斎藤ちゃん、何日ぶりだっけ?」  監督、変わりませんねその口調。それも今日で終わります。よかったです。あれ、ん?僕は被害者ですよね。違うのでしょうか。もうよくわからないままここに立っています。  「辞めちゃうのは勿体ないよね。ファンも結構ついてるのに、斉藤ちゃんの出演作品売れ行きいいんだよねえ」  最初に顔はモザイクかけるとか言っていたはずですが、パッケージで泣き顔デビューしていましたね。香月さんの家で偶然見てしまいましたから。お店で見たことはありませんが、そもそもどこで売っているのでしょう。  「今日は香月ちゃんリクエストで、神父さんもスタンバってるから」  「え?香月さんのリクエストですか?」  「将生が俺と結婚してくれるって言うから、式を挙げようと思って」  「血痕?けっこん?え?結婚ですか?香月さんといつ結婚するなんて言いましたか?」  「え?動画見る?」  「いいえ、結構です」  そうでした。酔っていつの間にか記憶がなくなっていたのでした。  「はい、今日の衣装ね」  あ、白いタキシードですか?と言う事は香月さんがウェディングドレスでしょうか。そう思ったら、ええそうでした。お揃いのタキシードでした。男同士でしたね。  ご存知ですか香月さん?同じ格好をすると足の長さも、そのスタイルの違いも顕著にわかるんですよ。  「教会に二人で手を繋いで入ってくるところから撮るよ。はいっスタート!」  久々に聞いたカチンコの音に変なスイッチの入った香月さんが、ものすごく色っぽい目をして僕の手をとりました。

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