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第114話 ごめんなさい
結婚式を挙げたらそれで家族になれる。そんなわけはありません。子どもだって知っています。けれども、一つだけ問題があります。相手が、あの香月さんということです。
どう考えてもお芝居では済まなくなりますよね。必ずなりますね、そうですよね。だって神父さんまでリクエストした香月さんですから。
これはきちんと話をしないといけません。でも、どう話をするべきなのでしょうか。
「香月さん、あのご存知なのだとは思いますが、日本では男同士で結婚出来ないのご存知でしょうか」
「ん?大丈夫きちんと方法はあるから、心配しないで任せておいて」
心配というより、もう結婚する事を前提に話は進んでいて止めようはありません。
「あの、ですから......」
「将生君、少し直すからこっちに来て」
メイクさんに呼ばれて、「はい」と返事をしてしまいました。その間に、香月さんは他の人と話を初めてしまいました。あれ?さっきの会話は終わったことになってますか?ええ、なってます。
そして、いつものよう綺麗に整えていただき、まるで別人になったような気分で鏡をのぞいてすっかり撮影モードです。
「将生、今日は特別にかわいいよ」
本当に嬉しそうな香月さん。何故か褒められて赤くなってしまいました。僕はやっぱ嬉しいのですね。とんでもない真実を突き付けられたようで、頭が痛くなりそうです。
「じゃあ、香月ちゃん今度はここに立って。斎藤ちゃん歩いて近寄ってね、バージンロード歩くって素敵だよねえ」
残念なお知らせですが監督、僕はバージンロードを歩くことに憧れたことは、生まれてこの方一度もありません。
いつの間にか神父さんも定位置に立ってます。
結婚行進曲が流れる中、一人でバージンロードを歩いています。その絵面は想像だにしたくありません。監督の指示により香月さんの手を取りました。
これは撮影のはずです。どうして僕は変な緊張をしているのでしょうか。
「あなたは、香月柚人を夫として迎えいかなる時も愛することを誓いますか?」
「……ご、ごめんなさい、考えさせてください!」
「ええっ!何言ってんの?約束したよね、約束!」
酔っぱらいの戯言でも契約になるのでしょうか。
「そんなの許さない!」
香月さんの表情が怖いですいきなり肩を掴まれて床に押し倒されました。
「お二人共、待ってください」
借りてきた神父さんが焦っています。滑稽な絵面です、喜劇の撮影中でしたか。あれ違いますか?まあ成り行きで仕方ないですが。
「将生、ここで前言撤回はさせないよ」
これは台本通りなのでしょうか、それとも香月さんの本音なのかさっぱり分からないままです。僕の白いタキシードは着用時間役三十分で僕の体から剥がされていくことになったようです。
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