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第115話 よろしくお願いします
デビュー作と同じで、無理やりのパターンでは僕は終わるのでしょうか。情けないスタートは、情けないエンディングを迎えるしかないのでしょうか。
諦めるしかないのでしょうかと思った瞬間に香月さんの手が止まりました。
僕の顔を見つめて、悲しそうな顔をしています。その時、ぱたっと一粒の涙が僕の顔の上に落ちてきました。
「えっ?」
いつも自信に満ちていて常に我が道をゆく、そんな香月さんに有り得ない状況です。驚いて一瞬体が硬直しました。
「将生は……俺をどうしたいの」
真剣な目で語りかけてきます。僕が悪いのでしょうか。そうなですか?最初は香月さんに流されてこんなところに流れ着いています。
「俺はいつも将生に振り回されてばっかりだ」
あれ?振り回されていると思ってたのは僕だけじゃないという事でしょうか。
僕の意思を全く無視してはいますが、いつも結局香月さんに助けられていたのは確かです。
ジェフの撮影の時も助けてくれましたし、カメラマンの臣人さんからも。
もしも最初の相手が香月さんではなかったらと、そう考えるだけでもぞっとします。
「どうしたいのかわかりません。でも好きですよ」
ああ、とうとう認めちゃいました。もし、あの時あのバンに出会わなければ、今も背中を丸めて歩いていました。きっと楽しい思いもすることなく。
こんな胸のときめきも覚えることなく。あ、こうやって僕のために泣いている香月さんを見上げると心臓が小躍りしてしまいます。仕方ないよですね。本当に苦しくなるくらい愛おしいです。これはもう理屈じゃありません。
どうするって?こうなったら降参するしかないでしょう。
「香月さん、これからも……よろしくお願いします」
「将生!?本当?俺がんばっちゃうよ」
「あっ、頑張るのは無しでお願いします。これ以上頑張られると僕の身がもちません」
きれいなピンク色のオーラを発しながら、見下ろしている香月さんが楽しそうに声を立てて笑いました。さっきの涙は少ししょっぱかったけれど、今は甘い香りが漂っています。
ん?甘い香がしてきました。あれ?いつの間にか薔薇の花びらが周囲に巻かれていました。
ああ、何言っちゃったのでしょう僕は、撮影中でした!
「よーし、このまま撮るから」
僕の告白は今回のDVDの中に収録されるってことですね。と言うより、あの涙がまさかの演出ってことはないでしょうね。そんな演技にほだされて、開けてはいけない扉を開けてしまったのでしょうか。
今さら聞けない、聞きたくないです。そうだ、僕の告白も演技ってことにはならないでしょうか。あの笑顔、本気ですよね。
わかっています。これまでの僕の人生二十年以上ハズレくじしかくれなかった神様が、気まぐれで置いた一番の当たりくじ、それがきっと香月さんなのでしょう。
神父さん、ごめんなさい。こんなところでお待たせして。でも香月さんのブレーキは今絶対にかかりません。そのくらいのことは知っています。
もうしばらく、さっきの続きはお待ちください。
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