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第116話 また後で
「あの、すみません。皆様、できればそろそろ先に進めたいのですが」
そうでした、神父さ待っていました。当然ですよね、その位置からとんでもないものを見下ろしていただいております。僕も誰かに見下ろされながらことに及ぶ趣味はありません。多分、無いと思います。
こんな場面に立ち会う事になってしまった神父さんにしてみれば、巻き込まれ事故ですね完全に。
「あ、そうですね。もう帰っていただいて結構です」
監督の言葉に驚きました。あれ?意外とあっさり帰してしまいましたが、大丈夫なのでしょうか。
でも、これで結婚式はお流れですね。良かったと胸を撫で……おろせませんね。実際にはもう香月さんが撫でていました。
……まあ、意味は少し違いますが。
「将生、大丈夫だよ。安心して、また後で来てもらうからね」
何をこの状態で大丈夫だと言うのでしょう。思わず苦笑いになってしまいました。
「ん?嬉しいの?」
何故か香月さんには独自のフィルターがあるようです。絶対に自分に都合の良いように受け取ります。苦笑いも笑顔に見えるようです。
ところで、まだ半分位は布が身体にかかって残っていますから全裸ではありませんが……このままどこまで流れるていくのでしょう。
流れ着く先には何が待っているのでしょう。
「あの……香月さん、ここで…ですか?」
神父さんは帰ったとはいえ、教会の赤い毛氈の上ですごい格好になってきている事をご存知でしょうか。これはとても不謹慎な事じゃないかと思うのは多分僕だけです。ええきっと、この面子だとそうですね。
今は神前での誓いの言葉よりできれば、落ち着いて考える時間がほしいです。それとも何ですか、これは何らかの儀式なのでしょうか。
「香月さん、あの……」
「ん、どうして欲しい。言って、今日はして欲しい事をしてあげるから」
して欲しくない事はたくさんあるのに、して欲しい事は思いつきません。
「んーと、将生のいいとこはここだよね」
いつの間にか体の中に埋め込まれた香月さんの指先が、ぎゅっと気持ちのいいところを擦っていきました。それから、足の付け根のところを押されてぞぞっとする感覚が上がってきました。
「あ、んんっ」
これは条件反射です。決して……決して気持ちいいからでは、決して……ああ、気持ちいいです。
カメラは最近風景の一部に見えてきました。
あのカメラの向こうに何千もの人がいて、見ていてくれると思うとわくわくしないか?と、以前香月さんに聞かれました。
でもその余裕があるのは多分香月さんの方だけです。
僕は、もう香月さんでいっぱいで既に何も見えなくなってきました。
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