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第121話 ロックの日に

(こちらはSSクイズ企画の正解景品としてhonoluluさん用に書き下ろしたものです。この章のタイトルはお借りしたキャラが登場する作品名です。ぜひそちらもどうぞ!) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   昨日の夜は遅くまで撮影が入っていて、昼過ぎまでは寝かせてくれと将生に頼んでおいた。絶対に起きないと思っていたのに、喉が渇いて目が覚めた。ベッドの上で身体を伸ばす。きっと愛しい恋人は、今頃俺が起きてくるのを待っているのだろう。脅かしてやろうと思って忍び足でリビングへ入ろうとしたときだった。  「……ですね?はい、分かりました。……もちろん、香月さんには内緒で出かけたいので。お会い出来るのを楽しみにしています。はい、また後で」  え……俺に内緒!将生が、俺に隠し事。心臓が痛い、死ぬんだ。俺はもう死ぬ……。大げさじゃない、将生に捨てられたら生きている意味はなくなる。  ふらふらと寝室へと戻りベッドに沈みこんだ。ぱたぱたとこちらに向かって歩いてくる足音がする。慌てて、寝た振りをする。  「香月さん?まだ寝てますか?買い物に、あの、そのっ。あ、そうだ!買いたい服があるので出かけてきますね」  買いたい服?なんだそれ、嘘をついている。将生が嘘をついている。  「うーん」  大きく寝返りをうってみせる。こんな下手な演技しかできない。なのに将生は「じゃあ行ってきます」と出て行った。  飛び起きると、服を着替える。この前の撮影で使った黒いコートにサングラス、これで大丈夫。冗談じゃない、将生の不貞を見て見ぬふりするほど大人じゃない。  携帯の電源を入れるとGPSで将生の今いる位置を確認する。犯罪じゃない、これは愛だ。将生がどこにいてもすぐに駆け付けられるようにしておかなければいけないのだ。俺の恋人は騙されやすい素直ないい子なのだから。  駅前の新しくできたショッピングモールだ。こんなところで誰と逢引きすると言うのだろう。CDショップで大人の男の横ではにかむ将生がを見つけた。  ああ、可愛い。俺の恋人はあんなにも可愛い。隣にいる男は……まあ綺麗だけれど、けれども俺よりは劣るはず。  「さすがですね。本当に楽しみです」  え、褒めてる。誰をなぜ?困った、これは困ったことになった。ぷるぷると腕が震えた。その時、自分のそばに同じように二人を見つめている男がいた。  「……ん?」  その男もこちらに気が付いたようだ。  「あの、少年は君の恋人かね?」  「は?誰ですかあなた?」  「ああ、失礼した。ヒロ……いや、三枝君が僕に内緒でこそこそとしていたのでね」  「俺の恋人と仲良くしているあの男ですか?」  「なるほど、君の恋人という事だね」  二人で真剣に話し込んでいたら、突然横から声をかけられた。  「香月さん!何してるんですか?」  「菅山先生、何をここで?」  上手に隠れていたはずだった。なぜバレたのだろう。  「香月さん、その長身でそんな目立つ格好して、見つけて下さいって言っているようなものですよ?」  ああ、失態だ。  「一体、何をこそこそと」そうだ!菅山先生とやら言ってやれ。  「え!?斎藤君は卒業生ですよ?同窓会の幹事を引き受けてくれて、今日はビンゴの景品を買いに……」  はあ?なぜそれを秘密にしようとしたんだ?え!?どういうことだ。  「香月さん、言ったらあとついてくるでしょう。どこに行くのも目立ちすぎて困るんです。だから一人で来たかったのに。台無しです!」  あれ……将生が不機嫌だ。怒っているかもしれない。いや、え、俺の思い過ごし?  「し、心配するだろう、恋人がこそこそと他の男と出かけたら」  「高三の時の担任の先生ですよ!」  「将生が俺を心配させた事には変わりない。お詫びにビンゴの景品は私が手配します。可愛い将生の元クラスメイトですから任せてください」  絶対に将生のDVDを特賞に入れてやろう、こいつは俺のものだ。  「香月さん?DVD関係は一切だめですよ?」  あれ?釘を刺されてしまった。俺の一番の宝物なのに。

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