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午後0時のサボタージュ (2)
午後六時十五分。
「あ、理人さん? 佐藤ですけど……はい、お疲れ様です。今、どこですか? ……じゃあ、あと五分くらいで着くので、下に降りてきてください。……あ、そうですね。ご飯は途中で……え? あ、いや、ただ、理人さんと夜の街をドライブしたいなあと思って。……友達から借りました。俺とドライブするのは嫌ですか? ……よかった。じゃあ、あとで……あ、理人さん。保険証って持ってますか? ……そうでしたね、いつも財布に……いえ、なんでもないです。じゃあ、五分後に……はい、安全運転でいきます。……じゃ」
スマホを助手席に放り投げ、エンジンボタンを押すと車は低いうなり声を上げた。
カーナビの画面が明るくなるのを待ってから、目の前にそびえ立つ焦げ茶色のマンションを見上げる。
すっかり闇に包まれた空にも、ぼんやりと輪郭が浮かび上がっていた。
上から二番目の西向きの部屋に視線をずらすと、フッと明かりが消えた。
同時にスマホが震え、『いまからおりる』と短いLIMEの受信を知らせる。
「理人さん、怒るかな……怒るよなあ」
俺は心の中で謝りながら、ハートを飛ばして抱き合うクマとウサギのスタンプを送った。
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