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後日談(2-2)
「あ、藤野先輩、グラス空じゃないスか。次、なに飲みます?」
「なんか良い焼酎、ない?」
「それなら俺が選びますよ」
三枝さんからメニューを譲り受け、アルコールのラインナップを確認する。
藤野さんはつまみどころか突き出しにも手をつけず、乾杯してからずっと浴びるように酒を飲んでいる。
きっと空きっ腹にじんわりと染み渡るあの感覚がたまらないんだろう。
だとしたら、宮下さんと同じタイプだから……あ、あった。
これならきっと喜んでもらえるはず。
「すみませーん!」
頼んだ黒糖焼酎は、すぐに運ばれてきた。
グラスからはみ出しそうなくらい盛られた氷が、ガラスにぶつかり高い音を立てる。
藤野さんは上品に少しだけ口をつけると、にこりと微笑んだ。
「すごく美味しい。佐藤くん、いいセンスしてる」
「ありがとうございます」
ホッと息を吐く俺を見て長い髪を揺らしてみせ、藤野さんはまたグラスを傾けた。
ひとつひとつの仕草がすごくかっこいい。
理人さんよりも先輩だから、年は三十代半ばだろうか。
本人は気にしてないみたいだけど、モテるだろうなあ。
男からと、同じくらい女子からも憧れられてそうだけど。
「ねえ、神崎くん」
「だったらそれは新システムになってからの方が……はい?」
真剣な顔で三枝さんと語り合っていた理人さんが、アーモンド・アイを瞬かせた。
艶めく球面に、藤野さんの不自然なほど綺麗な微笑が反射している。
「聞いたよ? まーた告白されて、まーたフったんだって?」
軟骨の唐揚げが、箸の間からポロリと落ちた。
ぽかんと開いた理人さんの口から音が漏れる前に、わめき声が店のBGMをかき消す。
「なんだよそれ!? 俺、聞いてねぇし!」
「……」
「いつだよ!?」
「……昨日の、朝」
「相手、どんな子だったの?」
形の良い眉毛を持ち上げて、藤野さんが理人さんをさらに追い詰める。
ふたつの揺れる瞳が俺を見て、でもすぐにそっぽを向いた。
求めた救いは得られないことに気づいたんだろう。
自分が今どんな顔をしているのかは分からないけど、無理やり持ちあげた頰の肉はきっとヒクついているに違いない。
だって、
――まーた告白されて、まーたフったんだって?
そんなの、俺だって聞いてない!
「別に……知らない人です。通勤電車が一緒だとかで……」
「うっわ、なんだそりゃ!? 漫画かよ!」
「知るかよ! って……なんで藤野先輩が知ってるんですか」
「決まってるでしょ、も・く・げ・き・しゃ」
「……だれ?」
「残念、それは守秘義務でーす」
うふふふ、と怪しげに笑う藤野さんは、完全に酔っ払っている。
理人さんは「はあああぁぁー……」と長―いため息を吐き、もうこの話は終わりだとばかりに顔を背けた。
でもまさか三枝さんがそれを許すはずもなく、ズズズズ、と音を立てて椅子を引きずりながら、理人さんの方に寄っていく。
「ほんっとなんでお前ばっかなんだよ!? 顔か? 世の中顔なのか!?」
「ちょ、離せよ!」
「お前みたいなめんどくせー男のどこがいいんだよ!? なあ、佐藤くん、わかる? ぜってーわかんないよな!?」
「えっ!? あ、えっとそれは、う、うーん……」
酔っ払いナンバー2の勢いに気圧されながら、俺は乾いた笑いで応えることしかできない。
だって、
――ほんっとなんでお前ばっかなんだよ!
その理由、俺にはわかりすぎて困るくらいわかっちゃうから。
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