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Zero(1)

「へえ、なかなかきれいにしてあるもんだな」  東側の診療所の中を見まわしながら言うのは、ユーリがニコラの次に懐いている男だ。  ジャンカルロ・バロテッリ。流れの傭兵で、条件さえ合えば殺し以外ならなんでもしてくれる。ユーリが度々訪れるパニーノハウスのオーナーでもある。傭兵らしくがっしりとした体格をしており、ニコラとほぼ変わらない長身で、海を隔てた隣国・オレガノに住むネーヴェ族とノルマ族のダブルだ。その為かニコラやリズたちほど抜けるような白い肌ではない。薄く褐色がかっているのはジャンカルロが仕入れの為に度々埠頭を訪れるために日焼けをしているためもあるが、どちらかと言えば肌の色がユーリたちに近く、見るからに豪快そうな風貌は昔からまったくかわっていない。  ユーリはニコラの静止を振り切って大学を出た後、ジャンカルロに護衛を頼むことを思いつき、東側のスラムまで連れてきていた。そもそもジャンカルロ以外にユーリが頼める相手などいない。彼は仕事でミクシアを離れていることもあるが、今日はたまたまパニーノハウスにいたのを半ば無理矢理に頼み込んだのだ。 「前々から言おうと思っていたんだが、おまえさんはなんだって危ないことに首を突っ込もうとするかね」  やれやれと言わんばかりの声色で、ジャンカルロ。待合室にある簡素なつくりの長椅子に腰を下ろし、たばこに火をつける。ここは禁煙と語気を強めると、ジャンカルロは悪い悪いと言いながらも紫煙をくゆらす。肺に吸い込んだそれを細めて吐き出すと、胸ポケットから取り出した簡易灰皿に押し付け揉み消した。 「たまには二コラやドン・アゴスティの顔を立ててやったらどうだ? おまえの学費や生活費諸々、税金で賄われているとは雖もそれは栄位クラスになってからのことだろう」  ジャンカルロの言い分は尤もだ。ユーリが栄位クラスに推薦されるまでの間も税金で支援されていたのだが、それでも足りない部分はドン・アゴスティの私財で助けられていた部分がある。しかしそれ以上のことをジャンカルロは知らないようだ。 「栄位クラスに入ってからは確かに税金で……って話が出ていたけど、それは研究費の話で、いまの生活費もそれまでの生活費も、学長に一括返済してくれたそれはそれは奇特なお嬢様がいてな」  ユーリの言葉を受け、ジャンカルロは呆れたような表情で両手を大きく広げて見せた。お手上げだと言いたいようだ。 「セラフィマ嬢はなんだっておまえさんにそこまで肩入れすんのかね? もしかして惚れられたか?」 「万が一にもそれはない。あいつ婚約者いるし、俺は俺でどれだけ好みの女性だろうがノルマなんかと番う気はない」  ユーリがぴしゃりと言い捨てる。ジャンカルロはいいご身分だなと苦笑を漏らし、思案顔でガリガリと頭を掻いた。  ユーリ、サシャ両名に出資しているのはディアンジェロ家――つまりキアーラの家だ。さすがにスラムの件はユーリが貯めた金で工面しているが、それ以外は年に一度に振り込まれる有り得ないほどの金額から少しずつ使用している。キアーラからはアンゼラ地区ではなく上流層街の一角にある離れで暮らせと再三言われているのだが、さすがにそれは勘弁してくれと固辞した。  キアーラはこの国の誰よりもイル・セーラに対しての偏見がない。聞けば幼いころからイル・セーラを使用人として雇っていたらしい。ユーリとの出会いも4年前に臨床研究としてキアーラが収容所を訪れた時に、昔家にいたイル・セーラの友人だと思い込み話しかけてきたことからだ。つまりユーリとサシャのみならず、イル・セーラが収容所から出ることができたのは、ディアンジェロ家のおかげということになる。あのとき、キアーラがユーリのいる収容所に臨床研修にこなければ、今頃どうなっていたか。  その時のことを邂逅しつつも、ユーリはキアーラの強引さに多少うんざりしている節もある。出資のことをちらつかされたことは一度もないが、負い目があるがゆえにユーリ自身キアーラのお願いにはめっぽう弱い。あんなふうに泣かれてしまっては、いつかディアンジェロ家の使用人から投獄依頼が出るのではないかとも考えてしまう。そんなことを家でぼやくような彼女ではないが、分かりやすいが故に使用人なら気付きそうだとサシャでさえ言うほどだ。 「セラフィマ嬢からも危ないことをするなと言われねえか?」  ジャンカルロが真顔で尋ねてくる。言われないわけがない。だからこそ密告される可能性が少ないほうを選択しているのだ。 「キアーラは俺のことを友人だと言ってくれる。俺もそう思っているし、できれば彼女を傷つけたくないし、悲しませたくもない。だけどそれと今回のことは別問題だ」  白衣を脱ぎ、簡素なテーブルに放り投げながら、ユーリ。 「別問題?」  訝しげにジャンカルロが問う。ユーリは頷き、いましがた持ってきた薬品箱に視線をやった。 「マフィアの連中は、俺と診療所が邪魔で妨害工作をしてきた。自分のシマに妊婦がいることをわざと匂わせて俺を誘き寄せ、捕えようとしたんだ。でも“まともな”ピエタからの邪魔が入ったってところだろう」  ピエタは以前から一枚岩ではなく、2人の司令官が指揮を執っている。警邏隊と捜査隊の中でさえ分裂しており、よく観察しなければどちらがどの派閥なのかもわからないほどだ。ただ一組だけほかのピエタとは異なる腕章をしている隊がある。それを“まともな”ピエタと呼んでいるが、まともなのはユーリに色目を使ってこないことと賄賂を絶対に受け取らないという行動だけで、ピエタに属しているというだけでユーリにとっては嫌悪に値する。 「その“まともな”ピエタは軍部と学長の犬。だから俺が護衛を頼めば一挙手一投足軍部や学長に情報が流れることになる。それは嫌だし困る。  それであんたにここまでの護衛と、俺がここにいる間の警護を頼みたいんだ。あんたがいてくれるならかなり心強いんだけど、引き受けてもらえないか?」  ジャンカルロは物珍しそうな視線をユーリに向けている。そこまで考えていたとはなと誰に言うともなくつぶやいて、無精ひげを触った。やはり思案顔だ。ジャンカルロは割と直感で動くタイプだが、なにか思惑があるのだろうか。 「俺がおまえの頼みを断ったことがあったか?」  断られるかと思ったが、ジャンカルロはすぐに表情を明るくして言った。こちらに来いと手招きをする。ユーリもまた表情をぱっと明るくしてジャンカルロに駆け寄った。  ジャンカルロのことは収容所にいる時から知っているが、ほぼいつもユーリのお願いを聞いてくれる存在でもある。わしわしと頭を撫でられ、ユーリはくすぐったそうに笑って肩をすくめた。 「昔の誼で依頼料は格安にしておくぞ」 「いや、それは悪いよ。危険を伴う可能性があることだし、ちゃんと言い値で払う」 「なんだ、しおらしい。値切った分は体で支払ってくれるとでも言ってくるかと思った」  冗談めかして笑うジャンカルロをじろりと睨み、バーカと尖り声で揶揄する。そんなことが学長の耳にでも入ったら大事だ。そもそも本当に値切った分を体で支払うなんて言った場合、それが二コラにバレた時が面倒くさい。ユーリが一方的に懐いているだけでべつに好き合っているわけではないが、二コラは割と独占欲が強く嫉妬深い。絶対に面倒なタイプだからと一線を引いていたが、ピエタに違法薬物を打たれて混乱していたときの治療と称して一度関係を持っただけだというのにやたらと世話を焼いてくる。ごろつきたちにまわされた時など、二コラは彼らを殺しに行くんじゃないかと思うほどに息巻いていた。決して人付き合いの良くない二コラだが、一度懐に入れれば後生大事にする。彼はそういう性質なのだ。 「二コラが怒るし、隅々までいやって程洗われるから」  だから嫌だ。そう言ったユーリの表情は明らかに経験上のものだ。めったに見られないしょげたような表情を見て、ジャンカルロが吹き出した。 「おいおい、お友達に邪険にされたくらいでしょげるなよ」  明朗に笑いながらジャンカルロがユーリの頭をわしわしと撫でる。そんなんじゃねえよと言いながらも、ユーリはその手を払いのけなかった。そんな気力もない。無意識にため息が漏れる。 「二コラに感情の機微を察してもらおうと思った俺がばかだった。あの堅物にそんな芸当ができるわけがない。あれは女性にもてないタイプだし、好みのものをリサーチせずに贈り物をして盛大に外したことがあるに違いない」  そもそも嫌だと言っているのに全身隅々まで洗うなんてひどいにもほどがある。口の中で呟いて、その時のことを思い出したら自然と寄ってくる眉間のしわを指で伸ばした。 「そりゃあお友達の階級上仕方がないんじゃないか? 彼は中流階級と雖も親父さんの一件で上流階級に昇進しただろう。ピエタが危険極まりないのは下流階級とスラム街の連中、それにおまえたちイル・セーラにとってだけだ」 「それはわかってるつもりだけどさあ。あいつはいつも俺が言わなくてもいろいろと察してくれるから、たとえ学長命令でもあんなふうにピエタを連れてくるとは思わなかったんだ」  まるでぼやくように言う。むしろ自分のことを思ってくれているからこそ比較的無害な連中を連れてきたのだろうと頭ではわかっているのだが、如何せん心が順応しない。ユーリにとってピエタはそれほど信用が置けない機関なのだ。  二コラは元々中流階級のなかでも上層に属していたようだが、国医(同盟国間ならどこで診療・研究ができる権利を持つ医師)だった父親が殉職したことを期に、父親の功績を称えられ上流階級に昇進している。たしか二コラが16、7歳の頃だったと話していた記憶がある。それまでも中流階級だったこともあり、二コラにとってピエタは街のガードマンのような存在でしかない。珍しくしょげているユーリを見てジャンカルロがニヤニヤと笑っている。はたとなんのためにジャンカルロをここに連れてきたのかを思い出す。いかんいかんと頭を振り、両頬を勢い良く叩いた。 「よし、もういい。切り替える。  それでニコラがいない時にここまでの警備を依頼するとしたら、どういう条件なら受けてくれる?」  首を少し斜めに傾けて、色を孕んだしぐさで言う。ジャンカルロはそうさなあといいながら無精ひげを撫でた。  人がいいとはいえジャンカルロも男だ。収容所にいた頃に何度か抱かれた経験がある。けれど今回はそれはなしだとあらかじめ伝えているから、割といい金額を請求されるに違いない。 「あのさあ、言い値でって言ったけど出来たら15リタス以内に納めてもらえるとありがたいんだけど」  ねだるように言いながらジャンカルロのほうを向いた時、銃口を突き付けられているのに気付いた。  状況が呑み込めない。明らかに殺気がないうえにまるで試すような表情だ。目をしばたたかせるとジャンカルロが片目を細めた。 「この国でノルマ以外が真っ当に生きようとすると誰かに媚びるほかない。俺だってそうだ。好きでもない軍部に従っていざというときに身を守ってもらうことにしている。  ノルマもネーヴェも、おまえたちイル・セーラが考え付かないほど狡猾で卑怯だ。馬鹿正直に生きていくなんてのは情けなくて反吐が出るほど嫌いな考えでね。だからお前がやろうとしていることに賛同者が少ない。  大概が人を信用させておいて裏で甘い蜜を吸う。そのほうが楽に生きることができる。信用を失おうと人から疎まれようと、その時が楽だからな。国の意識がそうでも、それでもスラム街をどうにかしてやりたいと?」  ユーリはうなずいた。ジャンカルロが言っていることは尤もだ。二コラからも、そしてサシャからも言われた。関わり合いになるな。放っておけ。首を突っ込むことが彼らのためになるとは限らない。そうとまで言われて一時は諦めかけたのだが、どうしても外の世界を知ることもなく死んでいった仲間たちのことが頭をよぎった。 「階級制度や国のあり方を批判するつもりはない。そうすることで統制を取っているつもりなのだろうし、長く根付いたものはそう簡単に変わりやしないさ。俺が吠えたくらいで変わるのなら最初からこんな国造りなんてしていない。  そんなことよりも、生きる権利を平等にするのが先決だ。スラム街と上流層では受けられる医療の格差があるのは問題視すべきだけれど、それよりそもそも医療を受けられないことを是正していかなければ、よくなるものもよくならないだろ。  俺が奴隷だったころに適切な医療が受けられなかったせいで多くの仲間を失ったから、だからこそどうにかしたいんだ。ジャンカルロだってそうだろ。この国への居住権がない流れの傭兵も、怪我をしたところで軍部かピエタとつながっていなければ医療を受けることができない」  ジャンカルロがうなずきながら無精ひげを触る。少しして構えていた銃を下した。 「なるほど。ただのガキの我がままなら無理やりにでも脅してくだらない考えを改めさせようと思っていたが、そういうわけではないんだな」 「俺がただの我がままでこんな危険なことをしているとでも思ってたのか?」 「法律を逆手にとって相手をたぶらかした挙句に収監するなんていう無謀な賭けを思いつくおまえならやりかねないだろう」  真剣な面持ちで言ってのけると、ジャンカルロはレッグホルダーに銃を押し込んで腕を組んだ。 「その感覚はどこで養ってきたんだ? 10年以上奴隷生活を送ってきたなら多少はミクシアの腐った制度に毒されていても不思議じゃねえのに」 「奴隷だったからだよ。俺はミクシア外から来た客もとってたし、一日に何人も相手にしたくないから、わざと無知なふりをしてピロートークで時間を稼いでた」 「あっはっは、そうだったな。それなら俺は上客だったろう。あの収容所には何十回と赴いたけど、お前と寝たのは片手で足りる程度だ」 「手土産のクロスタータ(生地にアーモンドパウダーなどを練りこんだクッキー生地のタルト)と楽ができるのが目当てで、あんたが来てくれるのが待ち遠しかったよ」  おどけたようにユーリが言うと、ジャンカルロは満足そうに笑みを深めてユーリの喉元を指で撫でた。たこだらけの武骨な指だが不快な感じは一切ない。 「それなら俺からの条件は毎月1リタス。びた一文負けてやらんしそれ以上もとらん」  そう言った後で、ジャンカルロがユーリの額にキスを落とした。慈しむような眼の奥に情が孕んでいくのを感じながら、ユーリは口元を持ち上げた。 「その代わり、おまえの知識を安売りすんな。その知識は武器だ。生きるための術であり、身を守るための術でもある。いまやおまえしか知り得ないことも数多くある。それらをノルマ族のエリート様たちは喉から手が出るほど欲しがっているんだ。それをエリート様が目にする前に、スラムの人間がただで受けられるとあっちゃ、エリート様たちが怒って当然だ。おまえを消そうと躍起になる。  いいか、ユーリ。スラムで診療所を続けるつもりなら、決してイル・セーラの知識を見せるな。ノルマと同じ手を使え。なんならネーヴェの手でもいい。ノルマはネーヴェに虐げられ土地を追われた過去がある。いまの若者は知らんが、俺らくらいの年齢のやつらは大抵ネーヴェのやり口も頭に入ってるってもんだ。俺が言いたいことは分かるな?」  頷く。間を置いて、もう一度頷いた。  やはりジャンカルロは頼もしい。国の情勢もそうだが、幼いころからずっと収容所にいたせいで種族間の関係もスラムの成り立ちの詳細もなにひとつ知らないのだ。様々な国を傭兵として渡り歩いてきたジャンカルロの知識と勘は大きな武器になる。 「それらも含めて、あんたの知識が欲しい」  そう言うと、ジャンカルロはにっかりと笑ってユーリの頭を豪快に撫でた。 「わっ、やめろよ、髪が乱れるっ」 「ははは、交渉成立だな。お友達に言っときな」  ジャンカルロがユーリの髪を指に絡ませる。ユーリが髪を伸ばしているのは、ジャンカルロの趣味でもある。奴隷解放されたときに一度バッサリと切ったのだが、そのときにジャンカルロがおもちゃを取られた子犬のように寂しそうな顔をしていたものだから、仕方がなく伸ばしている。ユーリ自身はものぐさであまり手入れをしないが、キアーラは同性の友達がいないこともあり、ユーリの髪を手入れしたりアレンジしたりして楽しんでいる節がある。ユーリがそれを許しているのはキアーラに気を許していることもあるが、ジャンカルロに火をつけるためでもあった。 「銃を向けられても怯みもしないくせに、ピエタと一緒に歩きたくないなんてまるでガキみたいなことを言う。そのギャップがまたいいんだが」  言いながらジャンカルロがユーリの顎を掴み、親指で頬を撫でる。表情は変わらない。けれど情欲を孕んだ目つきだ。武骨な手が首筋を撫でていく。 「そりゃそうと、ネーヴェがノルマと戦争をおっぱじめようとしている…なんていったら、信じるか?」  ユーリはきょとんとした。4年前まで奴隷だったユーリは国家間の情勢に疎い。この4年間でミクシア史を覚える機会は幾度もあったが、考査を終えればすぐに忘れてしまうほど興味がないのだ。よくわからないと正直に答えると、ジャンカルロは苦い顔をしてユーリを流し目に見た。 「フィッチがミクシアを欲しがっている。前ミクシア王は戦略に長けていて、彼が即位していた30年の間、ミクシアは戦争で負けたことがない。だが現ミクシア王――バルド王はいまいち信用に欠ける。ミクシアが生き残る方法を考えているとは到底思えないんだ」 「同盟国間協定…とかいうのがあるんだから、フィッチがミクシアに攻め込んでくるなんて考えられねえんだけど」 「それはおまえたちがフィッチの強欲さを知らないからだ。  フィッチは欲しいものを必ず手に入れる。いまはオレガノに締め上げられていて全面的にドンパチを繰り広げられるほどの余力がないだろう。だが、人口も戦力も大差ないミクシアとのバランスがもし崩れたら、海底資源も鉱物資源も豊富なミクシアを手に入れたいという欲が出る。もしそうなったら、フィッチは確実にミクシアを落としにかかる」  ジャンカルロの言葉には信憑性がある。ここ最近明らかに違法と思われる薬草や薬品が蔓延しており、それらはミクシアでは採取できない以前に自生しない薬草なのだ。ミクシアよりも気温が低い場所――すなわちフィッチしかない。  なるほど、話が読めた。ユーリは自分の髪を指に絡めて遊んでいるジャンカルロの手を取った。 「そういう話なら、格安でこの仕事を引き受けてくれたのは、あんたにとって好条件でしかないってわけだ」  俺は大損じゃねえ? と冗談めかして言うと、ジャンカルロは大口を開けて腹の奥から声を出して笑った。 「ばれたか」  さすがに鋭いなと、ジャンカルロ。リズもフィッチの違法薬物が持ち込まれているという話をしていた。スラムなら街ほどピエタの介入もないから裏取引もやりやすい。 「状況は分かった。スラムにいればなんかしらの情報を小耳にはさむことだって多いだろう。一応武器を携帯しておいたほうが?」 「バカ。そのために俺がいるんだろうが。おまえが意外と腕っぷしが強いことは知ってるが、その手を傷つけられでもしたら元も子もない。  襲撃を受けることがあれば全力で逃げろ。ピエタから自衛の許可が降りていない状態で武器なんか持っていたら、それこそピエタに収監される。あそこは治外法権だから、なにをされても文句は言えないぞ。マワされた挙句罪をでっち上げられでもしたらどうする?」  まるで見てきたかのような言い分に、ユーリは鼻白んだ。それは数ヶ月前に身をもって経験した。ただ乱暴に抱かれ、薬で前後不覚にされていたせいで、ほとんど覚えていないが。 「ピエタなんかにやられるより、あんたにねっとり抱かれるほうが好みだ」  熱を孕んだ視線をジャンカルロに向ける。大きな手が伸びてきて頬に触れた。親指で頬をすりすりと撫でられる。そうかと思うとジャンカルロの唇がユーリに触れた。かさついた厚い唇が重なる。まるでユーリをその気にさせるかのように下唇を甘噛みされた。 「おまえまさか、連中と寝たのか?」 「寝たっていうか、一方的に」  ユーリが言い終えるよりも早く、ジャンカルロがくそっと忌々しげに吐き捨てて舌打ちをした。 「ヴェルノートが自慢していたのは本当だったのか」  低く言った後でもう一度キスをされる。ぬるりと舌が入り込み、ユーリの舌に絡みつく。チュッチュッと濡れた音があがる。ユーリの口腔を好きなように犯しながら、ジャンカルロの大きな手がユーリの尻に触れ、感じる場所に指でくりくりと刺激を与えられる。ユーリから鼻に抜けるような色っぽい声があがった。 「上書きしてやろうか?」  色を孕んだ雄の顔をしたジャンカルロがユーリの耳元で囁く。ユーリは口角を上げ、ジャンカルロの股間を手の甲でするりと撫でた。 「最初からそのつもりだったろ、エロ親父め」  ジャンカルロに頬擦りをして、もう一度猛った股間を弄るように触る。ユーリの行動は合意と受け取ったジャンカルロは、ユーリを軽々と抱き上げて診療所のテーブルの上に押し倒した。荒々しい音がする。 「ずいぶん性急だな。俺を“独り占め”できるなんてまたとない機会だもんな」 「前回は余興ついでのようなものだったしな。衆人環視の中あれだけ派手なセックスをしていたが、ベッドで処女を抱くみたいに扱われたいタイプか? それとも激しくされたいタイプか?」 「あんたの好みでいい」  こりゃあいいと満足そうにジャンカルロが笑う。そうかと思うと下着ごとジョガーパンツを乱暴に脱がされた。膝上あたりでジョガーパンツが止まって少しきついが、それ以上ずり下ろすつもりはないらしい。そのままの状態でユーリの足を上げ、臀部に指が触れた。あつい。じっとりとしている。ユーリに呼び出された時点でこうなることを期待していたのだろう。 「ローションは?」 「そんなもんねえよ。ワセリンならどっかに」  ユーリが言い終えるよりも早く、ジャンカルロがなにかの液体をユーリの臀部に塗り始めた。粘度の高いそれのにおいは嗅いだことがある。マジか。思わずつぶやいたら、ジャンカルロが目を細めた。 「俺の好みでいいんだろ? マリーツィアをキメてのセックスは極上にいいぞ」  マリーツィアは合法のセックスドラッグだ。ユーリは収容所にいたおかげかその手のドラッグに知識も免疫もある。だからそれをローションがわりに使用されるとどうなるかの予測もつく。ジャンカルロがユーリの秘孔にマリーツィアを塗り込みその粘度を助けに野太い指を侵入させてくる。 「中流層街に入るときに引っかかんねえかな」 「バレるような粗悪品を俺が使うと思うか?」  言いながらジャンカルロが指を前後させる。ユーリは体質的にマリーツィアが合わない。用量が多すぎたり別の薬物と混合して使用すると大抵トリップする。ジャンカルロが粗悪品を使うとは思えないが、最近の売人は面白半分に別の合成麻薬を混合して密売するやつがいる為、気が気じゃない。処女を抱くみたいに優しくしてと言っておけばよかったと半ば後悔しながら、ジャンカルロが後ろを解す指の動きに集中した。 「ん、んっ」  鼻に抜けた声が出る。ジャンカルロは確か少し控えめな喘ぎ声が好きだったと記憶している。わざとらしいのは娼婦を抱いているみたいで好かないと言っていたのを思い出す。その判断は正しかったらしい。ごくりと喉が鳴る音がした。 「おまえのそのギャップはたまらねえなあ。エロい表情をする割には淫売女みたいに喘がない。そういうふうに仕込まれたのか狙ってやってんのか知らねえけど、めちゃくちゃにしたくなる」  ユーリはしばらく息を詰めていたが、ジャンカルロの指がユーリを喘がせるように何度もいいところを掠るような動きに変わり、色っぽい吐息が漏れる。半開きになった口から吐息に混じって微かな喘ぎ声があがり始める。ジャンカルロの喉がごくりと鳴ったかと思うと、指の動きがユーリのいいところにマリーツィアを塗り込むような動きに変化する。2本の指で丁寧に揉み込むような動きに、ユーリは全身で悶えた。背中がしなり、腰が浮く。快感から逃れようとする動きを上から抑え込まれ、ユーリはいやいやと首を横に振った。 「っ、あっ、っ!」  マリーツィアの粘度も手伝ってぐちゃぐちゃと粘着質な嫌らしい音があがる。ジャンカルロはユーリの足を自らの身体で押し上げて更に広げるような格好にさせ、右手でユーリの秘孔をほぐしながら左手で器用にベルトをくつろげた。ジッパーをおろし、ズボンと下着を乱暴に下げる。既に張り詰めていた布の中からジャンカルロ自身がぶるんと勢いよく姿を表した。ユーリはふふっと色っぽく笑った。 「相変わらず凶器だな」  赤黒く染まり、先端からじわりと先走りを滴らせ、ユーリの中に潜り込むのをいまかいまかと待ち侘びている亀頭をユーリが2本の指で愛しむように挟む。ジャンカルロが驚いて腰を引くと、ユーリは揶揄するようにカリ首を撫でた。 「ローティーンの俺に挿れていいシロモノじゃねえだろ、これ」  鬼かよとユーリが笑う。ジャンカルロは亀頭をいじるユーリの手を捕まえて頭上に押し付けた。 「先っぽしか挿れてねえし大体いつもお互い手で扱いて終わってやってたろ」 「ははっ、先っぽでも十分苦しかったしすっげえイッたわ」  そもあんたに抱かれて初めてイッたと、ユーリがジャンカルロの耳元に顔を寄せ、吐息混じりにささめいいた。ジャンカルロの喉が大袈裟なほど鳴ったかと思うと、ユーリの秘部にじわりと熱が宛てがわれた。  ふうふうと興奮したように息を弾ませながら、ジャンカルロがズボンを寛げて勃起したペニスを軽く扱いた。ジャンカルロのペニスはでかい。他の男たちよりは気持ちよくイケたのを覚えている。テクニックの差か、それとも相性がいいのかはわからないが、ただ乱暴に抱かれるだけではなかった。  ぐぐっと熱が割り込んでくる。自然と甘えるような声が上がった。マリーツィアの効果なのか、ジャンカルロの熱を感じるだけで背筋に痺れるような感覚が走る。 「ふっ、ううんっ」 「ああ、すげえ、うねって」  ジャンカルロの腰の動きに合わせてテーブルが軋む音がする。ジョガーパンツが邪魔でいいように動けないのか、ユーリの右足を無理やり曲げてジョガーパンツを引き摺り下ろす。レッグホルスターがあるせいで左足にだけそれが引っ掛かっているような恰好のまま、ユーリの腰を掻き抱き、肌が爆ぜる音がするほど腰を振り始めた。 「んっ、んあっ、あっ」  激しい抽送に合わせてユーリのねだるような甘い声があがる。 「エロい声あげやがって。おまえがいた収容所の看守長はたしかエヴァルドの野郎だったな。あいつの趣味でここまで開発されたってのは気に入らねえが、さすがにいい仕事をしてくれる」 「あ、ぁ、はっ」  エヴァルド。聞き覚えのない名前だ。非合法化された際に復讐をされないよう偽名を用いていた可能性もある。そうでなければ末端の自分たちには本当のことが知らされていなかったのかもしれない。抱かれながら冷静に考えた。  ジャンカルロが喜ぶように自ら腰を振り、煽る。呼吸に合わせて腰の動きが早くなっていく。そうかと思うとジャンカルロが勢い任せにペニスを抜いた。乱れた髪を引っ張られ、体を起こされる。視界が反転し、すぐさまテーブルにうつ伏せに倒された。余裕がないのかかなり乱暴だ。  ねじ込むようにペニスが入ってきた。くぐもった声が上がる。突然の衝撃に息が詰まりそうになった。  荒い息遣いだ。耳や首筋を甘噛みされながら激しく揺さぶられる。胸がこすれて痛い。体をよじって胸元に隙間を開けると、ジャンカルロの手が滑り込んできた。 「乳首こねられるの好きだよな? ここだけでイッたのを見た時には驚いたぜ」  シャツ越しに胸をいじられ、反射的に身がすくんだ。ジャンカルロのうめき声があがる。あんまり締め付けんなと掠れた色っぽい声で言いながら腰を振る。そろそろ限界が近いらしい。  ジャンカルロの動きが激しくなるのに伴って、ユーリの喘ぎ声が大きくなった。声を殺そうと思っても体のコントロールが利かない。弾むような短い呼吸に快感に濡れたかすれた声が混じる。たまんねえなとジャンカルロが呻いたと同時に乳首をひねられた。  電撃でも流されたかのような衝撃が体中に走る。不意に与えられた快感に婀娜めいた声が上がる。息を荒らげながらユーリの奥を突きあげるように腰を振るジャンカルロは、ユーリのうなじに噛みついた。 「んんっ、あ、あっ」  無意識に体が震える。痙攣が止まらない。体の奥底から次々に快感が押し寄せる。喉の奥が詰まったような感覚に見舞われ、意識が遠のくのを感じた。 ***  気が付いたらジャンカルロの顔がすぐそばにあった。額には玉のような汗が滲んでいるのが見える。ギシギシとなにかが軋む音がする。すこしざらついてはいるものの柔らかなものに包まれている感覚を覚え、すぐに状況を理解した。テーブルではなく、ベッドに移動させられているらしい。ジャンカルロは口元を持ち上げると、汗で額に張り付いたユーリの髪をさらりと撫でた。 「死んだかと思ってひやひやした」 「はっ。死んだかと思った人間を抱き続けるなんて、随分いい趣味してるじゃねえか」 「離すなとせがんだのはおまえだからな」  ジャンカルロの動きが早くなる。低く唸ったと同時に熱が広がり、ユーリはその感覚に身震いした。 「ふう。相変わらずいい感度だ。本当にドン・アゴスティに抱かれてねえの?」  ユーリからペニスを抜き、処理をしながら言う。ユーリは面倒くさそうに眉を潜めたあと、ふうと短い息を吐いた。 「あるわけねえよ。そもそも、あの人はイル・セーラを奴隷だなんだって未だに差別しているくらいだ。俺みたいなのを抱くぐらいなら場末の娼館で女を買うさ」 「食わず嫌いは損をするぞって俺が言ってやろうか。一度抱かせてやったらいうことを聞いてくれるようになるかもしれない」 「それならこっちも苦労しねえよ。何回か試したけど、無駄だった。他種族間交際にすら眉を潜めるほどの堅物なんだ。金もらえてもイル・セーラなんて抱くわけがない」 「へえ。俺なら喜んで抱いてやるけどな」  足を広げろとジャンカルロが言う。ユーリが言われたとおりに足を広げると、そこに指を差し入れて中だししたものを掻きだしてくれる。わざと艶っぽい声を出すと、ごくりと生唾を飲む音がした。 「おいおい、まだ欲情すんのか? ネーヴェが性欲魔人だってのは本当だな」  からかうように言ってやると、ジャンカルロはふんと鼻で笑ってシーツで体を拭い始めた。ジャンカルロから渡された服に袖を通し、乱れた髪を整える。ジャンカルロはむき出しになったユーリの腿にキスをすると、そこに頬擦りをした。 「なあ、週一じゃダメか?」  ジャンカルロは真顔だ。冗談を言っているようには見えない。ユーリはふんと鼻で笑った。 「それなら契約でも結んでおかないと、後ろにいるピエタ様に収監されるぞ」  ジャンカルロがぎょっとしたように目を見開いた。半開きになっていたドアの向こうには、壁に寄りかかっている人影が見える。モスグリーンの迷彩服。ピエタの制服だ。ユーリはその人物が何者かにすぐに気付いた。急いでジョガーパンツを穿き直して立ち上がり、大げさに面倒くさそうな声を上げながらドアに近づきいて乱暴に蹴り開いた。 「研究の邪魔だけじゃなくセックスの邪魔まですんのかよ。ピエタってのはよほど暇なんだな」  あからさまに敵意をむき出しにした声色だが、男は怯まない。 「失礼。ドン・アゴスティと契約を交わしているもので」 「契約だ?」 「ユーリ・オルヴェの監視、保護を目的とした契約です。貴方は軍部の保護観察下にある。その“保護観察下にあるイル・セーラ”を抱いたそこにいる彼は、本来なら収監対象ですが、貴方の返事次第で手を打つとしましょうか」 「はあっ? 脅しかよ」 「脅しに聞こえましたか?」  ユーリは大きく舌打ちをして、ナザリオと名乗った男の体を押しのけた。状況を飲み込めていないジャンカルロに視線だけを向ける。 「行こう。ピエタなんかと関わってられるか」 「お、おい」 「二コラに言っとけ。俺はジャンカルロと契約した。報酬は月1リタスと法に抵触する無茶をやらかさないこと。あんたが勘ぐってるように条件を餌に抱かれたわけじゃない。合意でさえイル・セーラ相手をするななんて法はないはずだ。  俺の身を案じて真正面から話をしてくれる恩人なんだ。へんな勘ぐりをして脅しをかけてくるのはやめてくれ。だから俺はピエタが嫌いなんだ」  そう吐き捨てて、ユーリはジャンカルロが来るのも待たずに診療室を後にした。 *** 「いいのか? あいつ、ナザリオ・アリオスティだろう」  一定の距離を置いて後ろから着いてくるナザリオに視線を向けることなく、ジャンカルロが耳打ちした。 「知ってんの?」  ジャンカルロはナザリオを気にするように目を眇めて、無精ひげを触った。 「8年前の内紛のことなんて知るわけないよな?」 「奴隷生活真っ最中だからなにがなにやら」  あっけらかんとした口調のユーリ。お前は本当にいい根性してるよとジャンカルロが眉を下げた。 「8年前、パドヴァンとの国境付近のフォルスという廃村付近で内紛が起こった」  フォルスとユーリが誰に言うともなくつぶやいた。フォルスはユーリの故郷だ。ずいぶん前にピエタの前身である機関が攻め込んだことにより滅びた。村自体はもうないと思っていた。 「旧軍部はフォルスの遺構を拠点に善戦していたらしいが、内通者により潜伏個所を暴かれてほとんどが殺された。そのとき戦闘に参加して生き残ったのは500名あまりのうちほんの数名。ナザリオはあちらの捕虜になりながら生き残ったって有名なんだ」 「…ふうん」  興味なさげに答えるが、あの尋常ではない強さの秘密を垣間見た。そりゃあ命のやり取りをしていたならあの強さも納得だと内心する。 「ノルマ至上主義者の連中のやり口はいまだ嫌悪されるほど凄惨だったそうだ。処刑される最期までイル・セーラを侮辱する発言をしていたと聞く。  彼は当時未成年で、捕虜になってから約3か月後に解放されたあとは1年間ほどミクシア郊外の衛生病院に収容されていたらしい」  衛生病院と聞いて、ユーリはマジかよと息をのんだ。精神を病んだ兵士が矯正の為に収容される場所だ。矯正とは名ばかりで、そこの出身者はミクシアの都合がいいように洗脳されている者がほとんどだと聞く。それが噂なのか真実なのかはわからないが、衛生病院出身者にかかわるとろくなことがないとリズも言っていた。 「あれを味方につけておかない手はないぞ。ピエタの中でも一目置かれているうえ、差別主義者とは程遠い思想の持ち主だ」 「だろうな。でなきゃ好き好んでイル・セーラの護衛なんて受け入れねえよ。たとえ命令だとしてもだ」 「なら、どうして?」 「ピエタだから」  ユーリははねつけるように言ってのけた。  ナザリオが悪い人間ではないことくらい、顔相でわかる。お人よし。責任感と正義感が強い。そして博愛主義者。そういう相手のなにが一番怖いかと言ったら、目的を遂行する為ならば手段を択ばないことだ。つまり、自分を守る為なら命すら投げ出す可能性がある。そういうタイプの人間をユーリが最も苦手としているのだ。 「でも東側で救ってもらったんだろ? 本人は口が裂けても言わねえだろうが、おまえをというよりもイル・セーラを守りたいのは罪滅ぼしのつもりなんだろうと思う。捕虜になっているときにイル・セーラの協力者ではないという証拠として何人かのイル・セーラを殺したのだと調書を読んだことがある」 「罪滅ぼしねえ。本当にそう思って警護を引き受けたんだったら、俺の視界から消えていてほしいもんだわ」 「おまえはぶれないな。そういう話を聞いたら態度を軟化させるのが普通だろう」 「生憎と俺は自分の目で見て耳で聞いたこと以外信じない質なんだ」  不機嫌そうに言いながらジャンカルロを引き離そうと歩幅を広げるが、歩調を合わせてくれていたのか簡単に追いつかれた。  昼食はどうする? とジャンカルロが暢気に尋ねてくる。パニーノをおごれ。おごってやる代わりに素直になれよ。じゃあいらないなどと軽妙な掛け合いをしながら東側のスラムを抜ける。    その間、ナザリオはずっと一定の距離を保って着いてきていた。どうにかして撒いてやろうとしたが、ジャンカルロがそれを許さなかった。腰に巻いた白衣を捕まれていては、さすがのユーリも逃げられない。白衣につけている腕章がなければ中流層街に入れないからだ。 「まるで大型犬だな。餌付けすれば案外二コラよりも気の利く相手かもしれないぞ」  まるでナザリオを揶揄するかのようにジャンカルロが言う。ユーリはそれをせせら笑い、大げさに両手を広げて見せた。 「冗談。俺はピエタの次に犬が大嫌いなんだ」

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