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One.【出会い】(2)

 気が付くと、チェリオはベッドに寝かされていた。いいにおいがする。ふわふわした感触。こんなにゆったりと体を預けて眠れたのは何年ぶりだろう。  心地よさに浸る間もなく、激しい頭痛が襲ってきた。瞼が重い。体の異常な怠さに呻き声をあげると、聞き覚えのある声がした。 「気が付いたか?」  どこか安堵したような声だ。この色っぽいハスキーな声には聞き覚えがある。確か、ユーリと言ったっけ。額に手が触れる。ひんやりとしていて気持ちがいい。体を動かそうとすると、すぐさまあの嘔気が襲ってきた。思いきりえずくが、なにも出ない。横にむかされていた理由がわかった。吐しゃ物での窒息をふせぐためだ。  背中を撫でられる。暖かくはないが、心地よい。めまいと吐き気のせいで逃げようという気にもならない。気持ち悪さのせいで忘れていたが、尻の違和感や不快感がなくなっている。どうやらきちんと処理をしてくれたらしい。 「俺はユーリ・オルヴェ。あんたの処置を任された。ここは北側の診療所だ。喋らなくていいからじっとしてろ」  チェリオたちが北側で治療を受けられることはまずない。クラッカーを鳴らしたらアグエロがやってくる手はずになっていたが、ユーリたちに先に出会ったことが幸いした。いや、幸いだったのか、災いなのかはまだわからない。もしもチェリオがユーリたちとつながりがあることが分かれば、イギンの気持ちがどう転がるかわからないからだ。 「警戒しなくてもいい。ピエタは遠ざけてある」  ユーリとよく似ているが、別の声がした。ユーリよりも少し声が低く、口調が穏やかだ。 「彼はサシャ。俺の兄貴だ。“何事か”があったときに対応できるよう呼び寄せた」  じろりとユーリを睨む。体を動かすのもおっくうだ。チェリオはじっとしたままただ背中を撫でられていた。 「あんたが打たれたのは、『ユーフォリア』といういわゆるセックスドラッグだ。少しでも体に回ると三半規管に影響が出るうえ合わない者にはとことん合わないし、様々な副作用が出る。その嘔気も、倦怠感も、すべてそれだ」  チェリオは返事をしなかった。声を出すと吐きそうだからだ。カチャカチャとガラス製のものを扱う音がする。ユーリは返事を求めているわけではなかったようで、チェリオに声をかけ顔を自分のほうへと向けさせると、チェリオの口をこじ開け、固く小さな物体を舌の裏に押し込んだ。 「間に合わせでしかないが、ユーフォリアの中和剤だ。吐き気とめまいくらいなら治まる」  チェリオの口から指を引き抜きながら言って、ユーリはまたチェリオの背中をさすった。  どのくらい経ったのだろうか。吐き気と妙な疼きが本当に軽減してきた。重たい瞼をこじ開ける。視界がぼんやりとしているが、目に支障があるわけではなさそうだ。  体を起こそうとすると若干のめまいがするが、さっきみたいに嘔気付くわけではない。間に合わせと言っていたけれどすごい効果だなと思いながら仰向けになる。ふとユーリと目があった。 「発見が早くて幸いしたな」  言いながら、ユーリがニッと笑って見せる。 「ユーフォリアなんてものを使いたがるヤツが富裕層にいたんじゃ、この国の差別意識はいつまでも消えないな」  辛辣な口調で言いながら、サシャがバイアル瓶の中身を注射器に移し、ユーリに手渡した。ユーリがチェリオの腕をアルコールを含んだ綿球でチェリオの腕を消毒し、止血帯を装着後に血管の位置を確認する。 「なに、すんだよ?」  ようやく声を絞り出せた。    「ユーフォリアは接種者の呼気からも成分が流出する。鼻がいいやつはにおいでも酔うくらいなんだ。原液を直接接種するなんて一歩間違えば殺人罪でもおかしくない用法だから、対策は練っておいたほうがいい」  チェリオの腕に点滴針を挿入し、注射をしながらユーリが言う。  手際よく処置をした後でいろいろと教えてくれた。ユーフォリアを摂取した後の処置は基本的には中和されるのを待つしかないそうだが、開発中の方法があり、それをやらないよりはマシなのだそうだ。血中の成分が輸液で薄まれば少しは楽になるが、泥酔した後のような倦怠感と強い疲労感に襲われるのは避けられない。ユーリ自身はユーフォリアを原液のまま接種した経験がないが、薬が抜けていないのに立て続けに嗅がされた経験ならあるらしい。離脱症状が酷くて3日間寝込んだということはあとから仲間に聞かされ、その間の記憶はないと言っていた。チェリオにはよく理解のできない内容だったが、自分に危害を加えるわけではなく助けてくれるつもりであることはわかった。 「イル・セーラの解放につながったきっかけも、ユーフォリアの乱用からくる急性憎悪で仲間が亡くなったことだったんだ。これでかなり多くの仲間を亡くした。国医や旧軍部の見通しの甘さが彼らを死に至らしめたようなものだ」 「だよなあ。二コラにさっきのやつには殺人未遂も追加して収監しとけって伝えとくか。そもそもの用法が間違いだし、あんなハイブリッドなんてそこいらで手に入るようなシロモノじゃねえし、調べたら芋づる式に胴元釣れんぞ」 「そんなにヤベえの?」  チェリオが問うと、ユーリは遠い目をしてサシャのほうに視線をやった。 「売値どのくらいだっけ?」 「今回使用されたハイブリッド型は10000リタスだな」 「10000…っ!?」  大声を出した途端、ぐらりと視界が回った。すぐに目を塞がれる。 「落ち着け。ゆっくり呼吸をして」  今度はサシャの声だ。ユーリの手よりも大きく骨ばったそれは、ユーリの手よりも肉厚で柔らかい。決してふくよかな体系ではないが、チェリオの筋張った手とは大違いだ。イル・セーラがいまは手厚い庇護を受けているというのがまざまざと見せつけられたような気がして、喉の奥が苦くなる。手を払いのけようとした矢先にふわりと心地の良い香りがした。続けてまたガラス製の容器の音がする。独特なにおいがしたかと思うとユーリに口を開けろと言われ、素直に応じると中になにかを放り込まれた。甘い。さっきは味が分からなかったが、こんなに甘くておいしいものならもっと味わっておけばよかったと思う。 「最初に飲ませたものと味が変わっていたら、薬が中和されている証拠だ。物資が余っているわけではないからふんだんに使えなくて悪いな」  申し訳なさそうにサシャが言う。チェリオは別にとぶっきらぼうに吐き捨てた後、目を覆っているままのサシャの手を払いのけてベッドに横たわった。 「目ぇつぶってりゃいいんだろ」  あまり動かないほうがいいぞと、サシャの穏やかな声がする。チェリオはふんと鼻を鳴らすだけにとどめた。  薬が中和されるまでの間、様々な話をした。と言っても、ユーリが一方的に喋ってきた。  サシャとは4歳違いの兄弟。両親ともに死別。  ミクシア郊外の遙か西側の出身。  好きなものはアップルパイとシナモンケーキ。嫌いなものは犬とピエタ。食べ物ならひよこ豆が死ぬほど嫌いらしい。  髪を伸ばしているのはキアーラとジャンカルロの趣味で、自身はものぐさだから本当は短く切りたい。自身の趣味は植物の栽培と研究。デリテ街に自生する植物があったら教えてくれ、――。  ユーリの言葉にチェリオは敢えて反応しなかったが、楽し気に言葉を紡ぐユーリの声だけは聴いていた。耳になじみ心地よい。収容所でひどい目に遭っただろうに、そんなことは微塵も感じさせない態度に興味がわいた。 「嫌いなものがピエタってのは同意する」  チェリオがつぶやくと、ユーリは声を弾ませてだよなと言った。 「大型犬みたいなピエタに付き纏われて迷惑してんだけど、簡単に撒ける道とか知らない?」  軽口ではなく本当に困っているような口ぶりに、チェリオは吹き出した。サシャがユーリを諌める声がする。失礼なことを言うんじゃないと呆れたように言うサシャに、ユーリはあれは付き纏われた側にしか迷惑さがわからないんだとうんざりしたように返す。この二人はいつもこの調子のようだ。  ユーリ曰く大型犬のようなピエタというのは、イギンの手下が束になっても敵わないあの連中のことだろうと思案する。特にあの隊長と隊長の子飼いに目をつけられたらまず逃げられない。噂にすぎないが、彼の隊には地下街出身者、それも元々マフィアの指示を聞く伝聞係だったやつがいるのではないかと言われている。まあピエタの成り立ちを考えたらただの噂だとチェリオは取り合わなかったが、あの隊長の動き方はどうにもにおう。 「あいつを撒く方法を教えてくれたら街から肉持ってくるって言ったら、誰か食いつくかな?」  バカかよとチェリオが声を出して笑う。ゆっくりと体を起こし、目を眇めてユーリを見る。 「そんなん、人を騙すことをなんとも思ってねえ連中にちょろまかされるだけだぜ」 「そうなのか? じゃあ、スラムの住人が喜ぶようなことってなにかあるか?」 「じゃあマフィア全員ぶっ殺してくれよ」  それならいま締め上げられて困っている連中くらいは手を貸してくれるかもなと、チェリオ。ユーリはきょとんとした表情で目を瞬かせたあと、サシャに視線をやった。サシャが眉を吊り上がらせて首を横に振ったが、ユーリは挑戦的に笑って見せた。 「デリテ街だけを通る井戸とか、その逆とかある?」  サシャが強い口調でユーリを呼んだ。流石にまずいと思ったのか、ユーリは冗談だよと笑いながら肩を竦めて見せた。  ユーリはどこまで情報を掴んでいるのだろうか。チェリオは興味がないように装って言葉を紡いだ。 「井戸って、なんか策があんの?」 「この馬鹿の話は聞かなくていい」  サシャが呆れたような表情をそのままに言う。 「その逆然りって思ったんだけどなあ。デリテ街の住人だけに起こる中毒症状なんて不自然すぎるだろ」 「突っ込まなくていいところにまで首を突っ込むな。それは軍部に任せておけばいい。少しは彼らを信用しろ」 「信用ねえ。それってあちらさんがこっちを信用しているからこそ成立することじゃないか?」  なるほど、一理ある。チェリオはそれをふんふんと聞きながらも、言葉を紡ぐユーリの唇の動きに目を奪われていた。目眩や吐き気が薄れてきた分、やたらとユーリやサシャから香る甘いにおいが気になってくる。 「案外大丈夫そうだな」  ユーリが言う。どこをどう見てそう言いたいのかと突っ込みたいが、さっきの話を聞くにまだマシなほうなのだろう。 「割と耐性があるのかもしれないな。ユーリが打たれたのは旧型のものではあったけれど、離脱症状がすごかったからな」  ぽつりとサシャが言う。 「だよなァ。あっれは酷かった。1週間以上頭痛とめまいが消えなかったのに、腹が疼いてどうしようもなくてさあ。あんまり酷くてわざと看守を煽ったりして」  あっけらかんと話すユーリに聞こえるようにサシャがわざとらしく咳払いをする。ユーリはなにが悪いのかわからないと言った表情で小首を傾げた。 「それよりマシだって話だったんじゃ?」 「嘔気と眩暈のことを言ったんだ、たわけ」  そこまで明け透けに話すバカがどこにいるとサシャが語気を強める。それもそうだ。アソコが破裂しそうとかならまだしも、腹が疼くなんて言ったら抱かれる側だったと自白しているようなものだ。なかには逆を好む好き者もいたかもしれないけれど、イル・セーラは基本的には娼婦以下の扱いだったなと思い返す。腹がむずむずとする感覚が徐々に強くなるのを感じ、チェリオは俯いて腹を押さえた。 「寝ていたほうがいい、無理は良くない」 「あー、おかげさんでだいぶ楽になったし」  言いながら、チェリオは若干視界が歪むのを感じて片手で両目を塞いだ。ふうと細く息を吐く。吐き気も眩暈もだいぶ治ったが、やはり今度は違うところに違和感がある。  もぞもぞと片手で布団をずらし、もう一度細く息を吐く。心配そうなサシャの声がする。ユーリとサシャは兄弟だと言う割にあまり似ていない。同じなのは髪、肌、目の色だけで、性格も見た目も大違いだ。普通にしていて色気がダダ漏れのユーリと、見るからに品の良いサシャ。決してユーリに品がないと言うわけではないが、奔放で明け透けな性格のせいとも言える。  手慣れたユーリに抜いてもらうのもいいけど、なにも知らなさそうなサシャを丸め込むのも楽しそうだ。いまならサシャを襲ってもユーフォリアのせいだと情状酌量の余地があるかもしれないとバカなことを考えながら、近付いてきたサシャの腕を掴んだ。骨格のせいか、見た目よりも細い。肉付きがいいわけではなく、かといってチェリオのようにガリガリでもない。それよりもなによりも、微かに香る甘いにおいが情欲を誘い腹の底からなにかが疼き始める。 「どこか具合が悪いのか?」  警戒などしていなさそうな声だ。確か枕元のサイドテーブルに医療用の鋏が置いてあったはずだ。あれを使ってサシャを殺すと脅せばユーリも大人しくしているはず。そう目論んでサシャの腕を引いた時だ。 「サシャ、二コラと軍部への報告を頼めるか?」  チェリオが顔を上げると、そこにはユーリがいた。革製のファイルを片手にサシャの腕を引く。チェリオは獲物を盗られまいとする獣のようにユーリを睨んだが、我に返ってサシャの腕から手を離した。 「いいけど、ほかの見張りの者を呼ぶぞ」  彼の具合が悪そうなんだと、サシャ。まさか素で心配されているとは思わなかった。サシャとは逆に、ユーリはチェリオの考えに気づいているかのように冷たい視線を浴びせてくる。 「見張りは要らない、ユーフォリア不耐性の人間なんて邪魔なだけだ」 「だめだ、なにかあったらどうする。悪化した時に対処できなかったら、ピエタの思う壺だぞ」  サシャが語気を強めたが、ユーリは白けた表情で肩をすくめて、手にしているファイルをサシャに突き出した。 「じゃあジャンカルロに言って、下で待ってもらってくれ。それならいいだろ?  この書類をニコラに渡してほしい。関所で中身を確認するよう言われたら、ディアンジェロ家を敵に回したいかとでも言えばかわせるから」  まるで何度も試しているかのような言い回しだ。そう思ったのはサシャも同じだったようで、呆れたように眉を顰めた。  ユーフォリア不耐性の人間をこの部屋に入れてくれるなよとユーリが継ぐ。サシャは不審そうにユーリを睨んで、ずいっとユーリに顔を近づけた。 「逃げるなよ」 「逃げねえって」  両手を軽く上げてユーリが困ったように笑うのを見て、チェリオは心底呆れたような顔をした。チェリオ自身が逃げることを警戒されていたのかと思ったのに、サシャはユーリの行動を心配していたようだ。ユーリから報告書を受け取り、サシャが絶対に逃げるなよと念を押すように言って部屋を後にした。階段を下りていく音に耳を澄ませる。完全に音が聞こえなくなった。  さてとと言いながらユーリがチェリオに向き直る。 「な、なんだよ」  もしかしてサシャによからぬ情を向けていたことがバレたのだろうかと怯むチェリオをよそに、ユーリが近づいてくる。 「さっきから気になってたんだよなァ」  くふんと色っぽく笑いながらユーリがベッドに腰を下ろす。どきんと胸が高鳴った。さっきの心地よい香りの正体はユーリだったらしい。途端に張り詰めていた股間が更に熱くなった。着古した布地は高ぶりを押さえきれず、薄い布団越しにはっきりと形を現している。  布団を剥がれ、チェリオは思わず後ずさった。後頭部を強かに壁に打ち付ける。ユーリの指が股間に触れる。指先でさらりと撫でられ、腰がずんと熱くなった。ごくりと生唾を飲み込む。どこどこと鼓動が聞こえそうなほどうるさい。顔が熱い。 「ツラいだろ」  色香を含んだ表情でユーリが言った。息がかかりそうなほど顔を近づけられる。かすかに水音がした。ユーリのリップ音だと分かっているのに、チェリオのそこはひと際大きくなり、張り詰めた登頂にじわりとシミを作る。ユーリがくっくっと喉の奥で笑った。 「若いなァ。抱かれる側じゃなくて抱く側も経験あんだろ?」 「あ、るっ、けどぉっ」  ふっと登頂に息を吹きかけられて、チェリオは声を上ずらせた。じれったい。 「どうしてほしい?」  この男は自分の顔の良さを分かっている。腹の底から苛立ちを覚えたが、わざとらしく首を斜めに傾けて片眉をついと持ち上げるしぐさから目が離せない。全身から香るユーリの色気に興奮が先走った。  ここまで煽られて引き下がるようなたまではない。チェリオはユーリの顎を掴んで少し顔を上げさせた。 「舐めろよ」  言いながらハリのある褐色の肌を親指で撫でた。ユーリの手がすいとチェリオの高ぶりを撫でた。じらすように指が這い、ファスナーの持ち手に指がかかる。軽い金属音。もったいぶるようにゆっくりとそれがおろされる。本来ならスムースに降りていくはずのそれは、チェリオの高ぶりのせいでいびつになっている。高ぶったそこを抜けるとき、チェリオが息を荒らげて腰を引いた。ユーリが満足げに声を押し殺して笑う。 「くっそ、悪趣味なっ」 「そのほうが興奮すんだろ?」  開ききったファスナーから着古した下着がのぞく。盛り上がった中心は色が変わり亀頭の形が分かるほど張り付いている。それを目にしたユーリの切れ長の目が弧を描いた。下着のゴムの部分に指がかかる。ユーリがゆっくりとそれを引きながら下ろす。下着の中で窮屈に抑え込まれていたチェリオのペニスがぶるんと飛び出てきた。勢いでユーリの形の良い唇と鼻先にあたる。想像以上にやわらかな唇に触れた途端、チェリオの先端からどろりと先走りがあふれた。 「はは、素直だな」  細身の体には見合わないほど反り立ったペニスを鑑賞するかのように眺められている。とくとくと脈打つのすらわかるほど勃起しているペニスに息がかかるたびにびくびくと跳ねる。くっと息を詰めるチェリオの先端に柔らかく暖かいものが触れた。ユーリの唇だ。ちゅっと音を立てられる。ちろりと赤い舌が覗いたかと思うと、先端をくすぐるように舐められた。 「うぐっ」  絞り出すような声が上がると同時に、びゅるっと白濁が飛びでた。ユーリの褐色の肌を濡らす。ほんのりと赤く色づいた褐色に粘着質な白が滑る。その背徳的な光景に、チェリオは大げさなほど喉を鳴らした。  ぷっとユーリが吹き出した。一度射精したにもかかわらずまだ硬度を保っているペニスを前にユーリがクックッと笑う。声を押し殺している様が扇情的だ。意図せず硬度が増す。それを見てユーリは満足そうに笑みを深めた。 「俺の経験も捨てたもんじゃねえなァ」  ユーリが楽しそうに肩を揺らす。冗談に付き合っていられるような状況ではない。ユーリを押し倒そうとしたが、逆にペニスを根本からギュッと握り込まれてしまった。 「続き、して欲しい?」 「っの、クソ野郎っ。して欲しいに決まってんだろ」  チェリオが声を荒らげると、ユーリはふふんと笑ってチェリオのペニスを扱き始めた。 「うわっ、ちょっ!?」 「オレイっておっさんを捜してるんだが、心当たりはないか?」  チェリオは突然与えられた快感に身を捩りながら首を横に振った。 「そのおっさんに、なんの用だよ?」 「2,3用立てをしてもらいたいことがあるんだ。取り次いでくれたら相応の謝礼はする」 「じゃ、じゃあっ、ちゃんとイかせてくれよっ」  チェリオの言葉を肯定と受け取ったらしく、ユーリは指で口元に輪を作りべっと舌の先をのぞかせる。チェリオ自身も相手を煽るためにわざとやって見せるが、あけすけでためらいのない、いかにも淫蕩そうなそのしぐさは、チェリオの興奮をより色濃くした。  チェリオは自ら腰を前に出して、指の輪の中へとペニスを押し込む。ぷちゅんと唇に亀頭が触れる。うめき声と共に細い腰が大きく震えた。締め付ける指の輪の中で、ペニス自体が意思を持っているかのように脈打っている。ユーリの舌が、はっきりと凹凸のある亀頭と裏筋にねっとりと触れた。熱い。 「やべえ、きもちいいっ」  ユーリの吐息に交じって、ぷちゅぷちゅと水音が上がる。威勢のいい態度のわりに上品な音を出す。えげつないほどエロい音を立てて舐めるのかと思っていたから意外だった。自分のペニスをイル・セーラが舐めている。その背徳感だけで達しそうなほど興奮する。  亀頭の先端からカリ首までを形を絵取るように舌先で舐められる。何度かその動きを繰り返した後で、張ったカリ首までをユーリの唇が含む。遠慮がちに、いや、わざと煽るかのように少しだけ前後する動きがもどかしく、チェリオが控えめに腰を前後させてユーリのいいところを探るようにくちびるを暴いた。水音を絡ませながら奥へ、奥へとペニスを進める。ユーリもまたそれを受け入れるかのように口を開き、ペニスを咥えこむ。色づいた吐息と共に鼻で呼吸をする熱が腹にあたる。 「んっ、ん、ふっ」  漏れ出る声すら色を孕み、チェリオは鼓膜すら性感帯になったのではないかと思うほど興奮した。空いた手で耳を塞ぎ、もう片方の手で丁寧にハーフアップに結わえられたユーリの髪を掴む。 「もっと下品な音出せよ、猫みたいに先ばっか舐めてんじゃねえぞ」  ユーリの髪を掴んで無理やり頭を前後させる。やや乱暴に腰を穿つ。ユーリの甘い吐息に下品に爆ぜる粘着質な音が混じる。抵抗すればいいものを、ユーリはその行為を受け入れていた。泥を踏むような鈍く重い音と、ユーリの苦しげでいて甘さの残る吐息、そしてチェリオの快楽にうめくような声が部屋を支配する。 「あー、やべっ。いきそっ」  きつく目を閉じ、ふうふうと息を荒らげながら顎を上げる。気持ちが良すぎて唾液が一筋ひくのも構わずに腰を前後させた。前後するたびに揺れていた双球が少し汗ばんだ指先にとらわれる。ずっしりと重く張ったそれを弄ぶように揉まれた。何度も、何度も、射精を促すようにコリコリと優しく触れられ、チェリオが唸った。 「ちょっ、それっ、玉っ」  ふふっとユーリが笑う。同時にチェリオの根元をこするユーリの手の動きが激しくなる。 「っくそ、まって、ってぇ!」  ユーリの髪を無理やり引っ張って、弄ばれるペニスを解放しようとした。じゅるじゅるといやらしい音を立てて吸われ、チェリオは声をひっくり返しながらあっけなく果てた。  顎と挙げたままふうふうと息を弾ませる。腰が熱い。じんわりと足の指先まで甘いしびれにとらわれている。ユーリはチェリオの足の間からゆっくりと顔を上げた。褐色の肌は少し上気して汗ばみ、より色っぽさを増している。ユーリの口元に含み切れなかった唾液と、さきほどチェリオが放った精液で濡れていた。どくんと心臓が高鳴った。あまりに淫靡だ。  放心していたチェリオに、ユーリがんーんーとなにかを伝える。頭まで痺れているんじゃないかと思うほど、理解ができない。 「は、なに?」 「紙よこせ」  少し上を向いて、ユーリが言う。はっきりとは聞こえなかったが、ユーリがそういったことに気づいて、チェリオは慌てて紙を手渡した。ユーリはそれを乱暴に受け取ると、口の中の精液をべっと吐き出した。 「やべ、ちょっと飲んだ」  チェリオの顔が一層赤くなる。手の甲で口元をぬぐった後、ユーリははたと気づいたようにチェリオを見た。 「マジでわっかいなァ。もう復活してやがる」  チェリオが否定するよりも早く、ユーリがチェリオの足の間に寝転がった。射精したばかりのペニスを握りこまれ、チェリオがひっと情けない声を漏らす。 「おまえ、エロすぎっ」 「まあ、ハイブリッドを原液で…だもんなぁ。あと何回か出したほうが早いか」  チェリオのペニスを扱きながらユーリが言う。くちゅくちゅと水音が上がる。達したばかりだというのにチェリオのペニスは既に固く、先端からとぷとぷと残渣を滴らせる。 「んっ、ちょっとっ」 「体の割にはでけぇよなぁ」  チェリオの腿に頭を預けるような姿勢になり、ユーリが言う。そびえたつそれを斜め下から見上げるような恰好のまま、二人の視線が合う。ユーリの口から赤い舌がちろりとのぞいた。 「ここがスラムじゃなきゃ、後ろ使わせてやったのに。惜しいなァ」  チェリオのペニスをリズミカルに扱きながら、ユーリ。射精を促すというよりはどうしようかと思案しているかのような動きだ。 「う、後ろって…」  ユーリはきゅうっと目を細めて、自らの尻を撫で上げた。 「イル・セーラの身体、興味あんだろ?」  言って、チェリオのペニスの根元に顔を寄せる。どくどくと脈打つ血管に沿って舌を這わす隠微な姿に喉が鳴った。地下街の娼館にすらこんなに色香を孕む女はいなかった。法律的にはアウトだが、これはユーリ自身が誘っている。チェリオは少し硬さのある短いブラウンの髪の中に指を突っ込んでガシガシとかきむしった。 「あんたなあっ」  どうする? とばかりにユーリが笑う。こんなチャンスは二度とないだろう。けれど命の恩人に嘘はつきたくない。チェリオは腹の奥から湧き上がる情欲をぐっとこらえ、ユーリの腕を掴んだ。 「オレイに取り次ぐことはできなくない。けど、用立てを頼むのはもう無理だ。墓の中だからな」  煽るようにくちゅくちゅと音を立てられる中、冷静にユーリに告げる。ユーリは目を瞬かせたあとで挑戦的な笑みを深めてチェリオ自身を咥えた。 「っ、ぐっ、ううっ」  先端をちゅっと吸われたかと思うと口をすぼめながらペニスを抜かれる。ちゅぽんと淫蕩な音が上がった。 「じゃあオレイのおっさんの後継者に取り次いでほしい」  知ってるよな? と言いながら、ユーリがチェリオの先端を指であやすようにいじくる。チェリオは唇をかんでふうふうと興奮に息を弾ませながら髪を掻きむしった。 「サシャがいる前じゃこういうことできなくてさァ」  息を弾ませるチェリオとは異なる余裕すら携えたユーリは、ちゅくちゅくと粘着質な音を立ててチェリオのペニスを扱いたかと思うと、またもためらいなくそれをほおばった。 「っ、あっ、く、くっそっ」  チェリオは上を向いたまま両手で顔を覆って、ユーリの舌の動きに耐えるように歯を食いしばる。亀頭と竿のくぼみに舌が絡み輪郭を絵取るように舐められ、チェリオの先端と口から渇望のしずくが滴った。チェリオを煽るかのように水音が大きくなるのに合わせ、衣擦れの音とかすかな金属音がする。顔を覆っていた手を外し、ユーリを見る。ユーリはメッシュベルトを寛げてすぐにでもデニムを脱げる状態になっていた。シャツの裾からのぞく、男にしては妖艶でくびれのある腹部がチェリオの理性をかき乱す。 「あ、あんたなあっ」  ユーリはくっくっと喉の奥で笑うとまるで誘うようにデニムを少しずらして見せた。 「なァ、どうする? めったとないチャンスだ」  ふうとペニスに息を吹きかけられ、チェリオはスラングを吐き捨ててユーリの身体を勢いよくベッドに押し倒した。簡素なベッドが悲鳴を上げる。ユーリは一瞬間驚いたように目を見開いたが、すぐに目を細めてチェリオの首元に顔を寄せた。 「オレイの後継者は誰だ?」  チェリオはユーリの言葉には答えず、ユーリのデニムとメッシュベルトを引っ掴んだ。ユーリが少し肩を竦め、目じりを下げた。誘うように少しだけ身体をよじって腰を上げる。チェリオはごくりと喉を鳴らしてユーリのメッシュベルトに手をかけた。シルバーのバックルを外し、質の良い革製のベルトをベルトループから引き抜いてデニムのトップボタンを片手で外して前を寛げる。先を促すようにユーリがチェリオのペニスを手で扱いた。 「っ、なにが望みなんだよ?」  ユーリのデニムを腿あたりまで脱がしながら、チェリオ。ユーリは淫蕩な雰囲気をそのままに、チェリオの亀頭を指で押しつぶすように触る。チェリオは詰まったような息を吐き、ユーリの張りのある締まった尻を撫でた。男の身体だというのにむっちりとしていてやわらかい。直接触ればよりその質感が堪能できそうだ。チェリオは背骨から仙骨までを指でなぞるように下着のなかに手を差し込んだ。  なだらかな肌はしっとりと指に吸い付くように柔らかいが、骨ばった感触が指先に触れる。柔らかさを確かめるように指を進め、尾てい骨のあたりで手を止めた。くすぐるようにそこを撫でると、ユーリが艶めかしい視線を向けてきた。収監されてもいい。ヤリたい。 「取り次いでやるから、言えよっ」  切羽詰まったようにチェリオが声を荒らげる。ユーリはチェリオが自身の下着とデニムをずりおろそうとするのに腰を上げて協力すると、どこか勝ち誇ったように目を細めた。 「地下街を介して南側のスラムに行く方法があるだろう? それを教えてほしい」  チェリオは目を見張った。怪訝そうに眉を寄せたが、ここまで来て情報を持っていないならヤラせないなどと言われたら一生夢に見そうだ。  わかった、情報屋に言って探らせると一息に言って、チェリオはユーリの細い足を持ち上げた。ユーリは煽るように尻を開いて見せる。くぼみの奥を暴くために猛ったペニスをユーリのそこに押し当てた。吸い付くような弾力のある肌が先端に触れるだけで、期待と興奮に暴発しそうだ。チェリオはふうふうと息を弾ませてユーリのくぼみに侵入した。  はあっと艶のある吐息があがる。狭いそこを亀頭が割り開き、カリ首あたりまでゆっくりと埋める。先を促すかのようにユーリのそこがチェリオのペニスにまとわりついて、チェリオは堪らず眉を顰めた。 「っ、すっげ、きっつ」  イキそうと誰に言うともなくつぶやき、腰を進めようと体勢を変えた。 「おいユーリ、なんの音だ?!」  ドアが乱暴に開かれた。うおっと驚きの声を上げたのは、ドアを開いたジャンカルロも同じだった。チェリオは慌ててユーリの中からペニスを引き抜いた。拍子にチェリオの白濁がユーリの臀部に降りかかった。あんっとわざとらしくユーリがいやらしい声を上げる。体勢からして二人がなにをしていたかなど一目瞭然だ。ジャンカルロが大袈裟に咳払いをした。 「ったく、目を離すとすぐこれだ」  しわがれた声を張り、ジャンカルロがユーリを睨む。 「硬いこと言うなよ、応急処置じゃねえか」  言いながらもチェリオのペニスを扱く手を止めない。チェリオは慌ててユーリの腕をつかんだ。 「馬鹿なの!? 俺が収監されんだろうがよ、やめろっつの!」  亀頭をきゅうっと指で押され、反射的に腰を引く。とぷっとユーリの褐色の肌を先走りが汚した。張ったそこをなだらかに滑る落ちてくる先走りをユーリが指ですくい取り、その指をためらいなく舐めて見せる。それを目の当たりにしたチェリオが爆発した。  断続的にユーリの腹や臀部に精液が降りかかる。ユーリはぽかんとしていたが、すぐに満足げな笑みを浮かべて笑い始めた。 「だーっもーっ、最悪っ! なんでジャンカルロのおっさんにイッたとこ見られなきゃなんねえんだよ!」 「あっはっは、早すぎんだろ、童貞かよ!」  くっくっと笑いながら顔を濡らす精液をぬぐう。褐色の肌に白濁が良く映える。さっきまでの色っぽさはどこに行ったのかと言いたくなるほどカラッとした笑顔を見せるが、そのギャップにくらりとする。 「ほら、早くどうにかしろ! 窓も開けろ! せっかくサシャからの信用を得られたってのに、おまえらのせいで信用がた落ちだろうがよ!」 「はっ、前ぱんぱんにして言うセリフかよ。あんたのもしゃぶってやろうか?」  ジャンカルロをからかうように言いながら、ユーリが足を広げてみせる。ジャンカルロがカッと顔を赤らめた。 「おら、てめえもとっとと服着替えやがれ!」  ユーリの細い指に絡む粘液にすら興奮を覚えたが、怒りをあらわにするジャンカルロに怒鳴られながら、いまだに芯と熱を持つペニスを湿った下着の中に押し込んだ。

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