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Two(5)★
東側のスラムでの一件があって以降、ユーリは一週間ほどスラムに降りていなかった。東側でのことを二コラがいやに気にしていて、トイレ以外ほぼ監視をされている状態なのだ。日誌をまとめているいまも真横にいる、本来なら非番のはずの二コラに視線をやり、ユーリは煩わしそうに眉を顰めた。
「それ、いつまでやんの?」
「それとは?」
意図が通じないと言わんばかりの表情で、二コラが言う。また面倒くさそうな本を読んでいるのに気付き、ユーリはさらに煩わしさに目を細くする。イル・セーラに関する書籍など、どうせノルマが書いたのだろうから意味があるはずがないし、そもそも自分はほかのイル・セーラと性質も性格も大きく違う。決してその本にイル・セーラの取り扱い方が書いてあるわけではないのだろうけれど、手綱を握らせてたまるかという謎の抵抗感すら生じる。ユーリは二コラが読んでいる本に対しても、そして話の流れを汲んでくれないことにもムッとして眉間にしわを寄せた。
「監視だよ、監視。トイレにまでついてくるとか変態かよ」
「ちっとも落ち着けやしないし、おちおちオナニーもできやしない」と、恨みがましくユーリが言う。本当に迷惑極まりない。ユーリと二コラは得意分野の特性上勤務が被ることが多く、夜勤明けの日などは寝るが寝るまで監視されていた。
東側のスラムでなにかがあったということをサシャは知らない。いや、知らせなかった。絶対に心配するし、クソほど怒られるのはわかっている。「次になにかがあったら軍部の独房に収監する」と言い兼ねないし、なんなら前にサシャが言っていた「『イル・セーラには特効薬だけれどノルマには猛毒』になる薬木か、それから抽出した蒸留水を市街の水源にぶち撒いてぶっ殺してやる」という不穏極まりないことをやりかねない。だからナザリオに頼み込んで黙ってもらっていたのだ。
それなのに二コラがこんなに自分を監視していたら、サシャはなにかに気付く。さっきも夜勤に出て行く際、それはそれは不審そうに二コラを見ながら出て行った。“あの”不審そうで疑念を懐いていることを如実に表した顔に気付かない二コラも二コラだ。二コラは読んでいた本にブックマーカーを挟み込みそれを閉じて体ごとユーリへと向き直った。
「体はもういいのか?」
それは複数人に乱暴されたことに対してだろうか? それとも違法薬物を使われたことに対してだろうか? とぼけてやろうとも思ったが、そうすると二コラの監視が解けそうにないことを二コラの思案顔で悟る。
「薬も抜けてるしぃ、あのくらい昔は日常茶飯事だったから、べつにどうもないけど」
そう言ったことをユーリは心底後悔した。ポーカーフェイスで表情の分かりにくい二コラが、あからさまにしょげた顔をしていたのだ。めったに見ることのない表情に、目を瞬かせた。きょとんとして二コラを注視する。これは「もう大丈夫」と言ったほうがよかったのだろうか。それとも「まだおなか痛い」と嘆いてみるのが正解だったのだろうか。二コラがここまで心配そうにするのは初めてで、流石のユーリも罪悪感がぬぐえなかった。
「え、なにそれ。本当にもうなんともないんだけど」
「俺が気を遣っているとでも思ってんの?」と、二コラを揶揄するように言ってやる。
「すまん、俺が迂闊だったんだ」
言いながら、わしわしとユーリの頭を撫でた。大きな手だ。子ども扱いをされるのは不服だが、二コラにされるのは嫌じゃない。ユーリは微笑みながら俯いて、くふんとくすぐったそうに息を吐いた。
「俺がいままでどういう状況で生きてきたか、少しは理解してくれたかァ?」
もう一度揶揄するように、ユーリ。ユーリが収容所にいたころは、複数人に乱暴されることなどしょっちゅうだった。もちろんそこには金銭が発生するし、逆らえば命の危険があったからほぼ無抵抗で抱かれるだけで、この間の状況とは異なっている。とはいえ、ゲストに仕事として抱かれるだけではなく、看守たちや大人のイル・セーラに腹癒せで乱暴されることがなかったわけでもない。そのあたりは聴取を受ける際に話したか話していないか覚えていないけれど、収容所にいた頃に乱暴されたことと、スラムでの出来事は、『ゲストに商品として抱かれるとき』以外大差ない。むしろ、スラムでは一応口封じや自分たちの興奮材料にするためとはいえ、薬物を使ってくれただけマシかもしれないとすら思う。それを言うと面倒だから黙っているが。
二コラが心配していることはわかっていたが、ユーリにとっては金銭の授受があろうがなかろうがノルマに抱かれたという事実だけが残り、気持ちにはなんら変わりがないのだ。悲しいとも、悔しいとも思わない。幼いころからいつもそうだった。それだけだ。
もちろんそこには長年のことゆえの諦めも存在している。奴隷解放宣言が律されたとは雖も、ノルマ側もまたイル・セーラを差別するのは長年のことで、そう言った目で見られなくなるとも思っていなかった。ただひとつユーリたちイル・セーラとノルマ族との差は、チェリオもいつか言っていたが、体は奴隷でもプライドと心までは売り渡すつもりが一切ないところだ。
二コラはユーリの頭を撫でる手を下ろし、そのままユーリの身体をそっと抱き寄せた。急なことにユーリはびっくりして目をまん丸くさせたが、二コラの腕は離れない。最初は遠慮がちなハグだったが、徐々に腕に力がこもっていく。
「なんに対しての罪悪感だよ? 半分は俺が撒いた種だ。あんたが気に病む必要なんてないのに」
へんなのと言いながら、二コラの背中をぽんぽんと叩く。二コラの腕の力がさらに強まっていく。たくましい胸に顔がうずまり、息が苦しい。慌てて二コラの名を呼ぶが、力を弱めてはくれなかった。
二コラが言い淀んでいるのは、やや強情な部分を持ち合わせているうえに、こういう場面での謝罪の言葉を持ち合わせていないのではないか。そう推察して、ユーリは二コラの腕の中でいたずらを思いついた子どものような表情を浮かべた。ねえと二コラに声をかける。
「お清めセックスしようって言ったら、やってくれんの?」
色を孕んだ声色で、二コラの服の裾を掴みながら、ユーリ。言われたことの意味が分かっていないであろう二コラの表情を想像して、ユーリがくっくっと喉の奥で笑う。真面目一徹で色街にも出向かない二コラには、そんなことなど理解も及ばないだろうとほくそ笑み、二コラの服の裾を捲って素肌に指を触れた。
「どうせ抱かれるなら、あんたがいい」
二コラの胸に頬ずりをしながらささやくように言ってやる。馬鹿を言うなとか、なにを考えているんだと嫌悪を含んだ視線をぶつけられるのはわかっていたが、すでに開き直っていることを分からせておかなければ、二コラは延々と監視を続けるだろう。そう思ってのことだった。
不意に体が宙に浮いて、ユーリは声をひっくり返した。二コラに抱きあげられたのだ。戸惑うユーリをよそに、二コラはずんずんと仮眠用のソファーへと向かっていき、その上にユーリを仰向けに寝かせる。突然のことにユーリは理解が及ばず、目を瞬かせた。
「え、二コラ?」
なに? と問うよりも早く、二コラはなにも言わずにユーリの服の中に手を差し入れてきた。緊張のせいか冷たくなっている手が肌に触れ、吐息交じりの声が漏れる。
「んっ、ちょっと」
待ってと言おうとしたが、二コラはやめない。薄い腹に指が触れたかと思うと、二コラの手がどんどん上に上がってくる。つんとたった乳首を指の先で弾かれ、ユーリは思わず体を撥ねさせた。爪の先で乳首を弾かれ、ユーリから鼻にかかった声が漏れる。ユーリ自身二コラにそこが弱いと言ったことはないが、以前薬で前後不覚にされたときに二コラが処置をした際に口走ったのかもしれない。まるで女性にするように丁寧に胸を愛撫され、ユーリは腹の奥が熱くなるのを感じた。
ニコラはユーリのジョガーパンツを下着ごとずり下げながら、ソファー横の戸棚に無造作に置かれていた医療用のクリームを手に取った。器用にそれを片手で開けるのを見ながら、ユーリもまた腰を上げて二コラがジョガーパンツと下着を脱がそうとするのに協力をする。膝上まで脱がされる。ピエタたちは大体いつもそうだが、ノルマは中途半端な着衣プレイに興奮する性癖でもあるのだろうかと内心した。
「キツイか?」
二コラが尋ねてくる。なにが? とは問わなかった。
「ノルマは“コレ”が好きだな」
暗に態勢を意図して言ったせいか、二コラがあからさまに不満そうな顔をした。二コラの手がジョガーパンツと下着を掴んだかと思うと、少し腰を上げるような態勢を取らされてあっという間に衣服を取り払われた。きょとんとする。ほかの男と一緒にするなと言いたいのだと悟り、ユーリは口元を押さえて笑った。
「嫉妬かよ、ダーリン」
「違う。ただ」
「ただ?」
二コラはそれ以上はなにも言わず、医療用のクリームを指に出すとあらわになっているユーリの秘部に塗り付けた。指先でくるくると力を抜かせるように、あやすように触れられる。同時にもう片方の手で乳首を愛撫される。ユーリは恥ずかしさに顔を赤らめて二コラにしがみついた。
「ちょっ、それ、やだっ」
乳首と秘部を同時に愛でられる感覚に、ユーリはむず痒さを覚えた。二コラは品行方正が服を着て歩いているようだと言われるが、その実セックスに及ぶ際はその特性が反映されない。むしろむっつりスケベだといつもユーリが揶揄している。二コラとユーリは決して付き合っているわけでもないし、恋人同士でもない。けれども二コラはまるでユーリを恋人のように大事に抱く。初めてそれをされた時にはユーリは素で泣いて嫌がったが、二コラには快感に酔いしれているととられたらしく、一切やめてくれなかったのを思い出す。
二コラはユーリの乳首を指でこすったり爪で弾いたりと快感を高まらせるような動きに余念がない。かと思えば秘部をほぐすように緩く指を出し入れされる。んっと吐息交じりの声を漏らすユーリをよそに、二コラがユーリの乳首をこりこりと指で押しつぶすように触れ始めた。片方は直接、片方は服の上から愛撫され、ユーリは自分の顔が赤くなるのに気づいた。まるで実験のようだなと揶揄して、足の間にいる二コラの腰に足を絡める。すると二コラは乳首を愛撫する手を止め、ユーリのシャツを胸元まで捲りあげた。ユーリはなにをするつもりなのかと二コラの様子を窺っていたが、ユーリの胸元に二コラの顔が近づいてきて、悟った。
「二コラっ」
やめろと言うよりも早く、二コラの唇がユーリの乳首に触れた。びくんと大げさなほど体が跳ねた。ユーリは顔を真っ赤にさせて二コラの身体を押し返そうとしたが、秘部に触れているニコラの指がぬぐぬぐと入り込んできたせいでかなわなかった。
ユーリが快感を拾うように指が入り込んでくる。太くて武骨な指に粘膜を撫でられているが不快な気持ちはない。よく知っているニコラの手だ。むしろ心地よさすら覚えている。
「んっ、っ、ふ」
熱い舌で乳首を舐められ、吸われる。片方の手で秘部を、乳首をいじられ、ユーリは背中をしならせた。
爪の先で弄ばれたかと思うと、指でこりこりと扱かれる。痛みとは程遠い感覚に、ユーリは体の芯から熱くなるのを感じた。秘部に入り込んだ二コラの指がユーリの感じる場所を捜すように動く。くちゅくちゅと粘着質な音が上がる。いつ仲間が戻ってくるかわからない場所で、明け透けな行為に及んでいることは興奮材料なのだろう。二コラの固くなったものがユーリの腿にあたっている。ユーリは徐に二コラのそこに手を伸ばし、刺激した。息を詰めたような声が上から降ってくる。ユーリは満足げに手を動かしてやる。徐々に硬度が増してくるのを感じて、ズボンのボタンを外し、ジッパーを下ろして下着の中から固くなったものを解放してやろうと、下着のウエスト部分を軽く引っ張ると、ぶるんと音がしそうなほど勢いよく二コラのペニスが飛び出てきた。ガチガチに硬くなっているそれにはいくつも筋が浮いており、ほどよく色付いている。
「はは、エロ」
指先で二コラの亀頭をすりすりと撫で、カリ首に指を這わせる。そのまま扱いてやろうと野太いペニスを軽く握った時、二コラの指がユーリのいいところをぐりぐりと押した。
「ふあっ!」
突然の刺激に甘い声が漏れ、ユーリは反射的に口を塞いだ。二コラの驚いたような表情が写る。そんな声が出るとも思っていなかったから、自分でも驚いた。二コラのそれはすぐに欲情した表情へと変わっていく。じっとりとした熱を帯びた視線を向けてくる二コラの瞳に映った自分の顔は、うっとりとしていてすぐにでも抱かれたいという甘えたものだ。
体に合わない違法薬物を使われたせいで、少しだけ身体が敏感になっているのだと言い聞かせる。冗談めかして二コラのことをダーリンと呼んでいるが、決してニコラのことを好きなわけではない。その一線だけは崩すわけにはいかない。そう思っているのに、――。
二コラはユーリの乳首を愛撫するのをやめ、傷がつかないようにユーリの秘部をほぐすことに専念する。クリームを追加して、指で丁寧に解される。くちゅくちゅと濡れた音があがる。反り立った二コラのペニスが目に入り、腹の奥がずんと重くなるのを感じた。
最初は一本だけで恐る恐るといった感じに愛撫されていたが、徐々に二コラの指が増えてくる。二本、三本と武骨な指が代わる代わるユーリの粘膜に触れる。ただ挿入するだけではなくあくまでもユーリのそこをほぐすように、そしてユーリが快感を拾うように触れられるせいで、ユーリは声を殺しきれずにいた。吐息に交じって甘い声が上がるのを、二コラは満足げに聞いている。
やがて二コラがごそごそとポケットを探り始めた。目的のものは二コラがいつも持ち歩いているウォレットケースだ。そこにスキンが入っているのを知っているユーリは、二コラの腰を膝でつついた。
「いらない」
「なに?」
「つけなくていい」
二コラはユーリが言っている意味を理解していない様子だ。ユーリは二コラのペニスを手に取った。驚いた二コラが腰を引こうとするが、ユーリは少し上半身を起こして二コラのペニスを扱いた。
「このままでいい」
二コラが怪訝な顔をする。二コラにははっきり言わないと分からないと知っているが、なんとなく察してほしかった。
「スキンをつけるな……ということか? しかしそれでは」
「いい」
二コラのペニスを擦りながら、ユーリが言う。
「あんたお清めセックスの意味マジでわかってないのか」
そりゃそうかと誰に言うともなくぼやく。二コラは的を射ない様子だったが、少し上を向いたかと思うと、大きなため息を吐かれた。二コラが片手で顔を覆う。その様子を見ていたユーリは二コラがようやくユーリの言っていた意味に気づいたことを悟った。
「おまえはっ」
「だって嫌じゃん。あんたので上書きして欲しいって、そう言ってるんだけど」
前もそうだっただろと、二コラのペニスを扱く。
「一応キャリアチェックはしているし、陰性だった」
「そういった意味ではない」
「じゃあ、なに?」
ユーリが小首を傾げる。二コラはまた大きな溜息を吐いたが、意を決したようにユーリの手を取った。ユーリがきょとんとする。
「女性なら妊娠する行為だぞ」
大真面目に二コラが言う。ユーリはなにを言われたのかが理解できなかったが、やがて意味を察してぶはっと吹き出した。雰囲気などまるで気にしないユーリの性格を二コラはまだよく理解をしていないようだ。なぜ笑われているのかがわからないという表情をそのままに、ユーリの秘部に指を触れる。
「それ、どっちの意味ぃ?」
くっくっと笑いながら、ユーリ。すぐに二コラの指が秘部に入り込み、ユーリはんっと艶めかしい声を上げた。
「どっち、とは?」
指でユーリの秘部を愛撫しながら二コラが問う。腹側を押され、ユーリがびくんと体を震わせた。
「はっ、ぁ、あっ」
しつこい動きに声が漏れる。ユーリは口元を手で覆って声が響かないようにしながら、二コラを見た。
「女性なら妊娠させるような行為だから責任を取るというプロポーズ的な意味なのか、無暗にそういう行為をするなという俺の身を案じた意味なのか」
そうはっきりと告げると、二コラはユーリの秘部から指を抜き去って、自身のペニスにクリームを塗り付けた。たくましいそれが二コラの手で育っていく。二コラはユーリの問いに答えるつもりがないらしい。けれど自分が一度は否定した行為を続けようとするのはそういうことだろうとユーリは薄く笑った。
「肝心なことはちゃんと言えよなァ、むっつりスケベ」
二コラは答えなかった。代わりに二コラのたくましいペニスが秘部に宛がわれ、ユーリは期待に体が熱くなるのを感じた。熱が秘部に触れ、ぐんと割り入ってくる。圧迫感に息を詰めるが、性急な動きではなく、あくまでもユーリの身体が慣れるのを待つかのようなじれったい動きだ。徐々に、ゆっくりと腰を進めてくる。ユーリの身体を傷めないようにという配慮なのか、ペニスが埋まった周りを解すように指を動かされ、腹の奥がうずいて堪らない。ゆるゆると入り口だけを擦るように動く。
「んっ、ふ、っんんぅ」
思わずのけぞった。圧迫感にただでさえくぐもった声が漏れるというのに、二コラはユーリのいいところまで攻めてこない。入り口だけを何度も何度も擦られてもどかしい。ピエタやチェリオのように性急な動きならまだしも、少しずつ、少しずつ奥を広げるようなゆったりとした動きだ。いやでもそこに二コラが入り込んでいるという事実と共に、その行為に感じている自分がいることを知らしめられる。
あまりにじれったい行為に、ユーリは踵で二コラの腰を蹴った。衝撃で二コラのペニスが更に中に埋まる。いいところを亀頭で押しつぶされるような衝撃に、ユーリの身体が大袈裟なほど跳ねた。
「あっ、ぁ、あっ!」
ユーリが声をひっくり返して喘ぐ。びくびくと体が震える。二コラのペニスがいいところを掠め、それどころか二コラがそこから動かない。ユーリが甘い声を上げながらびくびくと震えているのは痛みのせいだと思っているのなら、あまりにも鈍すぎると文句を言ってやろうと二コラを睨んだ。二コラは明らかに笑っている。
「わっ、あっ!? 二コラっ?」
二コラはごそごそと態勢を変えてユーリの腰が少し浮くように上げさせる。そして再度ユーリが甘く鳴いた部分をえぐった。ぱんと肉が爆ぜる音が上がった。腹の奥がじわりと熱くなり、腰が震える。さっきの蹴りはじれったい動きをやめてくれという抗議のつもりだったが、図らずも自分のいいところを二コラに教えるような形になってしまったようで、完全に場所を把握した二コラがユーリの腰を少し上げさせ、ユーリが喘ぐ場所を端的に突いてくる。ソファーがギシギシと音をあげる。ユーリの吐息交じりの喘ぎ声が混ざり、ひどく扇情的な光景だ。
「んっ、んんっ、ぅ、っ!」
片方の手が胸に伸びてきて、親指で乳首をこねるようにつぶされた。急な刺激に腹の奥がずんと重くなるのを感じ、ユーリはいやいやと首を横に振った。頭上から二コラの舌打ちが聞こえてきた。そうかと思うと両手で足を抱えられる。腹の奥をえぐるかのような勢いでぐんとペニスを叩きつけられた衝撃に、ユーリがあられもない声を上げた。
声をひっくり返し、びくびくと体をしならせながらユーリがよがる。感じている表情を見せまいと腕で顔を隠していたが、二コラの身体がぐんと中心に割入ってくるのと同時に、今度は両手を掴まれた。抵抗したが二コラの力にかなうはずがない。あっけなく両手を顔の横に拘束される。そっぽを向くように顔をそむけたら、首筋にキスをされた。
「ばか、あと付けるなよっ」
「つけない」
吐息交じりに言われたかと思うと、首筋をべろりと舐められる。ひっと情けない声が上がった。
「犬かよ」
「犬は嫌いなんじゃなかったのか?」
ゆるゆると腰を揺すりながら二コラが言う。
「嫌いだよ。あいつらは噛むから」
そう言ってやったら、今度は首筋を甘噛みされた。二コラがユーリの首筋に軽く歯を立てたまま腰を振る。尖った犬歯が皮膚に食い込んで痛いが、それすら妙な快感に変わっていく。両足を閉じる余地もないほど二コラの身体が密着していて、いまドアを開けられたらなにをしているか一目瞭然だ。規則的なストロークが続き、ユーリが甘い声を上げ始めると、今度は奥をずんと抉るような動きに変えられる。薬で前後不覚になったときに二コラに抱かれた経験はあるが、しらふで抱かれるのは初めてだから、恥ずかしくてたまらない。あやすようなセックスには慣れていないのだ。
二コラはユーリの両腕を拘束したまま徐々に体を密着させてくる。二コラのシャツの生地に乳首がこすれてむず痒い。心臓の音が伝わってくるほどの距離感。まるで恋人同士のような甘ったるいセックスだ。ユーリはいつものようによそ事を考えて快感を逃がすことができずにいた。ほかのノルマに抱かれるときにはわざと喘いでさっさとイかせるように努めていたのに、二コラ相手だとそれができない。むしろ気持ちが良くてもっと欲しいと求めてしまう。二コラの腰の動きを全身で感じられるほど密着され、まるで体を押しつぶされるかのような体勢だが、それすら苦しいとは思わなかった。そっぽを向いているためか、二コラに頬ずりをされる。
「こっちを向け」
低く言われ、ユーリはぎゅっと目を瞑った。
「やだ」
「いいから」
ぐんと奥を衝かれ、ユーリが喘いだ。少し腰を引き、ユーリのいいところをわざと外すような動きに変わる。二コラのたくましいペニスは中に入るだけでユーリのいいところを抉る角度なのだから、そのまま突いてくれればいいのにと恨みがましく二コラを睨む。潤んだ瞳で睨まれたところでねだるようなしぐさにしか見えないだろうが、ユーリは抗議のために敢えてそうした。
「奥、突いて」
「入れてほしかったらこっちを向け」
二コラが腰を軽く前後させる。もう少しでいいところにあたりそうなのに、――。二コラの下で体を動かしていいところにあてようとしたが、二コラが重くてかなわない。二コラはユーリに自ら言うことを聞かせようとしているのか、ぐっぐっと腰を進めてくる。ギリギリいいところを掠めない程度の攻め方のせいで腹の奥がうずいてふわふわする。早くいいところを突いてほしい。ユーリはその一心で二コラの望むとおりに二コラを見た。ばっちりと視線が合う。
「これで満足かよ」
恨みがましく言うと、二コラがふっと笑った。慈しむような表情だ。徐々に顔が近づいてきて、唇が触れた。ちゅっと音が上がる。驚きを隠せず、半開きになったままのユーリの口の中に二コラの舌が潜り込んできた。くちゅくちゅと濡れた音が上がるのに加えて二コラの腰の動きが再開した。
「んっ、ふっ、っんんっ」
鼻に抜けるような声しか上がらない。いいところをこすられながら、二コラの舌が口の中を這いまわる。歯列をなぞられ、舌を絡まれ、吸われる。喉の奥から競るような喘ぎが漏れ、ユーリは全身で二コラの熱を感じながらもそれから逃れようともがいた。
逃げるなと言わんばかりに二コラがユーリの舌を甘噛みした。同時にぐんと奥を抉るように腰を動かされる。ユーリは自分の上から二コラが転げ落ちるんじゃないかと思うほどにそっくり返った。
「んんぅっ、んっ、うぅううっ!」
ギシギシとソファーが鳴くのに交じって甘い声が弾けた。しつこいキスに飲み下せない唾液が口の横を伝う。それすらもったいないと言わんばかりに二コラが一旦口を離し、頬をべろりと舐める。ユーリが驚いて声を上げたのをいいことに、またしつこいキスを再開した。ユーリからは鼻に抜けた甘えたような、蕩けきった声しか上がらない。ひくひくと体が震え、いまにも達しそうなほどだ。乳首も、ペニスも、二コラの身体で押しつぶされて刺激される。全身を愛撫されているような感覚に包まれ、ユーリはもはや抵抗の二文字を忘れていた。
ユーリの両腕を拘束していた二コラの手が離れた。そのまま大事そうに掻き懐かれ、ユーリもそれにこたえるように二コラにしがみついた。
「くそっ、おまえは」
二コラの唸るような声が聞こえたと同時に、ユーリの中で二コラが弾けた。びくびくと野太いものが脈打つのに合わせて熱がほとばしる。その熱に侵されユーリは全身を強張らせて達した。ひくひくと体が震え、腰がいやらしく揺れる。その動きに合わせて二コラが最後まで中に絞り出そうと腰を揺すり始めた。
「っぁ、あっ! はっ、ぁ、っ!」
喘ぐユーリの口を二コラが塞ぐ。また熱い舌がユーリの口の中を這いまわり、ユーリもまた二コラを逃がすまいと追いかける。腰の動きが激しくなり、ぬちゃぬちゃと粘着質な音も大きくなっていく。ふたりはここがどこかも忘れているかのように貪り合った。
幾度かニコラの熱が腹の奥で弾けた頃、二コラが息を弾ませながら腰を引き始めた。熱い熱がユーリの中から抜けていく。ユーリは快感とは別に物寂しさを覚え、二コラの腰に足を絡めた。
「おい、離せ」
「まだ、足りない」
ユーリはまだ芯の残る二コラのペニスがいいところにあたるようにと自分から腰を振った。いやらしい動きに二コラの喉が鳴る。
「何人に回されたと思ってるんだァ?」
艶っぽい表情でわざといやらしく秘部を引っ張って、二コラを煽るように言う。
「腹んなか、あんたのでいっぱいになっても足んねえ」
くくっと笑ったせいか、二コラが呻いた。二コラの熱が再燃するのを期待したが、二コラはユーリの首筋にがぶりと噛み付いた。ユーリが驚いた拍子に自らの腰に絡んでいたユーリの足をよけると、二コラはずるりと熱を抜いた。ユーリが抗議するよりも早く、その足を掴んだまま体勢を変え、ユーリの秘部に舌を這わせる。
「わっ、ちょっ……!?」
予想外の行動にユーリが慌てた。ひくつく秘部を見られまいとユーリがそこを隠そうと手を伸ばしたが、二コラはユーリの中に出した自らの熱を掻き出すように指を潜り込ませ、べろべろとそこを舐め回す。ユーリは首を振っていやがったが、二コラはやめてくれそうにない。
「二コラ、やだっ、ヤダヤダっ、やめっ」
二コラを止めようと髪を引っ張ったが、逆に指でいいところを抉られ、ユーリは仰け反った。羞恥と快感のせいで腹がうずく。腹の上にぽたぽたと熱がほとばしるのを感じて、ユーリは溢れてくる生理的な涙をぬぐった。
「それやだっ、やめろよっ」
二コラの髪を掴んだまま快感に濡れた声で制止を乞う。二コラの舌は止まるどころかエスカレートし、指の力を借りて中に侵入してくる。ざらりと粘膜を舐められ、ユーリは腰をそらしてよがった。
「ああっ、ぁ、あっ、は、っ」
甘い声を押さえきれず、ユーリは二コラの髪を掴んだままイッた。妙な痺れが体全体を支配している。ひくひくと脈打つ腹を甘噛みされ、吸われる。半開きのままのユーリの口からは甘美な吐息が漏れ、ひどく扇情的だ。二コラはすっかり弛緩したユーリの足を広げさせると、秘部に猛ったペニスを宛がった。
なにも言わずに二コラが押し入ってくる。ユーリは吐息と共に甘えたような声を上げ、二コラにしがみついた。快感を逃がそうにも足がしびれてソファーをうまくとらえられない。逃げようとするのが分かったのか、二コラはユーリの腰の下に腕を差し入れ、一気に体を起こした。
「ふああっ!?」
二コラの固い熱が奥にがつんとあたり、ユーリはあられもない声を上げた。まさかそんな声が出るとは思わず、ユーリは耳まで真っ赤になっている。
「さ、最悪っ」
二コラの上で揺れながら、恨みがましい声色でユーリがぼやく。震える膝をなんとか持たせて、二コラのものが最後まで埋まらないよう耐えている。二コラは薄く笑ってユーリの目じりにたまった涙を拭い去る。
「俺にとっては最高の景観だが」
「悪趣味ィ。マジでむっつりスケベ」
ユーリの憎まれ口が尻すぼみになる。二コラの指がユーリの目じり、首筋、そしてつんと立った胸へと移動したからだ。
「ちょっ、待ってっ、いま、だめっ」
ただでさえ二コラのペニスがいいところにあたっているのに、胸まで触られたら派手に喘いでしまいそうで二コラを制止する。二コラはユーリの乳首を指でぴんと撥ねた。んっと鼻にかかった声が上がる。その感覚でユーリが後ろを締め付けたせいか、二コラもまた唸った。
「マジで、待って。イきそう」
口元を押さえてふうふうと息を整える。腹の奥が熱くて、ユーリはそこに触れられまいと腹に腕を回す。二コラは片手でユーリの腰を固定しているが、もう片方はフリーだと言わんばかりにもう一度乳首に手を伸ばしてくる。またぴんと弾かれたが、今度は感覚が違う。やけに滑りが良い。二コラはいつのまにかさっきのクリームを指につけていたようだ。さすがに手が早い。ぬめりを帯びた指がユーリの乳首を押しつぶす。芯を持ったそこを何度も何度も指でマッサージされる。
「っぁ、あっ、はっ、ぁ、あーっ」
ユーリは掠れたよがり声を上げるが、それは手で覆われているためにくぐもったものだった。普段憎まれ口ばかりたたくユーリの口から甘い喘ぎ声が漏れるのは倒錯的で、二コラの情欲を駆り立てるには十分すぎた。二コラはユーリの下で腰を揺らす。ユーリの中が快感に濡れるのを待つかのような動きだ。そのじれったい動きのせいか、ユーリが甘い声を上げながら腰を揺らし始めた。二コラは敢えてユーリのいいところに当たらないように動かしている。快感を得る選択をしたのは自分だと言われているような動きに身体が熱くなる。
「んっ、ぅ、っ、ふ」
誰もいないがここは研究室だ。大げさな声を漏らさないように考える理性がまだある。理性とは裏腹に体は二コラの熱を求めていて、小刻みに動かす腰が止まらない。もう少しで二コラの熱が触れる。どうすればいいかもわかっている。けれどそれはユーリにとっても一線で、快感に酔い痴れたいけれどそれはだめだと理性が警鐘を鳴らす。ふと二コラに名前を呼ばれた。
指で乳首をあやすように弄ばれていたが、二コラが体を起こしてそこに唇を触れる。びくんと腰が跳ねた。
「っ、ふ、ぁ、あっ、はっ!」
ちゅっと音が立つほど吸われ、ユーリは腰を反らせた。奥に欲しい。けれどそこは一週間前に散々ピエタに嬲られた場所で、――。ユーリは強気でいるし、日常茶飯事だと軽口を叩くが、その実嫌な記憶として脳裏をよぎることがある。いまはもうないと思いたいが、初めてノルマに手酷く抱かれたときには後処理をされるだけだと頭ではわかっていても散々喚いて暴れたことが頭をよぎる。初めて二コラに抱かれた時もそうだ。“もう解放された”と胸を躍らせていたのに、それをいとも簡単に打ち壊されて、収容所にいるときよりも乱暴に回されたのを忘れたくて、誰でもいいから縋り付いた。ただ助けに入っただけの二コラを巻き込んだ。
だから、この最後の一線を越えて、また二コラに寂しげな表情をさせてしまったら、――。そう思って耐えていたのに、二コラもまたそれを悟っているかのように、ユーリにキスをした。唇を吸われ、ちゅっと音を立てられる。何度も慈しむようにキスをされて、ユーリは二コラの顔を掴んでキスに応じた。鼻で息をしているだけだが、互いの腰の動きは緩やかで甘えるような声が漏れる。息継ぎをするのに口を離し、互いの唾液で濡れた唇を拭おうとしたが、今度は二コラがユーリの後頭部を押さえてキスをしてきた。離さないと言わんばかりの舌の動きに、ユーリから鼻に抜けるような喘ぎ声があがる。
「んっ、ふ、ぅ、んんぅっ、うっ」
片方の手はユーリの乳首をあやすのを忘れない。前に抱かれた時にはここまではしてこなかった。ユーリ自身は自分で一線を引いていたが、二コラは既にそれを破っている。スキンなしで自分を抱いていることがそうだ。ユーリは快感に震える膝をなんとか保って体を支えていたが、二コラから与えられるダイレクトな刺激が欲しくて二コラのペニスを自ら受け入れた。
「っぁ、あっ、ああっ!」
キスをされながらも喘ぐユーリの腰の動きが激しくなる。二コラのペニスがいいところで固定され、ユーリは腰が痙攣するのを感じながらも懸命に腰を振る。その動きにこたえるように、二コラがユーリの“甘く鳴く場所”を的確に穿つ。ギシギシとソファーが軋む音が大きくなっていく。
「ふっ、ぅ、ううっ、んっ」
腰を振りながらも二コラはキスを止めない。ユーリもまた自分のいいところに当たるように腰をくねらせながら二コラを受け入れる。最初は互いがゆっくりといいところを知らせ合うように動いていたが、いまはもう貪り合うかのように肌の音が響く。それに交じってユーリの淫らで上擦った喘ぎ声が上がる。廊下に響くことなど最早頭になかった。
ユーリは二コラの反り立ったペニスに自らのいいところを擦りつけるように腰を振る。それが独りよがりではないのは明白で、二コラもまたユーリがちゃんとイケるようにそこを穿つ。何度も、何度もイッた。がくがくと震える体を支えきれず、ユーリは二コラにしがみつく。少し体勢を変えたせいで二コラのペニスがユーリの感じる場所を強くえぐった。
「んんっ、っ、ぅ、っううんっ!」
一層激しく痙攣したかと思うと、ユーリのペニスからどろりと白濁が漏れた。溢れ出るそれを慈しむように指に絡め、二コラがユーリのペニスを扱く。ユーリは二コラに身体を預けながら甲高い声を上げた。後ろが無意識に収縮する。イっているのはわかっているはずなのに、二コラが動きを止めない。しつこく、しつこくいいところを穿ちながらペニスをこすられるせいでユーリはあられもない声を上げながらイッた。きつい締め付けに二コラもまたユーリの中に吐精する。その熱と感覚のせいでユーリが震え、よがり啼く。もう体を支えることすらできず、二コラにしな垂れかかるようにして快感を与えられるだけだ。二コラは愛おしそうにユーリを掻き懐き、いいところを穿つように腰を揺すった。
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