46 / 108
Eight(2)★
ラカエルを連れ帰った足で、ユーリがいる場所に顔を出す。さすがにその前にあの温泉がある手前の場所で頭から先まで全部洗った上で、服まで着替えてのことだ。
その例の温泉がある場所――ユーリの研究室に勝手知ったるように入る。ユーリは真剣な面持ちでなにかを読みながら調合しているようだ。チェリオに気づき、おかえりと言った。
「なあ、ユーリ。前にサシャと一緒に持ってきた丸薬あったろ? あれってもう作れないのか?」
「そうだな、材料が足りないものもあるし、すぐには難しいかも。なにかあったのか?」
「西側から逃げてきた、ラカエルって元学者がいんだけどさ」
そこまで言った時、ユーリがぱあっと音がしそうなほど目を輝かせた。
「ラカエル・パーディ!」
「なんだ、知ってんのか」
「薬草学の権威だ。子どもの頃に、フォルムラ語に翻訳された本を買ってもらったことがある。彼は亡くなったって聞いていたけど」
「いや、色々あって、東側のスラムから北側の地下街にぶちこまれた。んで、そいつが西側からフラフラ歩いてきたから、知人だしただじゃ死なせたくねえのもあって、取っ捕まえたあとでユーリにもらったあの丸薬を飲ませたんだ。したら、12時間くらいしたら意識が元に戻った」
ユーリが瞠目した。どういうこと? と尋ねてくる。
「俺が前にあげたって、デリテ街用に作ってロレンに渡した……っていうやつだよな?
あれ、西側の住人でも、居住地区によって効果の有無に差があって、失敗したかなって思っていたやつだったんだけど」
「あれでっ?!」
チェリオが素っ頓狂な声を出した。
「あー、でも。俺自身あれがなきゃ詰んでいたわけだし、やっぱ失敗じゃなくて……別の原因がなにかあるってことか」
興味深そうに、ユーリ。
「一か八か、口の中に押し込んでみたんだよ。ひとつじゃ足りなさそうだったから、ふたつ。で、外の小屋で様子を見ていたんだけど」
ふうんと言いながら話を聞いていたが、少しして、ユーリが急に怪訝な顔をした。ずいとチェリオに顔を寄せ、くんくんと鼻を動かす。不満そうに眉を顰め、横目でじろりと睨まれる。
「むっつりスケベと一緒にいたな?」
さも嫌そうな声色で。犬かよとつい突っ込んでしまい、チェリオはガリガリと頭を掻いた。
「ちゃんと頭から足の先まで洗ってきたのに」
「硝煙と香水のにおいはなかなか落ちないからな。で? むっつりスケベはなんだって?」
「おまえの処刑は保留、すぐに出頭してほしいって」
ふうんと特に深刻に受け止めた様子はない。以前ピエタが言っていたのを、ユーリ自身も聞いているからだろう。流石にナザリオのことは言わなかった。きっとユーリは責任を感じてしまう。実際に二コラと話したのは違う会話だが、敢えてそれは伝えない。
「ラカエルについて、どスケベの判断は?」
ユーリが話の続きを促す。むっつりスケベがどスケベに進化している。チェリオは笑いそうになったが、なんとか堪えた。
「ラカエルのことは、経過観察が必要だって。だけど本人が軍部の世話になりたくないって言うから、次に同じような症状が出たら殺すってことで、身柄を預かってきた」
ユーリが眉を顰めた。
「殺す?」
どうやらユーリは知らないようだ。
「軍部から、正式に命令が降った。重篤感染者は見つけ次第射殺しろとのことだ。銃を持っていなければ、確実に心臓を貫いて殺せって」
ユーリが深いため息を吐いて顔を覆った。やっぱりかと怒りの色をのせて言う。
「いまちょうど、中和ができないかどうか、いくつかの薬草を調合していたところ。
ラカエルがここにいるってことは、実験に協力してくれるってことでいいんだよなァ?」
ユーリが悪い顔をしている。お、おう、そのつもりだと思うぞと告げると、ユーリはいくつかの薬瓶と薬匙を持って立ち上がった。
「ラカエルはどこに?」
「中腹あたりに置いてる。こっからだと、あそこだな」
チェリオが切り立った岩の壁面を指す。壁面にはいくつもの穴が開いており、そこから下の様子を見ることができるようになっているが、その穴からはこの位置は死角になっている。
「念の為に聞くけど」
ユーリがその岩場を指差した。
「流石にあそこまでは徒歩で行くんだよな?」
「なに言ってんだよ?」
当たり前だろと突っ込む。なんぼなんでも鳥じゃねえんだからと言ったあとで、いつもはよじ登っているし、降りる時は水場に飛び降りている……と内心する。そこいらに簡易の梯子があることからなんとなく察していそうだけれど。
チェリオは「なるべく安全を考慮してお連れしますよ、ガッティーナ」とふざけた口調で言って、ユーリをラカエルの元に案内した。
ーーラカエルのことがあって、分かったことがいくつかある。土気色の顔色の時には丸薬が有効。顔色やその時の反応から判断して1から3個以内を飲ませて経過観察をする。その間にひどい悪寒や振戦、錯乱が見られたら別の丸薬を飲ませる。症状が治れば経過観察、治らなければさらにべつの丸薬を。そしてその丸薬は必ずあの温泉水で飲ませること。
ラカエルはユーリが調合した丸薬と温泉水のおかげか、数日後にはすっかり正気を取り戻した。骨と皮しかないただのおっさんだというのに、ユーリは子どもの頃に読んだ本を書いた人ーーということですっかり懐いている。
「お兄ちゃーん!」
パメラだ。勢いよく走ってきて、ユーリに飛び付く。さすがに子どもの扱いにも慣れたのか、ユーリはパメラを抱き止めて頭を撫でた。
「来たな、じゃじゃ馬」
手伝いがしたいなら洗濯してと、シーツやタオルが重なったかごを指差す。パメラはわかったと元気よく言って、嬉しそうに笑う。
ニコラの処置が良かったのか、それともユーリが早めに丸薬を飲ませたのが良かったのか、パメラは発症しなかった。なにが違うんだろうなと言っていたけれど、ユーリは既にその“なにか”に気づいているらしい。温泉水を煮沸させる時とさせない時があるが、その違いはまだ教えてくれない。実験段階だから秘密と楽しそうに言われてしまった。
イデアがパメラをここに連れてきた時に一度ユーリが確認したらしいが、弾が体内に残らなかったこと、臓器を外していたことが幸いし、大事には至らなかったそうだ。
「ちゃんと温泉水は飲んだか?」
「飲んでるよ。イデアさんも気にしてくれているし、さっきチェリオにも言われた」
ユーリが優しげに笑う。
「みんなパメラが可愛いんだよ。よく手伝いしてくれるしな」
言って、ユーリが両手でパメラのほおを撫でる。パメラはくすぐったそうに笑って、ユーリに抱き付いた。
「お兄ちゃんのお友だち、すごく優しかったよ」
ニコラのことだ。ユーリはそうだろうと言って、パメラのほおを両側から軽く押しつぶす。
「自慢の友だちだよ」
「でも、ちょっと寂しそうだった。お兄ちゃんはここでの研究が終わったら、街に戻ってしまうの?」
そう問われて、ユーリが言い淀む。そうだなあと間延びした言い方をするときは、どう誤魔化そうか考えているときだ。
「パメラ、ラカエルのおっさんが着替えるから、向こう行っときな」
可愛いお嬢ちゃんに裸見られるのは恥ずかしいってさとチェリオが冗談めかして言う。パメラはきょとんとして「お父さんと同じでしょ?」と不思議そうに言ったけれど、チェリオに促されるままに個室の外に出た。ラカエルから恨めしそうに見られたが、チェリオはわざとらしく両手を広げて「お父さんより小さいって言われたくないだろ」と揶揄するように言った。
***
チェリオはニコラに指定した日時に地下街の入り口まで赴き、食料と処置に使う医療品を受け取って、地下街内の現状報告をしている。
相変わらずユーリのことは知らぬ存ぜぬで通しているが、ラカエルが無事なことや、ここからは誰も感染者が出ていないことから、既にニコラはユーリがここにいることを知っているはずだ。敢えて上に報告せずに黙ってくれているか、それとも上に報告をしているけれども泳がされているのか。
どちらにせよ楽に食糧が手に入るのだからと、チェリオはまったく気にしていなかった。
ニコラから受け取った荷物を持って地下街の中腹あたりに戻る。何事かあった時にすぐに対処をしやすいように、ほとんどの連中はこの辺りに潜伏させているのだ。本来は大岩を動かさなければ入ってこられない場所だが、チェリオは回り道をして戻ってきていた。以前ユーリに指摘されて人外すぎると否定はしたものの、実際には壁を登ってここまで行き来している。チェリオにとってはそっちのほうが近道だからだ。
いつもみんなが集っている広場の崖からひょこりと顔を出す。背負っている荷物を置いて、食料の保存場所にせっせと運んでいた時だ。チェリオの姿を見るなり、ラカエルが慌てたようにチェリオを呼んだ。
「すぐにユーリのところに行ってやってくれ、温泉水がある向こうにいるって言っていた」
体調が悪そうだったと、ラカエル。チェリオはマジかよと言って、いつものように切り立った崖をくり抜いてできた洞穴から下に向かって設置されている、いくつかの足場を伝って、するすると降りていく。ユーリから預かっている懐中時計を地面のレリーフに押し込んで、岩戸を開けた。
「ユーリ、大丈夫か!?」
岩戸を締め、ユーリの元に急ぐ。ユーリは奥の研究室に改造した小部屋にいた。板を重ねていただけの簡素なものが、どこから調達してきたのかリネン系のクッションが敷き詰められて寝心地が良さそうになっている。そのクッションにもたれ掛かっていたユーリは、チェリオを見つけるなり情けない声でチェリオを呼んだ。
「チェリー、助けてくれ」
もう無理とユーリが腹を押さえる。明らかにとろけた表情と舌足らずな喋りかたでピンときた。発情している。
「どうしたんだよっ?」
ユーリは涙目だ。いや、むしろ泣いている。ぐすぐすと鼻を啜りながらベッドを叩く。そばにはいつものものとは筆跡の違う資料と辞書が落ちている。
「この研究資料、ステラ語だけどステラ語じゃないんだっ」
「はあっ?」
「ところどころニュアンスが違うからおかしいなって思ってたんだけど、部屋にあった辞書を引いたら効能が全く違って」
ところどころ喘ぎながらユーリがいう。びくんと身体が跳ねたかと思うと、ユーリが蹲った。
「ううっ、もう無理っ、腹がおかしいっ」
チェリオは呆れながらもユーリの体をベッドに引きあげた。明らかに勃起して、しかも幾度か出したんじゃないかと思うくらいに濡れている。ごくりと喉がなった。
「も、入れてっ」
頼むからと、ユーリ。身体中にぞわぞわと電気が駆け巡るような感覚に襲われ、チェリオは勢いよくユーリに覆い被さった。
「き、キスはだめっ」
いままさにしようとしていたところだ。はあっ? と声を荒らげる。
「たぶん、接種者の体液に成分が混じってると思うから、舐めるのも、だめっ」
もう早くしてくれ! とユーリが切羽詰まったようにいう。チェリオはユーリのジョガーパンツと下着をずり下ろした。本当に何度もイッているらしい。パンツの中がぬとぬとだ。
「もしかして、ラカエルが言っていた“リビルド”の葉っぱ食ったのか?」
やるなよと釘を刺しておいたものだから、すぐに分かった。ユーリはだってと涙目で言いながらもビクビクと体を震わせる。そのたびに半立ち程度のペニスからどろりと愛液が溢れ落ちるのが見える。じつに扇状的だ。
「“ユーリ“もそうしてたし、ラカエルも食べてたっ」
「ばか、あれは食ったんじゃなくて噛んだんだ!」
そのあとちゃんと吐き出してただろうがと声を荒らげる。ユーリが腹を押さえて身体を縮こませる。足の指までぎゅっと握ったかと思うとびくんと大きく震えて聞いたこともないようなだらしない声をあげてイッた。ナカイキしたのか、何度も身体が震えている。
「も、マジでっ、助けてっ」
「この、ばかっ! もう食うなよ! なんでもかんでも口に入れるな!」
チェリオが大声を出すのにすら反応するらしく、ユーリがかわいそうになるくらい身体を撥ねさせる。ぐすぐすと鼻を啜ったかと思うと、すがるような目で見られた。
「あの本が悪いっ」
言いながらユーリが本をバンバン叩く。そういうことをしそうになかったから驚いた。
「本に当たるなっ」
ユーリの魔の手から本を救いだし、いつものデスクに放り投げる。わりかし貴重なものだと言っていたのにそういう行動に出るなんて、よほどのことだ。
「で、あの本になにが書いてあったって?」
チェリオはもしもの時用に忍ばせておいたスキンととんでもローションを取り出して、ユーリの後孔にローションをぶちまけた。その感触すら快感に変わるらしく、ユーリが蕩けた表情で早くと懇願する。チェリオは人差し指と中指にスキンを被せ、ローションをしっかり塗してから後孔に指を侵入させる。それだけできゅうっと後ろが締まり、ユーリがあられもない声をあげてイッた。慌ててユーリの口を塞ぐ。イッているせいで締まるがかなり蕩けている。もしかして自分でしたけど限界だったんじゃ……と想像し、チェリオは鼻息を荒くした。
「フェンタムの薬効っ」
「は?」
ユーリはまたビクンと体を震わせた。後ろがギュッと締まり、腰が揺れる。チェリオの指を自分のいいところに自らこすりつけているのではないかと思うような動きだ。
「一行目には別の薬草と混ぜてもいいって、でも、二行目にあったニュアンスの違う言語では、混ぜるなって……っ、っ」
「いや、それとリビルドの葉がなんの関係が?」
チェリオがそう尋ねたら、ユーリが急に猫が威嚇するかのようにうううと唸って、ベッドをバンと叩いた。おいとチェリオが突っ込むと、もう一度、今度は二度ベッドを叩いた。
「つまり、その本の意味の分からなさに苛立って、ムカついて仕方がないから、ストレス発散にキャットニップのごとくリビルドの葉を食った、と?」
なんとなく察してそう尋ねたら、ユーリがかなりの間をおいて頷いた。
「馬鹿かよ?」
なにやってんだと言いながら、一旦ユーリから指を抜いて、ユーリの身体を仰向けにしようと腹の下に腕を差し入れて持ち上げようとした。
「それだめっ」
声をひっくり返してユーリが言ったが、もう遅い。ぐっと腹に刺激が入ったからか、ユーリがあられもない声を上げた。ぼたぼたと音が立つくらいシーツの上にシミができる。何度も痙攣するたびにシミが広がるのと同時に、聞いたことがないほど蕩けた声でよがる。あまりの淫靡な声に、理性が吹っ飛びそうになった。
とりあえず何度かイカせて楽にしてやろうと思い、チェリオはユーリのいいところを探った。その場所はすぐに分かった。ユーリが異常なまでに反応し、力の入らない腕でベッドを押して逃げようとする。イギンにサルターレを嗅がされて犯されていた時のような反応に、チェリオの喉が大袈裟に鳴る。こりこりとそこを揉み込んだり指で挟んだりして刺激を与えていると、ユーリがチェリオの腕を掴んだ。
「それ、やだっ」
それじゃないと涙声でユーリが言う。はあはあと荒い息をするユーリの口から唾液が伝う。それすら飲み下せないのか、それともそれどころじゃないのか、ユーリはまるで誘うように片手で自分の尻たぶを開いて見せた。
「もう入れてっ、奥がうずくっ」
おかしくなると震える声でユーリが言った。いますぐにそのまま突っ込んでやりたいところだけれど、それはだめだという理性はまだ働いているらしい。粘液の摂取がダメなら、当然生はダメだ。いくらなんでもチェリオもばかじゃない。どうなるのか試してみたいし興味はあるが、その間になにかがあったらと思うと気が進まない。
チェリオは指に嵌めていたスキンを乱暴に外して床に投げ捨て、予備のスキンを猛ったペニスに被せた。ローションまみれのそこがひくひくと誘っているようにうごめく。チェリオは後で文句言うなよと念を押して、ユーリの後孔にペニスを押し込んだ。グッと亀頭を挿入させる時点でユーリが背中をしならせてイクのが分かった。チェリオはユーリの声が響くのを懸念して口を塞いだ。
ぎゅうぎゅうと締め付けられるせいでこっちまでいきそうになる。なんとかカリ首まで埋まった。それだけで息も絶え絶えと言った感じでよがるユーリをよそに、チェリオは負担がないようゆっくりと腰を進める。
ユーリの締め付けに邪魔をされ、ようやく根本まで埋まった頃、シーツはユーリが出した精液と愛液でびちゃびちゃになっていた。抽送するたびにぐちゅぐちゅと濡れた音が上がるのは、ローションのせいだけではない。肌がぶつかる音が狭い空間に響く。もしラカエルやロレンがユーリを気にして降りてきたら、なにをしているかがきっと周りにも聞こえているだろうと思うほどあられもない声をあげてユーリがなく。もう余裕なんてないのか、いつもの憎まれ口がまったく飛んでこない。
「あっつ。まだ治んねえの?」
ばさりと上着を脱ぎ、床に投げ捨てる。チェリオは後ろからユーリを突いていたが、なんとなく顔が見たくなってユーリを仰向けにさせた。んんっと喘いでユーリの腰が反る。またイッた。それなのに全然熱が引く様子がない。それどころか、どんどんとろけた表情になり、返事もせずただよがるだけだ。
チェリオがユーリの奥を突くように腰を動かすと、一際いい声で鳴いて痙攣を繰り返す。ぐっと後ろを締め付けられ、チェリオはうぐっと呻き声を上げた。スキンの中にチェリオのものが放たれる。その熱すら刺激になるらしく、ユーリの身体から完全に力が抜けた。
「もっと、奥っ」
チェリオはぎょっとした。もっと奥といったら、あそこしかない。いや無理だろと呆れたように言う。一度だけ、たった一度だけイギンにやられたことがある。漏れる漏れると喚いて散々な目にあったのを邂逅する。むちゃくそ苦しかったし、確かに抜かれたときは気持ちがよかったが、そのあとがまあまあの苦痛だった。
「こんなところまで届かねえだろ」
ユーリの腹を押す。ユーリの腰が跳ね、ぽやんとした表情のまま喘ぐ。奥を抜くよりここで楽にイかせてやった方が良心的だろうと思い、チェリオはユーリが求めている“奥”の入り口付近を腹の上から刺激した。
何度も、何度も繰り返しユーリが果てる。チェリオはスキンを変えてユーリが満足するまで責め立てた。腹を押さえながらユーリの奥を刺激してやると、ユーリはまさに嬌声といった表現がぴったりなほど艶めいた声をあげてイキ、ついに落ちた。
ユーリの腹の上は潮ともなんともつかない液体でびしょびしょだ。こりゃ洗うのも大変だなと思いつつ、チェリオはユーリの中から自身を抜き去った。まだほんのり硬さと熱を持つそれをユーリの臍あたりーー反応よくなく付近に擦り付ける。意識はないがそこを刺激されると微かに喘ぎ、腰をくねらせる。チェリオは興奮したように自身をそこに擦り付け、果てるまで腰を振った。
ーー何時間かして、ユーリがようやく目を覚ました。まだとろんとした顔をしている。手の痺れがないことを確認し、ユーリは顔を赤く染めて頭までシーツを被った。
「死ぬかと思ったっ」
ユーリの声はカスカスだ。あんだけ喘ぎゃまあそうなるだろうと思う。
「具合は?」
ユーリがシーツの中で腹をさするのがわかる。
「まだ重い。けど、さっきより全然マシ」
「つーか、なんであんなことになったんだよ?」
ユーリははあと色っぽい溜息をついて、ごそごそとシーツの中から顔を出した。
「リビルドの葉を食べた後に手足が痺れるから、その解毒のつもりでイェルナを飲んだらああなった」
俺のノートとペン取ってとユーリが言う。言われたようにベッドの頭もとに持ってきてやると、ユーリはノルマ語ではない文字でさらさらとなにかを書き記し、一枚ページをめくった後でこう書いた。『リビルドの葉の成分とイェルナの成分は混ざると超強烈な媚薬 危険』
まだ腹が重いといっていたからか、その間にもはあはあと息を荒らげている。チェリオは魂が抜けそうなほどの溜息をついて、両手で顔を覆って天を仰いだ。
「ほんっとに、人体実験じゃねえか」
「こうしないと薬効がわからないものもまだあるんだ。そもそも俺がわかるのはフォルス周辺に自生していた薬草の薬効だけだし、ミクシア周辺と共通するものもあるけど、そのなかにはもちろん知らないものもあって」
「とどのつまり好奇心に負けたんだろ?」
ユーリはそうじゃないと言いたけな顔だったけれど、結果的には間違いないからか、小さく唸ってまたシーツの中に隠れてしまった。案外しっかりしていそうな雰囲気だったから気付かなかったが、ユーリはこうやって突拍子もないことをしたりするから二コラやサシャから心配されていたんだろうと思う。次にこういうことしたら、ファリスのところに連れて行くからなと吐き捨てる。あいつのなら散々奥を抜いてくれるだろうしと言いかけて、ユーリが喘いでいるのに気付く。おいと言ってシーツを捲ると、ユーリが腹を押さえてまたがくがくと震えているのが見えた。
「はっ? まさか、想像してイッたっ!?」
「ちがっ、またぶり返してきたっ。イェルナにこんな成分があるなんて聞いてないっ」
「っとに、世話の焼ける。待ってろ、ラカエルに聞いてくる」
待ってとユーリが止める声が聞こえたが、埒が明かない。チェリオは中腹辺りまで駆け上がり、ラカエルの元に急いだ。
「ラカエル、リビルドの葉の薬効打ち消すものとか知らねえ?」
ラカエルが飲んでいた紅茶を吹き出した。盛大にむせる。あからさまに動揺したような表情だ。
「は?」
なんだって? と、ラカエルが尋ね返してくる。
「だから、リビルドの葉の薬効を」
もう一度説明しようとしたら、ラカエルはなにかを察したように、「ユーリ」と一言だけ呟いて頭を抱えた。
「食べたんだな?」
「キャットニップ代わりにしたらしいぞ」
厳密に言えば違うが、敢えて言ってみる。ラカエルが「彼は猫じゃないだろう」と真顔で突っ込んできた。
「あれには不思議な薬効があって、酒に強い相手にはなんの影響もないけれど、酒が弱い相手が食べると体によくないと言ったんだけど」
「よくないって、たとえば?」
ラカエルは少し体を起こして、周りに子どもがいないかを確認する。そのあとでチェリオの耳元に顔を寄せた。
「まあ、早い話が酔う」
だろうなと、チェリオ。
「彼は何故時々こういうアホなことをするんだ?」
「知らんわ、好奇心に負けて食ったんだろ」
ラカエルが解毒の為になにを使ったのかと尋ねてきた。たしかイェルナだと言っていたと告げると、瞠目した。ユーリが考えたことは正しかったらしい。イェルナが効かないとなると……とラカエルがつぶやいた後で、そわそわし始める。
「まさか、苦しそうだったのは発情していたのか?」
小声で尋ねてくる。そのまさかだ。
「ファリスがいたら鼻血吹いてたかも」
「ビエトラの葉を使えば……いやでも、単独ならまだしもイェルナとリビルドの薬効があるのに使うとどうなるかまでは。最悪余計に発情しかねない」
かわいそうだけど放っておくしかないかもと、ラカエル。チェリオはマジかと言ったあとで、自業自得だわなと素っ気なく言った。
「発情しまくって大変だから、さっきまでイカせてやってたんだけどさ。埒が明かないからどうすりゃいいのか聞きに来たんだ。もうヤベえの、ぐちょぐちょのドロドロ」
そこまで聞いてないよとラカエルが顔を赤くした。
「くる? マジですげえの。ファリスがいたら投入してやったんだけど、まだ見回りから戻ってきてねえだろ?」
「そりゃあ彼は喜ぶだろうけど、ユーリがかわいそうだからやめておいたほうがいい。
リビルドの葉の効果がどこまで出てどうなったのか証明できないけど、イェルナの薬効と相俟ってそうなったのだとしたら、たぶん刺激すればするほど熱が溜まる」
「……あ、もしかして俺がしたことって逆効果だったり?」
「おそらく。もしかして彼、アルコールを受け付けない体質なんじゃ? だとしたら、リビルドの葉の効果に酔って、挙句イェルナの解毒効果でとんでもないことになっている可能性はある」
「マジか、この国の奴らって全員酒浴びるほど飲むやつばっかじゃん。俺もこないだファリスにもらったけど、全然普通に飲めた」
「まあ、彼はイル・セーラだし、少し特殊な体質なのかも。
収容所での出来事を少し聞いたけど、ヴェローネとマリーツィアが破壊的に合わないと言っていて」
そこまで言って、ラカエルが大声をあげた。ラカエルがそんな反応をすると思っていなかったから、チェリオも、そして周りにいたネイロも驚いたような顔をする。
「おい、ラカエル。なにを急に素っ頓狂な声を出しやがんだ」
びっくりすんだろうがと、ネイロがヤジって来る。
「ご、ごめん。ああ、そうだ。そういうことか」
なんてことだとラカエルが両手で顔を覆う。その反応からなんとなく想像がついた。
「もしかして、そのふたつの薬の成分に、リビルドの葉が使われていたり?」
「そのまさかだよ。数種類の薬草と麻薬を混ぜて作るんだけれど、リビルドの葉の含有量は両方とも0,1mgから0,2mgと決まっている。つまり、葉っぱ1枚分にも満たない」
「それを、その葉っぱ1枚むしゃむしゃ食ったってことは」
「……本当にかわいそうだけど、もう放っておくしかない。温泉水をしっかり飲ませて中和するくらいしか」
そう言ったあとで、ラカエルが「ちょっとまって」と言って立ち上がり、奥の処置室に置いてある薬草箱をごそごそと漁り出した。
「おう、チェリオ。あの兄ちゃんがどうかしたのか?」
不審そうにネイロが尋ねてくる。ネイロを揶揄うのに教えてやろうかとも思ったけれど、ユーリのあの惨状があまりにもかわいそうすぎて、やめた。
「研究に煮詰まって、食っちゃいけない葉っぱ食って腹痛起こしてんの」
「ああっ? あほだな、あの兄ちゃん」
「チェリオ、これだ」
ラカエルが慌てたように、なにかの粉末が入った小瓶を持って戻ってきた。
「これは少し珍しいものなんだけど、イェルナと併せても問題のない毒消しだ。一番小さな薬匙の先にほんの少しで効く。
ただし、彼が俺に飲ませた丸薬をもし飲んでいたとしたら、それは飲ませないこと。あの成分を聞いたが、その中にはその粉末と併せるととんでもないことになるものが含まれている」
「とんでもないことって?」
ラカエルが首を横に振る。ああ、なるほどと悟り、ホールドアップして見せた。
「オッケィ、そうだったら飲ませねえわ。死ぬほど面倒くせえことになる」
「それがだめなら、温泉水をちゃんと飲ませてやってくれ」
むしろ、温泉にぶっこんでやったらいいんじゃないかとラカエルが言った。その手はありなのかとも思ったけれど、最終そうするわと告げて、広場を出た。
ユーリがいる場所に戻ると、岩戸を動かす前からユーリの切なげな声が聞こえてきた。一気に顔が熱くなるのを感じて、チェリオは急いで部屋に戻った。
「まじで大丈夫かよ? ラカエルが放っておくしかないかもっつってたぞ」
「だ、だから、止めたのにっ」
ユーリはふうふうと息を荒らげながらシーツに包まった。ぽやんとした表情だけれど、最初よりはだいぶ治まっているようにも見える。ユーリが声が出るほど大きな溜息を吐いてベッドの上で足をばたつかせているのを横目に、チェリオはなに悶えてんだと素っ気なく突っ込んだ。
「つか、おまえが俺にくれた丸薬飲んだら一発なんじゃねえの?」
ユーリが涙目でチェリオを睨む。その表情でピンときた。それはもう試したあとのようだ。大袈裟に両手を広げてお手上げだとジェスチャーをする。
「ラカエルが薬草の粉末くれたんだけど、俺にくれた丸薬、基ラカエルに飲ませた丸薬を飲んでいたら、これは飲むなって」
「温泉水も試したし、別の方法も試したけど、腹の疼きだけが消えないんだ」
はあっと色っぽい息を吐きながら、ユーリが言う。
「全部二コラが悪いっ」
「羽目を外した自分が憎い」と恨みがましく言いながら、ユーリが何度もベッドを叩く。出掛けにいちゃついたと自白しているようなものだと気付いていないらしい。
「うるせえな、自分が蒔いた種だろうが」
ユーリの尻を勢いよく叩いた後で、チェリオはあっと声をあげた。いろんな刺激に敏感になっているユーリはそれだけでイってしまったらしく、ベッドの上で身体を丸めてがくがくと震えている。
「うううううううっっ」
恨みがましくユーリが唸る。
「あーもー、しゃあねえなあ。自分が勝手に食ったんだから、反省しろ」
ラカエルが言っていた最終手段に訴えるしかない。チェリオは最早足もがくがくで自分で身体を支えきれないくらいになってしまっているユーリの身体をひょいと抱き上げた。その刺激だけでユーリからどろりと白濁が漏れだす始末だ。いつもならチャンスとばかりに抱き潰すだろうけれど、こんな状態のユーリを好き勝手出来るのはもう鬼畜野郎しかいないと思う。
ユーリを温泉のところまで連れて行って、滝の水をたらいに汲んでユーリの身体を清めてやる。直接滝に突っ込んだら間違いなくイキ地獄だ。
「なあ、洗いにくいから立てる?」
ユーリを地面に下ろしてみたけれど、もう足が立たないらしく、無理だと涙声で言われる。仕方がないから、服が濡れるのを覚悟のうえで、そのままどろどろになった前を洗ってやり、温泉に突っ込んだ。幸せそうな、でもどこか色を孕んだような溜息を吐く。
「もう絶対あんなの食わない」
「当たり前だ、なんでもかんでも口にすんなよ。ラカエルが、おまえはアルコールを受け付けない体質なんじゃねえかって」
ユーリが不審そうな顔をした。
「飲んだことないからわからないけど」
「もしそうなら、おまえ人前であんな醜態晒すことになるんだぞ? エリゼじゃねえけど、不特定多数に犯されたくなかったら、マジで絶対酒なんか飲むなよ」
わかったなと語気を強める。ユーリは不満げに眉を顰めたけれど、さすがに懲りたのか小さな声でわかったと頷いた。
ともだちにシェアしよう!

