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Eleven(4)★

 この4日間の成果として、様子観察中だった10名のうち、6名が改善した。残りの4名は状態が変わらない者、徐々に悪くなりつつある者がいると告げる。ドン・クリステンは少し伸びたユーリの髪に指を絡め、目を細くして聞いている。 「それで、残りの4名はどう対処するつもりだね?」  腰を揺すられ、ユーリはんっと息を詰めた。 「ちょっと、そんなんされたらっ」  しゃべれないと言いながらドン・クリステンの胸を叩く。ドン・クリステンは楽しそうに笑って腰を揺する。 「俺がイクまでの間なら話を聞いてやると言ったはずだ」  自分だけなにを楽しんでいると、つんと立った胸を弾かれる。びくんとユーリが背中を丸める。立て続けに襲ってくる快感に、生理的な涙がこぼれる。快感を耐えようと力を入れればドン・クリステンの熱を嫌でも感じてしまう。ユーリが一番よがる場所を刺激できるようにわざわざ対面座位を選んでくるあたりが小憎らしい。 「だから、んっ、ぅ、デティレとカナップの使用をっ、ぁっ、ぅあっ!」  がくんと背中がしなり、ドン・クリステンの肩にしな垂れかかる。腹の奥から痺れたような感覚が消えない。息を弾ませ、あふれてくる唾液を飲み込んだ。 「認めろと?」 「っ、そう。あれがあれば、状況が変わるかもしれない」  もう動くなとドン・クリステンの肩口を掴む。クックッと笑われ、背骨を指ですうっとなぞられた。 「またちゃんと食べなかったそうじゃないか。これ以上痩せると抱き心地が悪い」  いまでも大概我慢してやっているんだと、ドン・クリステンが言う。 「じゃあ、俺の心労を減らしてよ」  ドン・クリステンが腰を上下に揺すらない代わりにするするとユーリの身体を撫で始めた。胸や背中、尾てい骨あたりをさわさわと撫でられ、空いた手でドン・クリステンが埋まっている腹を押される。 「んんううっっ」  思わずドン・クリステンの上質なシャツを掴んだ。息が合わないほど煽られているというのに、ドン・クリステンはまだ余裕そうだ。笑いながら腰を前後させてユーリのいい声で鳴くところを捜す。シャツを掴む手に力がこもる。ギュッと足の指まで力が入ったかと思うと、がくがくと腰が痙攣した。 「うあっ、ぁっ、ああっ!」  それだめと言いながら体を丸める。ドン・クリステンの熱が自分のいいところをロックしているのではないかと思うほどにダイレクトな快感が身体を襲う。声を押し殺そうと口を塞いだが、絶え間なく襲ってくる快楽のせいで甲高いよがり声が上がった。ドン・クリステンの笑い声が聞こえてくる。 「ずいぶんよさそうな声だな。そんなにこれが好きかね?」  ぐんとそこを突かれ、ユーリがまたあられもない声を出した。だらしなく開かれた口から唾液が落ちる。ドン・クリステンはユーリの顎を掴んで顔をあげさせると、快感に濡れた顔を見て嗜虐心を煽るなと薄く笑う。 「デティレの使用は認められない。悪いがそれは無理だ」  いいところをわざと引っ掻くようにされ、ユーリがまた嬌声を上げた。ちょっとまってと震える声で止めたがやめてくれる様子はない。 「カナップならまあ、オレガノでも使用していると言えば敵わなくはないだろうが。  デティレに関しては王を挿げ替えない限り無理だな」  あれが応じるわけがないと、ドン・クリステンが低い声で言う。 「ほかには?」  言いながらドン・クリステンが腰の動きを速める。懐中時計を見ていたから、そろそろ時間なのだろう。 「あっ、んっ、っうう。西側に、っ、んんっ、イル・セーラといた、左目の下に、泣きぼくろがある男」  ドン・クリステンの左目の下の泣きぼくろを触る。ほおと興味深そうに目を細めたと同時に、腰の動きが緩やかになった。 「テヴィっていう、西側の住人が、見たってっ、っふ、ううんっ」  ぐんと奥を突かれたせいでユーリがのけ反った。腹が熱い。さっきから何度もイっているせいで頭がふわふわする。 「ぁっ、っは、っ。あんたとおなじ」  ふふっと笑って、もう一度泣きぼくろをなぞる。ドン・クリステンはユーリの腰を掴んで、がたがたと椅子が音を立てるほど激しく腰を振ってユーリを快感の渦に落とし込む。いつもは触れるなと文句を言うペニスをドン・クリステンに掴まれて、愛液に濡れたそこを振動とともに刺激され、ユーリはドン・クリステンにしがみつきながらイッた。呻き声が聞こえたかと思うと、体の中に熱が放たれる。断続的なその刺激すら快感に変わり、ユーリはがくがくと腰を震わせながら短くよがった。 「今日も時間切れだな」  言って、ドン・クリステンがユーリをそのまま抱き上げた。ぐんと奥まで刺激が加わり、ユーリはまたあられもない声をあげた。ベッドに押し倒される。熱をすべてユーリの中に放出せんとばかりにそのまま何度か腰を揺すられた。角度が変わったせいで放置された場所に熱が当たる。ユーリの吐息交じりのよがり声を聞いて、ドン・クリステンは目を細めて肩口をトントンと叩いた。 「ほら、忘れているぞ」  言われて、ユーリは朦朧とする意識の中でドン・クリステンのシャツの襟をかき分けて、肩口に噛み付いた。後ろを刺激されるせいでうまくキスマークが付けられない。 「うんんっ、っ、ふっ、っ!」  指示されるとおりに、ふたつキスマークを付けた。いい子だと耳元で言われ、ぞくりと腰のあたりが熱くなるのを感じる。部屋のドアがノックされたかと思うと、二コラが入ってきた。また気まずそうな顔で視線を逸らすのを遠目に見ながら、ユーリはドン・クリステンの胸倉をつかんだ。 「背中には気を付けろよ、泣きぼくろの男」  ドン・クリステンがふふっと笑う。 「そうさせてもらうよ。カナップの件は上に話すだけはしてやる」  言って、ユーリからドン・クリステンがペニスを抜く。またいいところを抉るようにして抜かれたせいで、反射的によがり声が上がり、ユーリは口を塞いだ。 「どうも性根が入らないようだ。二コラ、すまないが処理をしてやってくれ。今日は本人のリクエストで中に出した」  そう言って、ドン・クリステンはさっさと処理をして衣服を整えると、颯爽と部屋を出ていった。与えられた快感のせいでうまく体が動かない。あられもない恰好をしていることに気付いて、息をあげながら足だけは閉じたが、後ろから精液が零れ落ちる。二コラが怒りとも嘆きともつかない溜息を吐いた。 「いい加減に間を覚えろ、バカ」  二コラが手を伸ばしてくる。ユーリは二コラにしがみついた。勢いで二コラがベッドに手を突いた。二コラを呼ぶが、気まずそうに目を逸らされる。 「おまえはドン・クリステンに飼われると決めたのだろう。なら俺に尻尾を振るな」  いつもの香水のにおいだ。それが鼻腔をくすぐるだけで達しそうになる。ぞくりと腰が、腹が熱くなるのを感じながら、ニコラにしがみつく腕に力を込めた。体を屈め、ガクガクと何度も痙攣する。せつなげなよがり声が自然と上がるのをおさえられない。  重症だと思う。ドン・クリステンはなんの嫌がらせか、いつもユーリが一番鳴くところに触れない。 「奥、疼いて……っ」  んんっと声が漏れる。震える足を動かしてニコラの腰に擦り付ける。 「頼むよ、いれて」  ニコラがいいと告げたが、ニコラは難しい顔をしてユーリの腕を解いた。 「言ったはずだ。俺はドン・クリステンの所有物には手を出さない」  そういう趣味はないとはっきりと告げられる。ユーリはニコラの襟元を掴んだ。 「あと少しなんだ」  あと少しだけと、ニコラに告げる。 「じゃあ事が済んでからにしろ」  端的に告げて、ニコラが離れようとしたが、ユーリは嫌だとニコラにしがみついた。首元にキスをする。もう消えてしまっているが、前につけた箇所と同じところを吸ってキスマークをつける。アレクシスに言われたはずだ。これはある意味で儀式的なものだと。もうひとつ、もうひとつと慈しむように繰り返し、ニコラの首元にキスマークを散りばめる。ニコラが身体を起こしたせいで肩に絡めていた腕が外れた。ニコラがユーリの腕を掴んで顔の横に押しつける。 「媚びるなと言ったはずだ」 「頼むよ、ニコラ」  あれからぽかりと穴が空いたような気がする。自分のからだにも、こころにも。サシャのいない寂しさを埋めるためだとニコラには思われているのかも知れないが、そうではない。そうではなくて、ニコラが欲しい。ドン・クリステンに抱かれたあとは、大体毎回ニコラに処理をされる。まるで煽るような行為にじくじくと熱だけが溜まりおさまりがつかない。だから研究に没頭して考えないようにしていたけれど、このままでは苦しくてしょうがない。ニコラに抱かれたいと素直に訴えた。  鼻先が触れる。すぐに躊躇うように視線を彷徨わせるのに気づいて、ユーリはふっと笑った。 「今日はしてない」  キスも、フェラもしていないとはっきりと告げる。代わりに中に出してくれと頼んだと伝えると、ニコラがくそっと忌々しげに言ってキスをしてきた。ニコラの唇が触れただけで体が熱くなる。奥から熱が込み上げてくるような感覚だ。ユーリの背中が反り上がり、甘えるような声で鳴いた。  目の前がチカチカする。浮いたような感覚。ニコラにいれられる期待だけで飛びそうな勢いで胸が高鳴る。ユーリはニコラの舌を受け入れながら震える手でベルトをくつろげ、ズボンのトップボタンを外した。ファスナーを下ろそうとしたけれど、スムースに動かない。ニコラの昂りで歪になった部分が邪魔をしているらしい。  自分だって期待しているんじゃないかと思う。キスをされながら揶揄するように笑うと、舌を絡め取られた。じゅうじゅうと音がするほど吸われる。腕を拘束していた手が解かれたかと思うと、ニコラが覆い被さってくる。その体温に、重さに、熱った肌に硬い感触が擦れずんと腹が重くなるのを感じた。  二コラはキス魔だ。自覚があるのかないのか知らないけれど、罪悪感があるときにはこうして長いキスが続く。ドン・クリステンに飼われることにしたと言った時の二コラの表情は、明らかに自分の意図を理解していないようだったし、そろそろ限界だ。あの人も二コラがなにもわかっていないことを知っていて調子に乗っている。本人は「遊び心だ」と言っていたけれど、「あんたみたいな上司に当たって二コラがかわいそう」と文句を言ってやった。  二コラにキスをされながら、意図に気付いてほしくて膝で腰を擦る。さっきまで散々ドン・クリステンに鳴かされていたのを知っているくせに、弛緩したユーリの後ろにニコラの指が遠慮がちに触れる。長い指が侵入してくるのを粘膜が悦びその熱を余すことなく感じ入ろうと締め付けた。キスをしたまま締めるなとニコラに言われる。ユーリを感じさせようとする動きというよりは、中に出されたものを掻き出そうとしているようだ。息継ぎのたびに甘い声が漏れ、ふわふわとした感覚が強くなる。もう少しでいいところに触れそうだというところまで指が入ってきて、ユーリはキスをされながら悶えた。 「ふっ、ぅ、んんっ、んうっ」  貪るようなキスから啄むような軽いものへと変化する。指の動きも中のものを掻き出すような動きから、徐々にユーリの快感を煽るような動きに変わってきた。長い指でいいところを引っ掛けて押し潰すようにしながらも、親指で器用に会陰を揉み込まれる。ユーリの腰がくねる。ニコラの唇が離れていく。息を弾ませるせいかユーリの薄い腹が動くたびになかにニコラの熱を感じて、ぞくぞくと体が痺れるような感覚に陥った。  二コラは濡れた口元を拭って、ベッドサイドにある紙を数枚とり、ユーリの中から掻き出したものをふき取っていく。ご丁寧なもんだなと言いたかったけれど、独占欲の強さと衛生観念が混ざり合い、衝動的になれないのかもしれないと悟る。ドン・クリステンに散々泣かされた挙句、二コラの粘膜まで愛撫するかのようなしつこいキスを受けて、呼吸が整わない。薄い胸と腹が上下するたびに、甘えるような、あえかな声が漏れる。  二コラがまた覆いかぶさってきた。またキスをされる。唇に、首に、喉元にキスを落とし、空いた手の指先で敏感になった皮膚をなぞられる。快感に粟立つような、ぞわりとした熱が全身を襲う。それだけで達しそうになり、自然と腰が浮く。まるで自身を二コラの服に擦り付けて自ら快感を得ようとしているかのような動きになる。まったく意図していない動きに顔が熱くなるのを感じたが、二コラは気付いているのかいないのか、期待のせいでぷつりと立ち上がった胸を指先で軽く弾いた。 「んっ、っ」  しつこくそこを愛撫される。堪えきれない声が漏れるのを両手で口を塞いでなんとか押し隠そうとするが、あまえたような声が二コラに愛撫されるたびに零れ出ていく。身体を指先で撫でられるほんの少しの感覚すら快感に変わり、鼻にかかった甘い声が吐息と共に大きくなる。二コラのいつもよりも熱に浮かされた舌で胸を潰され、反射的に背中を反らせて逃げようとするが、それは続きを促しているようにしか見えない。 「っ、ふ、ぅあっ、ぁっ」  舌で押しつぶされたかと思うとそこを吸われ、解放されたかと思うと指で擦られる。まるでドン・クリステンに与えられた快感を、すべて自分の熱で塗り替えようとしているかのような軽い愛撫だけでイキそうになる。  二コラの手がするすると身体を這い、降りていく。同時に二コラが少し体を下げて、今度は下腹部にキスを落とされる。刺激されると大体スイッチが入るのを知っているくせに、二コラがへそ周りを中心に愛撫してくる。シーツを蹴って逃げようにも、脚を浮かされているせいで、そして全身を覆いつくすような甘い痺れのせいで、力が入らない。逆に二コラから与えられるキスとユーリの快感を高めようとする手の動きのせいで、大げさなほど身体が跳ねた。  下腹部、へそ周り、そして鼠径部にキスをされたあとで、二コラがユーリの足を軽く開かせた。内腿にキスをされる。同時に甘い感覚に喉が鳴る。二コラに持たれていないほうの足で二コラの肩を蹴って押しのけるようにして、やめろと抵抗したが、逆に何度もそこにキスをされた。キスだけじゃない。甘いリップ音が響く。まるで耳の傍で鳴っているかのような錯覚に陥る。濡れた音がするたびにユーリのよがり声が切なげなものに変わり、二コラの肩を押しのけるようにかけていた足がずるりと落ちた。  今度はその足を持ち上げられ、ふくらはぎにキスをされる。生理的にあふれる涙を拭って、二コラを呼ぶ。 「早くしろよ」  自分の声が震えている。ドン・クリステンのものとは違う、別の熱に浮かされ、快感に濡れたその声は、明らかに二コラの熱を欲しがっているようなものだった。あまりこんな経験はない。どんなに相性のいいゲストに抱かれる時だって、こんなふうに自分から誘うことはなかった。相手の思うように、望まれるようにただ扱われるだけで、――。 「いつまで待たせんだよっ、むっつりスケベ」  浮かされた足で二コラの身体を蹴ろうとしたが、痺れに囚われてうまく動かせない。二コラがユーリの両足を抱え、自分のほうへと身体を寄せた。うわっと声が上がったが、すぐに二コラに覆いかぶさられる。  またキスが降ってきた。ニコラが腰を浮かして自らファスナーを下ろして、下着とズボンを少しずり下ろして猛ったペニスを露出させる。ユーリはそこに手を伸ばし、それをすりすりと擦り、扱いて育てることに専念した。ニコラにキスをされながら、この熱を捻じ込まれるのを今か今かと待ち侘びるような思いで猛ったものを育てていく。こんな行為にも慣れているというのに、ニコラの熱に触れる指先まで溶けそうなほど快感を期待している。  二コラの唇が離れていく。猛った熱を支えるようにしてユーリの腰を少し上げさせたあとで、二コラがぴたりと動きを止めた。 「はっ?」  セックスの最中には有り得ないような苦い顔をしているのに気付いて、ユーリが眉を顰めた。ニコラはドン・クリステンの忠実な飼い犬だ。最初からユーリを抱く気などないから、スキンを持っていないことに気付いたのだろうと察する。 「いらないって」  腿でニコラの腰をさすりながら。いままで散々中出ししたことがあるくせにと揶揄したあとで、ニコラの言いたいもうひとつのことに気付く。この部屋には室内にシャワールームがない。二階には共用のシャワールームと、バスタブがあるが、ユーリが使っている部屋とは真逆の位置にある。 「じゃあ腹の上でいい」  はよしろとニコラを蹴る。 「あとで文句を言うなよ」  ニコラがユーリの腰を掴んで、少し腰が浮くような体勢にされた。余裕を失しているのがわかるような表情のまま、ニコラの熱がそこに触れる。ゆっくりと先端が埋まり、ユーリは体が震えるのを感じながらニコラにしがみついた。  熱に支配されたように体がいうことを聞かない。ふわふわした感覚も、腹の奥の疼きも酷くなる。ニコラのペニスがぐんと入り込んでくるのを身体中で感じるせいか目の前がチカチカした。 「ああァ……っ!」  ニコラの熱がいいところを掠めたわけでもないのに、いれられただけで甘い声が上がった。ガクガクと体が震え、ニコラに絡む腕に力が入る。声が部屋の外に漏れることなど頭になかった。揺さぶられるたびに嬌声が上がる。そんなつもりなどないのに腰が勝手に動き、ニコラの熱がいいところにあたり、それをさらに強く感じる。ニコラの動きに合わせて中を押されるたびに吐息と一緒によがり声があがるのを堪えられない。  ふわふわとする感覚に支配され、声を殺すのも忘れてよがる。粘膜を搔き回される感覚は、誰に与えられたものよりも強く、そして甘い。ようやく与えられたそれを逃がさないとばかりになかが収縮する。ニコラの質量が増し、中で弾けた。どくどくと熱が溢れ出る。 「はっ、ぁ、ああっ、んっ、んぅっ」  ニコラがまるで自分のものだと主張するかのように、奥に、奥に熱をすすめ、射精する。ひとつひとつの動きがあれほど自分に触れることを拒んでいたのが嘘のように激しく、熱い。熱に侵される感覚にたまらずユーリも達した。  何度も、何度もニコラの熱に穿たれる。その度に声が大きくなるのを感じるがコントロールがまるでできない。ニコラの大きな手で口を塞がれた。せめてキスで塞いでほしい。口を塞がれたままニコラに訴えた。  大きな手が外れ、噛み付くようにキスをされる。いつもはもっと余裕ありげに、ゆっくりと攻めてくるくせに、まるで自分の熱を発散させるかのように乱暴な腰遣いだ。それでも満たされているように感じるのは、相手がニコラだからだろうか。ドン・クリステンの時とは違う、体の奥から溢れてくるような感情に浸りながらニコラに与えられる快感を貪った。  二コラにしがみ付き、快楽に飲まれたような艶めかしい呼吸を繰り返しながら、耳元に顔を寄せる。 「手ぇ出すのおせえんだよ、むっつりスケベ」  ニコラが驚いたような顔をした。声を出すなと言いながら、二コラを煽るように腰を動かす。 「こういうときにしか二人きりで話せないんだから、察しろよ」  二コラの腰辺りを抓りながら言ってやる。色々聞き出したいことがあったのにと恨みがましく告げると、二コラが少し体を起こして怪訝そうな顔をした。 「まさか、このためにドン・クリステンに“飼われる”と言ったのか?」 「あたりまえだろ、目的もないのに“飼ってくれ”なんて言うかよ」  人を色情魔みたいに言いやがってと文句を言う。二コラは気まずそうに眉を寄せて、ユーリの額にこつんと額を当てた。 「危ない橋を渡るんじゃない。バレたらどうするつもりだ。あの方は鋭いぞ」 「読んでるだろ、そのくらい。だからわざわざあんたに『処理しろ』って言ってるんじゃない? じゃなきゃただの変態だろ」  その気は否めないがと言うと、二コラが人の上司を変態扱いするなと唸るように言った。 「あんたたちノルマは、何故アルマの研究をしなかったんだと思う?」  ニコラがアルマの研究と反芻すると、ユーリは小さく頷いた。 「サシャからは深入りするなと止められていたからあんたにも言わなかったけれど、俺たちが住んでいた集落が襲われたのは、アルマの感染源がイル・セーラだというデマからだった。基本的にイル・セーラはアルマに感染しない。  アルマは母子感染するとも言われていて、女性が罹患すると非常に危険だとされる。けれど収容所の劣悪な環境に置かれていた以前から、イル・セーラのほとんどはアルマに対する免疫があり、感染するリスクは低い。すべての集落がそうとは言わないけど、習慣的に飲むものがアルマだけじゃなく、ファントマも、それからたぶんほかの風邪とかも“著しく感染リスクを下げる”役割をしている。  もちろんゼロじゃない。呼吸器疾患のある者、心疾患のあるもの、その他免疫疾患のある者はイル・セーラであっても感染するリスクがある」 「つまり。以前のパンデミアを起こした感染源は別にあり、おまえたちのいた集落はでっちあげで壊滅させられたと言いたいのか?」 「でっちあげかどうかはわからない。ただ“ユーリ”を殺したかったからとも考えられないことはない。その証拠に、“ユーリ”が開発したフェルマペネムは禁止されていないうえ、アルマの特効薬として政府が使用を受け入れた」  たしかにと二コラが小声で言う。そもそもフェルマペネムの代替品など、作ろうと思えば作れてしまうはずだ。ノルマもそこまで知識がないわけではない。ただ、ユーリたちイル・セーラとは着眼点が異なるだけだ。それなのに、やたらとフェルマペネムに執着をして、それ以外にアルマのパンデミアを防ぐための措置を取ってこなかった。 「フェルマペネムはただの口実で、べつになにかの目的がある、ということか?  これはオレガノ軍から耳にしたことだが、政府はフェルマペネムの製造や代用品を作るために関与した者のほとんどを始末しているらしい。おまえが栄位クラスに入る前に、大学の権威や、栄位クラスの人間が数名不審死しているが、それが関係しているのだろうか?」  あるかもと告げる。どうも二コラは喋り出すと腰の動きが止まるらしい。本当にこいつは“隠密”に向かないなと思いながら、二コラを煽るために腰を動かす。 「俺も不思議だったのだが、父が亡くなったのは、フェルマペネムの代替品に関する研究を依頼されたあとだ。だからその秘密を知る者は、命を狙われるのではないかと懸念していた」 「あァ、だからあんなに心配そうにしていたわけ?」 「当たり前だろう。亡くなる前に、父から聞かされたことがある。アルマの感染で全滅した村を検視したことがあるらしいが、3mm程度の穴がほぼすべての遺体の頸動脈付近に空いていたそうだ。採血後に針を抜く際に失敗したときのような血液の痕がある遺体がいくつもあり、その遺体はもしかすると、『まだ生きている状態』で血を抜き取られたのではないかとも言っていた。  そしてその検視に同行した仲間の一人が、血液暴露によるパンデミアを引き起こされる可能性があると政府に訴え出たら、フェルマペネムの代替品を作るよう命じられたらしい」  二コラの眉間の皺が深くなる。二コラの父親が殺されたのは、約9年前のことだ。そんなにも前から用意周到に計画されていたことに驚いた。 「父が亡くなったのは、そのあとだ。殺されるかもしれないと悟り、俺宛に手紙を忍ばせていたが、それにはやはりフィッチが絡んでいる旨が記載されていた。  当時俺はまだ学生だったし、父からも関わるなと厳命されたこともあって黙っていたが、その手紙を証拠としてドン・クリステンに調査をして頂くよう掛け合った。ジャンカルロたちがいま、フィッチとピエタの下部組織の動向を探っている。パンデミアが起きて以降、怪しい動きをしているようだ。そこにおまえが作ったヴィータが流れていたようだが」  やっぱりかと思う。ちゃんと腰動かせよと詰ったら、二コラが面倒くさそうに眉を寄せて、身体を反転させてベッドに仰向けになった。騎乗位のような態勢を取らされたあとで、ぐいと上半身を引き寄せられる。二コラのものが良いところに当たり、うんっと声が漏れる。 「ヴィータだけじゃない。おまえが以前政府に提出した、アルマの緩和剤と中和剤の論文があっただろう。あれもオレガノ側が掴んできた情報だが、ピエタの下部組織が拮抗薬を作っていたそうだ。だから、西側から流れてきた感染者が地下街では治癒できても、地上ではなかなか思うように成果が上がらなかったという証拠になる」 「そんなもん作れるの、俺には一人しか心あたりがないんだけど」  二コラが真剣な面持ちで、ユーリの身体を掻き懐く。 「杞憂ではないのか? 一度裏切ったとはいえ、同族だろう」 「一度裏切ったやつは、何度でも裏切る。そもそも、最初から泳がされていたってこともある」 「おまえたちがフェルマペネムの再現ができないと、政府に訴えたこともか?」 「訴え出るところまで、一緒に行った?」  二コラが小さく首を横に振る。 「イル・セーラがどう動くか、なんのためなら動くかを、よく知っている相手が絡んでいると、最初から睨んでいた。だからミカエラに研究資料を渡すように頼んだんだけど」 「言語が異なり、読めなかった、と」  マジでクソと罵ると、二コラが笑いながらユーリを揺さぶった。 「そういう抜けた部分はおまえらしい」 「んっ、っ、ァ。二コラだって、知らなかったくせに」 「意外過ぎて焦った。通信手段もないうえに、こともあろうにおまえは地下街の中だ」  治外法権すぎて手を出せなかったと、二コラがつぶやく。 「あァ、知ってた?」 「おまえがスラム街で“誰”を真っ先に頼るかくらいは」 「来ればよかったのに。二コラなら、チェリオは手を出さなかったと思う」  そう言ったら、二コラが苦い顔をした。「おまえの首を掻っ切ると言っていた」と、ぼそぼそと話す。「実際あいつがやるわけねえわな」と揶揄すると、ニコラがユーリを掻き懐くように抱きしめてきた。  二コラの服の生地に胸が擦れ、甘い声が上がる。よく考えたら、二コラは上着すら脱いでいない。自分だけがローブをはだけた姿で求めているような気にすらなる。二コラから与えられる快感も、そしてこの香水のにおいも、妙に心地がいい。腰を揺すっているつもりだが、胸がこすれて気持ちがいい。声を押し殺しながら夢中で身体を動かしていると、頭上で二コラが唸った。二コラの熱が広がる。 「っ、ぁ。はや、イッたの?」  珍しいと言いながら腰を揺すっていると、二コラが両手で顔を掴んできた。 「おまえっ、それは反則だろうっ」 「は?」  意味が分からないと思いつつも二コラを見上げる。また二コラが小さく唸り、眉を顰めた。ずくんと腹が疼く。二コラのものがいいところに当たるように腰を動かしていたつもりだったけれど、やたらと腹が疼く正体に気付く。二コラの服の記事に胸を押し付けるような格好で、それが擦れる感覚に夢中になっていた。ぶわっと全身が熱くなるのを感じて、ユーリは二コラの胸に顔を埋めた。 「違うっ、断じて違う!」 「まだなにも言っていないだろう」 「あ、あんたが、手を抜くからっ」  全部二コラが悪いと喚くように言ったからか、頭上から溜息が聞こえてきた。 「ドン・クリステンの同行はこちらで把握している。彼が政府や下部組織と繋がっていることはまずない。  それにあの方は、どちらかといえば政府と下部組織から命を狙われている」  二コラがユーリの身体を掻き懐くようにしながら、腰を揺すって来る。胸も、前も擦れて体に甘い痺れが走った。体を起こされたせいで、二コラの心地よい低さの、耳から孕まされそうなほど甘い声がぼそぼそと継ぐ。びくんと体が跳ねたのをいいことに、二コラが笑って耳元にキスをしてきた。水音がする。耳朶を噛まれ、名前を呼ばれた。 「うぁっ、ぁ、っん!」  体が痙攣する。軽くゆするような緩慢な動きだというのに、甘い刺激だけで達してしまった。体に力が入らず、二コラにしがみ付く。満足げに笑うのが聞こえたかと思うと、快感に震える腰をするりと撫でられた。 「さっきは手を抜いたと言ったが、そのつもりは毛頭ないぞ」  二コラがユーリの奥まで突けるように腰を押さえ込み、緩急をつけるような動きで煽って来る。ただの軽口のつもりだったが、二コラはそれが不満だったらしい。ぐりぐりといいところを突かれた途端、腹の奥が疼くのと同時に強烈な快感が身体を襲った。 「っぁ、ああっ! んっ、っ!」  ふいに漏れ出たものが二コラの服を濡らす。否定しようにも、二コラが的確に自分のいいところを突くせいで、快感に濡れた声しか出て行かない。  苛立ちまぎれに二コラの胸をドンと叩くが、そんなものは否定になるわけがなく、また耳元にキスを落とされる。何度も、何度もそれを繰り返され、その甘い刺激だけで官能的な充足感と心地よさに満たされる感覚を味わわされた。

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