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Fifteen(6)★

「交渉成立だな」  柔らかく言ったあと、ぷつりとたった胸を啄まれた。鼻に抜けた声が上がるとともに、ドン・クリステンが少し体を下げる。するすると手が下りてきて、下着の上から後ろを擦られる感覚に声が抑えられない。 「んっ、っ」  指が中に侵入してくる様子はない。ただユーリの快感を高めるためだけに丁寧に入り口を解すかのように指を滑らせる。後ろだけでなく、胸も同時に愛撫され、自然と腰が浮く。大きな手がぐんと入り込んできて、会陰のあたりを押し込まれる。じらされ、火照った体がダイレクトな快感を欲しがっているというのに、ドン・クリステンはそれを与えようとしない。  胸を啄み、濡れた音を立てるドン・クリステンの髪を掴む。 「いいから、入れろよ」  焦れたように言ったら、そこで笑われた。胸に熱い息がかかり、それだけでヘンな声が漏れる。 「っァ、ん」  切なげな、掠れた声が漏れるのに、ドン・クリステンはその先に進もうとはしない。ついばまれていた胸を解放されたかと思ったら、後ろをいじる手とは別の手で、腰や腹をまさぐられる。指先で快感を高めるように触れられるだけだ。  しつこく後ろを擦られ、身体を捩る。身体を這いまわる腕を掴んで、訴えかけるような視線を向けたが、まるでその訴えを退けるかのように、指が身体の上をとことこと移動してきて、愛撫されていないほうの胸を弾かれた。また腹の奥が疼く。反射的に腹を押さえたからか、頭上から笑われる。 「期待をしているのか? 吸い付いてくるぞ」  揶揄するように言われ、顔が熱くなる。指を中に押し込むようにしながらも、入れてくるわけではない。長い指でいいように弄ばれ、背中が反りあがる。  胸をいじる手と、後ろをいじる手に翻弄され、文句を言う余裕などない。短い喘ぎに甘さが混じり、歯を食いしばって声が漏れないようにするが、いつもされないような愛撫に自然と声が漏れる。  不意に後ろをいじる手が引いて行った。下着の中に手が入ってくるのかと思ったけれど、指先が触れるか触れないかの微妙なタッチでするすると指が這いあがってきて、またへそをいじられる。喉が鳴る。手の上から腹を押し込まれた途端、焦らされていたせいかがくんと腰が浮いた。 「ぁっ、ぁ!」  甘い痺れが全身を包み込むような感覚に、あえかな声が漏れる。腰が浮くのを押さえ込むように、ドン・クリステンが覆いかぶさってきた。少し腰を浮かされた状態で押さえ込まれているせいで、布越しだというのにはっきりとわかるほど昂ったそれで後ろを擦られる。その状態で腰を揺すられ、甘い声が止まらない。 「これだけで達しそうじゃないか」  ふふっと笑いながらも動きを止めない。ベッドのきしむ音が激しくなる。下着越しに擦られる後ろと、制服の生地に擦れる胸への刺激で自然と体が浮くが、そうするとドン・クリステンの身体と更に密着し、身体を擦られる。 「っ、んっ、んんぅっ、ぅ」  喘ぎ声を噛み殺そうと思ったのに、ドン・クリステンの指が耳にかかり、耳を刺激される。そこを中心にぞわりと甘い快感が広がっていき、神経が剥き出しになったように過敏になったそこが、服の摩擦すら快感と受け取って、堪らずドン・クリステンの服を掴んだ。 「っは、あっ、だ、だめっ」 「嫌かね? 服越しにでもわかるほどたっているじゃないか」  刺激されることで胸がぷつりと固くなっているのを揶揄されて、顔が赤くなる。じわりと全身を痺れが支配し始め、快感から逃れようとシーツを蹴って腰を浮かそうとした途端、びりっと電気が走ったような感覚が身体を襲った。 「ああっ!」  ふわっと体が浮くような感覚に包まれる。頭が働かない。よがり声を押さえていたというのに、自然と口から洩れる。  吐息交じりの甘い声が上がり、ドン・クリステンにしがみ付きながら痙攣を繰り返す。笑いながら身体を揺すられるままによがるユーリの耳を指であやしながら、もう片方の耳元にまたキスをされる。耳元にキスをされただけなのに、腰からぞわぞわと快感が這いあがり、またビクンと体が跳ねた。快感から逃れようとするユーリの腰が上がったと同時に、ドン・クリステンが下から抉るように腰を揺すったせいで、ズボン越しだというのにはっきりと形を浮かび上がらせているカリ首が後ろのくぼみに入り込むように擦り、あられもない声が上がった。 「んぁあっ、っ、はっ、ァ、っ!」  がくがくと体が震える。刺激のせいで立ち上がっているが、射精を伴わない絶頂が続く。快楽のせいで足の指までギュッと力が入り、脚の間にいるドン・クリステンに動きを止めようとするかのように両腿をしめるが、快感に震えるせいで動きを止めることは適わない。何度も、何度も達する。  ようやくドン・クリステンが身体の動きを止めた頃、ユーリは呼吸に混じってあえかなよがり声を上げることしかできなかった。どこに触れられても快感を得るように甘い声が上がる。生理的にあふれる涙を指で拭われたかと思うと、深いキスをされた。噛みつくように、柔らかな唇を割り入って歯列をなぞるようにして口内を犯される。ふわふわして頭が働かない中、それに舌を絡めればより快感を得られることを知っているかのように、舌を絡めていく。薄暗い部屋のなかで、二人の荒い呼吸音だけが響く。  何度も角度を変えられる。吐息すら逃がさないとばかりに長いキスが続く。ただでさえ敏感になっているというのに、上あごをなぞられた途端にまたふわっと体が浮くような感覚がして、腹の奥が疼いた。自然と腰が浮く。  口腔を犯されながら肩甲骨が浮くほど背中が反りあがった。奥の疼きを止めようと下腹に力が籠った瞬間、全身が弾けるような激しい快感に見舞われた。必死でドン・クリステンにしがみ付く。キスをされながらも鼻にかかった甘い声が漏れ出て、身体が自然とくねる。まるでナカでイッたときのような持続的な快感が身体を包みこんだ。  ドン・クリステンの舌が抜けていく。ユーリはもうそれを追いかけることもできなかった。胸が激しく上下するほど喘ぐなか、首筋、鎖骨、胸元に次々にキスを落とされる。そこからさらに痺れにも似た快感に侵食されるような感覚に襲われた。 「すごいイキかたをしたな」  ふわふわとした感覚が続いている。自分がイッたことすらわからず、ただ短い呼吸を繰り返してよがるユーリの耳に、ドン・クリステンの耳に絡む低い声が届いた。 「もうわけがわかっていないか」  するりと首筋を撫でられ、痺れるような快感が迸り、身体が竦む。吐息交じりのよがり声をあげると、頭上からまた行為とは場違いなほど上品な笑い声がした。 「自分だけ愉しむのはよくないぞ、ガッティーナ」  また下着の上から後ろをいじられる。目の前がチカチカして、頭が回らない。すっかり体が弛緩して、言うことを聞かないというのに、ドン・クリステンの手がしつこいくらいに会陰と後ろと刺激する。また脊髄を支配するような甘い痺れが、疼く腹の奥を中心に広がってきた。嫌だと訴える間もなく、また絶え間ない快楽の波が襲ってくる。  部屋の中にはユーリの甘い声と衣擦れの音だけが響く。快楽から逃れようと自然と腰が浮くが、ドン・クリステンの手がどこまでも追いかけてきて、ままならない。視界が明滅する。甲高い嬌声が上がるとともに、また射精を伴わない絶頂が訪れた。がくがくと体が震える。身体を襲う痺れにも似た快感が腹の奥からせり上がってくる感覚が止まらない。ドン・クリステンの服を掴む手に力が籠る。 「俺はなにもしていないというのに、ずいぶんとよさそうな声で鳴く」  息が整わない。また肌に当たるすべての感触すら快感に変わるような錯覚に見舞われて、ユーリは息を荒らげながらあふれる涙をそのままに、ドン・クリステンにしがみ付いた。 「奥、抜いてっ」  苦しいと切なげに訴えるが、ドン・クリステンはユーリの背中を指先で煽るように撫でるだけで、それ以上仕掛けてくる様子がない。それどころか、また耳元に、首筋に何度もキスをされる。 「よく覚えておくといい、ユーリ。きみが収容所で覚えさせられたのは、ただの“性欲処理”でしかない」  ふえっ? っと情けない声が出る。頭が、身体がふわふわしていて、言われている意味が分からない。いいからとせがむようにドン・クリステンの襟元を掴んだ。 「なんでいれないんだよっ」  頭上でふふっと笑われたかと思ったら、ドン・クリステンの熱い手で後ろを下着越しに撫でられた。 「なかに入れなくてもイケただろう」  薄く笑いながらもすりすりとそこを撫でられる。指先で何度も、しつこいくらいに撫でられるせいで、ずんと重い腹の奥から快感がせり上がってくるような感覚に見舞われた。目の前がチカチカして、またドン・クリステンにしがみつく。片方の手で疼く腹を庇うように押さえると、ドン・クリステンの手がするすると這ってきた。今度は押さえ込まれなかった。ただそこにドン・クリステンの手がある。それだけで、脳が次に与えられる快感を知って、求めているかのように、またさっきのように甘く、そして激しい快感に体が支配された。  胸が上下する。酸素を取り込もうと口を開けて息をする音に、快感に濡れた声が混じる。それはユーリの身体がかるく痙攣するたびに漏れ出ていく。ドン・クリステンとのセックスで演技をしてごまかそうとしたことはないけれど、これはひどい。ユーリは涙が零れるのを拭って、震える手で背中を殴った。 「これ、やだっ」 「なぜ? 元来セックスとはこういうものだ。肌を合わせ、互いの熱を知ることから始まる」 「なんの嫌がらせなんだよっ?」  抗議する自分の声は震えていて、凄んでいるようには思えない。さっきからずっと体が震えている。ドン・クリステンの指や手が這って行くところから、まるで自分の感覚が奪われていくような錯覚が生じる。熱いし、ぞわぞわする。体の奥底からその熱を求めているような、――。 「こういうの、嫌いなんだって」 「それは残念だ。こうして快感を高めたあとに抱かれるとどうなるか、興味はないかね?」  興味と、口の中で呟く。なくはない。なくはないけれど、――。  すいと視線を逸らした。妙に疼く腹を撫でる。 「あのさあ」  ぼそりと言ったら、ドン・クリステンが「なんだね?」と話の続きを促す。 「このままあんたに抱かれたら、俺のなかの、よくわからない感情の答えが出る?」 「よくわからない感情?」   考えても、これだけは整理がつかなかった。本当によくわからない。でも、ドン・クリステンなら知っているような気がした。 「昔からずっと、無理やりされるのが当たり前だと思ってて」  言い始めると、またドン・クリステンからの愛撫が再開される。嫌がらせ反対と言ったけれどやめてくれる様子がない。 「収容所でも、無理やりする人と、そうじゃない人がいて。でも、そうじゃない人たちは、みんな、いつのまにかいなくなっちゃうんだ」 「買いに来なくなる、ということか?」 「たぶん」 「たぶん?」  たぶん、としか言いようがない。看守が言っているのを小耳に挟んだだけだ。また目を逸らしたからか、ドン・クリステンの手がさわさわと体に触れる範囲が広くなっていく。 「サシャはドン・フォンターナがいたけど、俺はなかなかそういういい人に巡り合えなくて。でも、一回だけ、俺の権利を買ったのに、本当になにもしない人がいた」 「なにもしない人?」 「なにもされなかったってことは覚えているんだけど、まあ、いつものように、顔も、においも、なんも覚えてなくて。  でも収容所を出た時に、軍医団の駐屯地に連れて行かれて、あれがその時の人なんじゃないかなあって思った人はいた」  ドン・クリステンが静かに笑った。少し体を寄せてきたかと思うと、軽くキスをされた。 「アースィムか」 「たぶん。看守たちは、大口の顧客が殺されることについて、『羽振りのいい奴に目を付ける強盗の仕業だろう』って言っていた。だから、一番仲のいい看守にそれとなく聞いてみたけど、教えてくれなかったんだ。知らないほうがいいって。  だから、あの人を見て、どっちなんだろうって思った。敵なのか、味方なのか。自分には身を守る術なんて、そのどちらかを判断する以外ない。そう思って警戒したら、こっちの警戒が恥ずかしくなるくらいフレンドリーに迎えられた」 「はは、彼はそういう質だ。自分自身が少数民族だからな。おそらくアルが内部調査に入らせたのだろう。そのときに、なにを言われたか覚えていないか?」  そう言われて、考えた。でも、やっぱりなにも思い出せない。素直に首を横に振ると、ドン・クリステンは訳知り顔でそうかとだけ言った。 「俺に手を差し伸べてくれた人は、みんないなくなる。  だからあんたも、二コラも、チェリオたちも、そのうちに殺されてしまうんじゃないかって、ずっと怖かった」 「もうすぐその脅威も取り除かれる。安心していい」 「できるかな、安心」 「きみが自覚すれば、或いは」  自覚と言われて、疑問符が浮かぶ。それは、自分がまさにドン・クリステンに尋ねたかったことと同義かもしれない。 「ねえ、自覚ってどうやるの?」  そう尋ねたら、ドン・クリステンが薄く笑った。身体を這っていた手がまた下腹部におりてきて、へそやずんと疼く場所を撫でられる。うんっと鼻にかかった声が上がり、身体が跳ねた。 「誰に、どうされたい?」 「だれに?」 「そうだ。ここを、誰に愛でられたい?」  ここをと言いながら、ドン・クリステンがユーリのへその下あたりを軽く押した。びくんと体が竦む。誰に? 想像しても、なにも思い浮かばない。ドン・クリステン以外に、こんなことをする人はいない。そう文句を言ってやろうとしたときに、ふと思いだした。  そういえば、奥を抜かれるのは二コラじゃないと嫌だとか、言っていなかったか?  ふわふわとする意識の中でその名前を想像したと同時にドン・クリステンからそこを刺激され、ユーリはまた身体を電流で打たれたのではないかと思うほどつよい快感に襲われた。 「んっ、んぅううっ」  ぎゅっとドン・クリステンにしがみ付く。入れられてもいないのに、腹を押され、それだけでイクとは思わなかった。目の前がチカチカする。 「答えはもう出ているじゃないか」  また間抜けた声が上がる。ドン・クリステンは静かに笑って、ユーリの身体を解放した。 「え、しないの?」  マジで? と、ユーリ。いままで好き勝手にしてきたくせに、どういう心境の変化なのだろうか。体を起こし体制を整えたドン・クリステンからまた頭を撫でられた。やや不満げにそれを払いのけ、ジト目で見据える。 「なにかの布石だな?」  それ以外に、ドン・クリステンが自分に手を出さないわけがない。不敵な笑みを浮かべたかと思うと、とんとんと自分の腿を指で叩く。その長い指が自分に与える深い快楽を知っているせいで、喉が鳴る。ドン・クリステンのそれは完全とは言えないものの、張り詰めていて、それをうまく立たせたら……と言いたいのだろうか。  ユーリは身体を起して、躊躇いなくドン・クリステンのベルトを寛げた。ズボンのトップボタンをファスナーを寛げて、足もとに寝そべる。下着の中から既に固くなったものを取り出して、軽く扱く。  どっちのパターンだろうと思案する。激しく行くか、上品に行くか。顔色を窺うように上目遣いに見たら、顎を指先で軽く撫でられた。 「イカせてくれればいい」 「……しないの?」  ふっと息を吐くように笑って、大きな手で、なにも言わずに頬を両側からふにふにと触られる。口だけでいいと言われているのだと悟り、不満ながらもそれを頬張った。  軽い音を立てながら先端を舌で弄び、根元を扱く。わりと硬度があり、すぐにでも出そうだ。一度口から解放し脈打つ血管に沿って舌を這わせ、張りのある部分ごと唇で覆う。裏筋を攻めるように舌を沿わせて顔を前後させてそこを刺激した。耳もとに手が伸びてきて、すりすりと撫でられる。びくんと肩が震えた。抗議をするように根元をぎゅっと握ってやったら、耳元を撫でる手が移動した。  するすると身体を這い、腰のほうまでやって来る。少し体を丸めて寝そべっているからか、それともそのつもりからなのか、後ろには触れてこない。かわりに尻を揉まれた。上目遣いに睨むと、楽しげに笑うのが見える。一体なにが目的なのだろう。  ユーリがドン・クリステンのそれを舌で、口腔で愛撫するのに合わせ、まるで後ろを広げるかのような、ただのマッサージをしているかのような動きで触れられる。下着越しだというのに、体温を感じるほど熱い。なんとなく釈然としなくて、さっさとイカせてやろうと動きを激しくしたら、ドン・クリステンの手もまた激しくなる。直接触れなかったくせに、嫌がらせのように中指で後ろをなでたり、とんとんと叩いたりと刺激された。イラついて、顔をあげてドン・クリステンを睨んだ。 「なに? 文句があるなら言えよ」 「そんなものはないさ。可愛いガッティーナが、俺のものをあやしてくれているのを目に焼き付けているだけだ」  絶対に嘘だ。返事もせず、愛撫を再開する。やはりまた、ドン・クリステンの手が腰や尻を中心に這いまわった。音を立てろと言いたいのだろうかと思って、わざと吸い付くような動きに変化させる。元々硬かったものの硬度が増す。  舌を絡め、張った部分に唇を引っかけるようにして何度も何度もそこを行き来する。濡れた音と、自分の少し苦しげな息遣いだけで、身体が熱くなってくるのを感じて、不思議に思いながらも空いた手でごそごそと下腹部に手を差し入れた。  なにもしていないのに、腹が熱い。腹と言うよりは、その奥が。この熱が昂ったら、自分に蕩けるような快楽を味わわせてくれることをインプットしているからだろうか。じらされて、苦しい。そう思いながらも愛撫するユーリの耳に、ドン・クリステンの笑う声がした。 「腰が揺れているぞ」  まるで自分自身をベッドに擦り付けているように、腰が動いていたことを指摘される。だったら素直に入れてくれればいいものを、今日のドン・クリステンはなぜか手を出そうとはしない。前の刺激だけではイキきれない。ねだるように少し腰を上げたけれど、相変わらずすりすりと後ろを撫でられるだけだ。  粘性のある熱が少しずつ溢れてくる。それを啜るようにしながら、粘液のぬめりを借りて口の動きと、根元を扱く手を激しくした。ドン・クリステンの平静としていたそれが、少し気持ちよさそうな息遣いに変化する。少しずつ腰が動きはじめ、そろそろ絶頂を迎えるのだろうと予感させた。  咥え込める部分までそれを収め、根元と双球を共に愛撫する。鼻にかかった、甘えたような、蕩けたような自分の声が、より快楽を求めているようなものに変化する。どぷりと口の中に熱が放たれた。同時に、ドン・クリステンの指が後ろを引っ掻くようにして刺激してくる。この熱が放たれるのが、いつもの、自分がよがる奥だったらと想像した途端、またあの体が浮くような感覚に見舞われた。 「ンンっ……っ!」  ドン・クリステンのものを咥えているせいで、はっきりとした喘ぎ声にはならなかったが、がくがくと膝が震え、ナカでイッたときのような持続的な快感が身体を襲う。腰から、内腿に掛けて、そして尾骨から腹のあたりまで、じわりとした熱に侵される。ドン・クリステンのものを咥えたままイッたせいでそれが喉に引っかかり、ゲホゲホと噎せた。噎せる刺激でまでイキそうになって、腹を押さえる。ドン・クリステンのものを握ったまま、身体を丸めてビクビクとよがるユーリの頭を、大きな手が撫でた。 「いい子だ」  くつくつと笑うさまは、悪魔のようにも見える。精液と、自分の唾液とで濡れた口元を拭って、ユーリは涙に濡れた目でドン・クリステンを睨んだ。 「最悪っ」 「嘘を吐くな、よかっただろう」 「どこがだっ」  どうせならナカでイカせてほしいと文句を言ったが、ドン・クリステンはどこ吹く風で、さっさとベッドから降りて行った。ベッドサイドにある紙でそれを拭い、下着の中にしまう。本当にやらないつもりかと怪訝な顔で見ていると、含みのある笑みを向けられた。 「例のものは、すぐに作れるのか?」  例のものと言われ、ピンときた。  遺跡から数冊持ち帰った(アレクシスには一冊と詐称した)本を読みながらあの花の調査をしていて、ひとつわかったことがある。  黄色の小さな花をつける“例の花”と、この花の組み合わせはあらゆる毒や薬効を打ち消す効果があるものの、デメリットとしてユーリがよく使うシレンツィオやカルマなどの薬効も消えてしまう。つまり、これを服用するともしその間に襲われるようなことがあれば、プリシピタルも、痛みや感覚を鈍らせるために使うカルマも、どの程度か、或いはまったく無効化されてしまうということだ。  ただ毒消しや炎症、鎮痛に関してはどれよりも優れているが、組み合わせや飲み合わせの選択が難しく、長期的に使用することは望ましくない。  でも、それがあれば二コラの症状もなんとかなるかもしれないと考えた。 「作ってある」 「では、俺は一度シャワーを浴びてくる。きみも行くかね?」 「シャワールームでしたら、音響かない?」  そう言ったら、ドン・クリステンがまた静かに笑った。 「もうなにもしないぞ。きみは俺の飼い猫ではないからな」  言われている意味が分からなかった。目を瞬かせ、ドン・クリステンを眺める。 「準備が終えたら、一度声をかける。きみは例のものを用意しておいてくれ」 「それ、もう少し付き合えって言っていた、あれ?」 「そうだ。以前きみに言っただろう。『ドン・コヴェリに差し出す前に、嫌と言うほど誰のものかわからせてやる』と」 「……あァ」  「そういうこと」と、目を細めてドン・クリステンを見る。 「オレガノの連中は?」 「彼らは今頃、エクリプスを探っているはずだ」 「わっるい人」  自分が蒔いた餌だというのに、それを棚に上げてユーリが笑う。ドン・クリステンはそれを見下ろして、軽くホールドアップしてみせた。 「彼らからなにを言われても、俺は知らぬ存ぜぬを貫き通すからな。きみが仕込んだんだ。責任は取れよ」 「はいはい、わかってます」  絶対にわかっていない軽い口調で言ってのける。そもそも自分が怒られる謂れもなければ、責任を取る必要もないと思っている。それを悟ったかのように、ドン・クリステンは笑いながら部屋を後にした。

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