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6話

 天界から突然いなくなってしまったエルの事を、友達である悪魔のミストは探していた。やっと見つけたと思ったら、エルは人間の明と幸せそうに仲睦まじく過ごしていると聞いて、盛大に呆れてしまい「心配して損したよ」と言い放ったほどだった。  最初の頃は、人間でありながら神父である明と悪魔のミストの仲はあまり良くなかったが、エルの事になると考えが一致することに気付いて、共闘する仲になった。ミストはたまに下界に遊びに来てエルと話しては、姉であるルカや友達のディルやアンジェに報告しているのだった。そうして、明と仲睦まじく過ごしている時に、ミストはある噂を耳にして、エルに話して聞かせたのだった。 『最近、一部の人間達の間で天使狩りが発生している』  天使狩りというのは、遠い昔、人間と悪魔が天使を捕まえて、天使にとって酷い事をした過去の事を指す。教会の中で一人取り残されたエルは、ミストの言葉を思い出しては不安げな表情を浮かべた。明は仕事の都合で遠い場所へ出掛けていて一日留守にするとの事だった。故に現在、エル一人だけでいた。そんなエルに対して、真っ白な十字架のペンダントを渡したのだった。 「お守りだ」  明はそう告げてくれたので、エルはそっと真っ白な十字架のペンダントを身に着けた。 (今日も一日、何事も無く過ごせますように)  十字架のペンダントを強く握りしめて、そっと触れるだけの口付けを落として、エルは祈った。そうして、毎日の日課である教会の傍で咲いている白薔薇の水やりをしようと思った時だった。 「っ!?」  突然、教会の床が黒く染まったと思ったら、うにょうにょと蠢めく触手の様な形をした物体が現れたのだった。エルは驚いて慌てて逃げようとして、天使の羽をばさりと広げた。けれども、エルが逃げようとするよりも先に、黒い触手がエルの細く白い足に絡み付いた。 「は、離してっ!」  エルは必死に抵抗しようとするが、黒い触手の力が凄まじく抑え付けられてしまう。足に、腕に、首に、黒い触手は這いずり回り巻き付いてくる。黒い触手の冷たい感触に背筋がぞっとしながら、エルの真っ白な天使の羽根が教会の床に舞い落ちる。 「素晴らしい!天使がこの教会にいると言う噂は本当だったようだ」  不意に教会の大きな扉が開いたと思ったら、見知らぬ男性が入って来た。こつ、こつ、こつと足音を響かせながら、身動きの取れないエルの元へやって来る。エルは、その男性がミストの言っていた『天使狩りをしている一部の人間』だと悟る。 「ふむ、服が邪魔でよく見えん」 エルの頭からつま先までいやらしい目つきで眺めると、男性は指をパチンと鳴らした。それが合図となり、黒い触手はうねうねと蠢くとエルの服の上を這いずり回る。 「…ぁっ!?」  黒い触手が服の上を這いずり回った途端に、エルの着ていた白い服が溶け出して、消えていく。そうして、エルの華奢な色白で細い裸体が露わになったのだった。黒い触手によって服を溶かされて裸にされた事で、エルは羞恥心から顔を真っ赤に染まらせる。男性は目を細めて口を三日月の弧を描きながら、下卑た目でエルの身体をじろじろと眺めた。 「ほぅ……。天使は、下の毛が生えていないのか」  男性の言葉にエルは羞恥心と裸にされた悔しさから男性の姿を目に入れない様に、サファイアブルー色の瞳を閉じる。そのエルの行為が男性の欲情を煽るとも知らないで、男性はにやにやと笑みを浮かべ、エルの腹に刻まれている真っ白な淫紋を見つめた。 「既にこの教会に住んでいる神父に犯されたか」 「それ以上、明さんに対して酷い事を言ったら怒りますよ……!」  エルは、男性の不躾な言葉に怒りの感情が沸き上がりキッと睨み付けた。 「天使の貴様なんぞに何が出来るっていうんだ」  馬鹿にした様に男性は吐き捨てると、黒い触手に向かって無慈悲な命令を出す。 「天使を犯せ」  命令された触手は、しゅるしゅると蠢き回るとエルの首を、腕を、足をさらに強く拘束していく。エルの顔は青褪めて、身体を動かそうとしてもびくともしないので、逃げられない事を悟ってしまう。このままでは黒い触手に犯されてしまうと、絶望しながら目を瞑り、思わず愛しい人の名前を心の中で叫んだ。 (明さんっ……!)  すると突然、エルが身に着けていた真っ白な十字架のペンダントが強く光り輝き始めた。その真っ白な光はエルを守る様に包み込んだ。とても優しくて、温かくて、強い光だった。黒い触手は真っ白な光を嫌がる様にして身を捩った瞬間、消滅してしまった。 「何事だっ!?」  男性がうろたえていると教会の大きな扉が開き、そこに立っていたのは遠い場所へ出掛けていて、今日中には帰って来ないはずの明だった。 「エル、大丈夫かっ!遅れてすまない」 「はい、明さん…!俺は大丈夫ですっ!」  明の姿を目に入れたエルは、ほっと安心した様に心の底から笑みを浮かべた。男性はさらに動揺して、明に対して何かを呪文を唱えようとした。その男性の様子を見ていた明は見逃さす事は無く、すかさずに持っていた十字架を口に含んで呪文を唱えた。すると、男性の周囲に真っ白く強い光が包まれたかと思うと、男性の口と腕と足を一気に拘束して動けなくするのだった。明は黒い触手から解放されたエルに駆け寄ると、すぐさまに上着を掛けてエルの裸体を隠すと、腕の中に閉じ込める様に強く抱きしめる。床に転がされた男性を冷たいアメジスト色の瞳で見下ろしながら、誰もが見たらぞっとする様な悪い笑みを浮かべ残酷に告げた。 「俺の教会に土足で踏み入った事、後悔させてやる」  その後、教会で無断に侵入した男性は明の通報によって警察に連れてかれたのだった。警察に連れてかれた時の男性は、何処か顔を青褪めさせながら身体をがくがくと震わせていた。  何故、男性がそうなってしまったのかは神のみぞ知る。

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