2 / 143
第2話
あれ、人間って飛べるっけ?
いや。15年間人間やってきたけど、飛んだことは一度もない。
だとしたら何故飛んだ?
呆気にとられていると羽交い締めにしていた腕が緩んだ。後ろの不良は完全に震え上がっていて、吹っ飛んだ人を放って逃げ出してしまった。
この人置いて行っていいのか!?
「子どもに集るなんてみっともない。朝から嫌な思いしたね」
「い、いえ……!ふおぉ……!?」
助けてくれたであろう男性の方を見ると、それはもう美形で、すごくすごくかっこいいお兄さんだった。思わず変な声出ちゃった……!
キューピットの矢が僕の心臓を一突き。
ええと、お礼を言うんだ!落ち着け!落ち着け!
「ごめん、遅刻しそうだから行くね」
「あっ!はい!」
かっこいいお兄さんはそれだけ告げるとすぐに去って行ってしまった。少し早い時間だが、サラリーマンとかだろうか。
あ、お礼言い損ねた!また会えるといいな。
と言うか、会いたい。
早めにホテルを出て正解だった。曲がり角を一つ間違えてしまって、迷子になっていた。なんとか学校まで辿り着いたが、時間はもうギリギリだ。
自分のクラスに入ると、既に仲良しグループは出来ていて完全に出遅れた。
しかも女子率高いな!半分以上女子じゃん!
適当に空いた席に座って縮こまっていると、前にいる女の子に話しかけられた。
「おはよう!」
「お、おはよう」
サラサラの金髪が綺麗で、目が宝石のようにキラキラしている女の子。ハーフだろうか。すごく可愛いらしい。
「名前なんて言うの?私は須藤 千花!千花って呼んでね!」
「ぼ、僕は春海 律!よ、よろしく、千花、ちゃん……?」
「律!可愛い名前だね!よろしく!」
か、可愛い、名前なのか?
あまり気にした事はなかったけれど、確かに男で『律』と言う名前の人はあまり居ないかもしれない。分かんないけど。
千花ちゃんはとても面白い人で、すごく人懐っこい性格だと思った。男女問わず仲良くしていて、僕も見習わないとな。
暫くすると先生が入ってきて、体育館に案内される。4月だが、やはり体育館はまだ寒くて震えが止まらない。
「律、寒いならこれあげる」
「え、でも千花ちゃんのでしょ?悪いよ」
「ふっふっふ、実はもう1つ持ってんの!だからあげる!律は私よりか弱そうだもん」
ブルブル震えていると、隣に座っていた千花ちゃんが見かねてカイロをくれた。
有難い、千花ちゃん優しい。
ポカポカのカイロで暖を取っていると、いよいよ入学式が始まった。
とても暇だったので、千花ちゃんとコソコソお喋りしているといつの間にか入学式は終わっていて、次は各クラスの担任の先生の発表が始まった。
前にぞろぞろと先生たちが並び、一人一人自己紹介と受け持つクラスを順番に言っていく。
最前列にいるクラスの女の子たちがキャーキャー言っているが、遠くて先生たちの顔も見えないし、なぜキャーキャー言っているのかよく分からなかった。
「1年B組の担任、有馬 朔夜です」
僕のクラスの担任は有馬先生と言う人らしい。顔は見えないけれど、声からしてたぶん若い先生なのかなと予想できた。
すると隣で千花ちゃんも「ひぇっ」と小さな悲鳴をあげていた。一体どうしたと言うのだ。
「大丈夫?」
「やばい、超かっこいいんだけど!有馬先生!超かっこいい!!」
「へぇ。僕見えなかったよ」
そんなに鼻息が荒くなるほどカッコよかったのだろうか。フンッ!フンッ!と鼻息を荒くして興奮気味に僕の背中をバシバシ叩いてくる。
痛い……。千花ちゃん力強いな……。
無事入学式は終わり、僕は若干の背中の痛みに顔を歪めながら、千花ちゃんは教室に行くと担任の先生に会えるという興奮を隠しきれず顔をニヤニヤさせながら教室に向かったのだった。
ともだちにシェアしよう!