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第7話

「これが普通なんだよ。律、君は甘える事も、優しさに触れることもなかったんだね……。大丈夫、これから慣れていけばいい」 「さ、くや、さん……」 初めて他人の優しさに触れた。僕、貴方に甘えてもいいの?甘えるなんて初めてだし、どんな甘え方をすればいいのか分からない。 猫みたいにスリスリ擦り寄ればいいのか?それとも、犬みたいに構って構って!とピョンピョン跳ねればいいのか? わからん。動物の甘える方法しかわからん。 明日千花ちゃんに聞いてみようかな。 「僕、ぎゅってされるの好き、かも……。落ち着く……」 「本当?じゃあもう少しこうしていようか」 こうして抱き締められたのっていつ以来だろう。 母は仕事が命の人だったから、あまり構ってもらった記憶もないし、抱っこされた記憶もない。そりゃあ赤ちゃんの頃は抱っこして貰っていたんだろうけど。 人の体温って落ち着くんだな。朔夜さんの肩に顔を埋めて目を瞑ると、つい寝てしまいそうになる。 「眠いの?」 「眠くないよ……」 「うそ。少し寝る?」 「……うん」 昨日あまり寝れなかったからか、すごく眠くなってきた。抱っこされて寝るとか子どもかよ……。でも今日は許して。 眠気眼で寝室に連れて行かれ、寝かされて上から布団を掛けられる。この布団、朔夜さんの匂いがする。いい匂いに包まれて、あっという間に夢の世界へ落ちて行った。 どのくらい寝たのだろう。ベッドサイドに置いてある時計を確認すると、20時と言うことが分かった。 結構寝た気がする。今日の夜寝れるか心配だな。 朔夜さんが居るであろうリビングに行くと、フワッといい匂いが鼻をくすぐる。 「あ、起きた? ちょうどご飯も出来たところなんだ。食べようか」 「これ、朔夜さんが作ったの?お惣菜じゃなくて?」 「そうだよ。口に合うかは分からないけど」 テーブルの上には綺麗に盛り付けられたご飯と肉じゃがと、ほうれん草のおひたし、味噌汁が置いてあった。こんな豪華なご飯食べた事がなくて、本当に食べてもいいのかと戸惑う。 僕寝てただけなのに……。 「僕、本当に食べてもいいの?寝てただけなのに……」 「そんなの気にしなくていいんだよ」 おいで、と手招きされて朔夜さんの向かいの席に座る。2人でいただきますと手を合わせ、肉じゃがをパクリと口の中に放り込んだ。 な、何これ……! 「すごい美味しい!朔夜さんすごい!」 「そっか、良かった」 「最近貧血が酷くて。でもこれで元気になれそう!」 「………」 貧血だと言うと、朔夜さんはピタリと動きを止めて台所に行ってしまった。僕なにか不味いこと言った? 再び戻ってきた朔夜さんの手に握られていたのはほうれん草がたくさん入ったタッパーだった。 それを僕のお皿にもりもりに盛り付けくる。 「なんでほうれん草ばっか?」 「貧血にはほうれん草がいいんだよ。レバーもいいって言うけど。明日はレバーにしようか?」 れ、レバーなんて食べたことないぞ!?美味しいのかな……?スーパーで売ってるいるのを見かけた事はあるけど、買おうとは思わない。たぶん一生食べる機会はないと思う。 「レバーって肝臓なんだよ!」 「知ってるよ。レバーは嫌?」 「嫌って言うか……。食べたことないけど、食べたくないっていうか……」 「分かる分かる。実は俺も苦手なんだよね」 あ、そうなんだ。……じゃなくて、どうして苦手なのにレバーにしようかなんて言うんだ? 僕の貧血を治そうとしてくれているのかな……?ほうれん草もたくさん盛り付けられたし。 確かにカップ麺だけだと栄養は偏るし、体の調子も良くない気がする。 「と言うか、律は痩せすぎ。貧血もだけど、もっと太らないとダメ」 「そうかな?普通だと思うけど……」 よく痩せてるとは言われるが、自分ではあまり分からない。ずっとこの体型だし、僕の中では普通なのだ。 んー、じゃあ貧血も治しつつ太れってこと?難しいな。

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