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第20話
「嫌な思いしたよね……。ごめん」
「あー、いいよ。僕が子どもなのは間違いないし……。やっぱり、女の子の方が良いもんね。僕は男だし子どもだし……」
自分で言って傷つく。
正直悔しいし、あのお姉さんたちを許したわけでもないが、もし朔夜さんがあのお姉さんたちの方がいいと言うなら、僕は我慢するし耐える。
本当は僕と居るのが嫌なのかな……。お母さんに頼まれたから仕方なく面倒みてくれてるだけだもんね……。なに勝手に特別だと思ってんだろう。バカみたい。
車を停めた地下駐車場に行く為、エスカレーターに乗り込んだ。僕と朔夜さんの2人だけで何だか気まづい。こんな時に限って他のお客さん居ないなんて……。
「確かに律は子どもっぽいけど」
「……」
「俺はそんな律も好きだよ」
好き……。嬉しいけれど、たぶん僕の「好き」と朔夜さんの「好き」は違うと思う。そう思っているのに、バカみたいに嬉しくてつい俯いてしまう。
僕に気を使ってくれていると分かっているのに、ニヤけが止まらない。
「律は、本当に可愛いな」
「ふ、ぇ……!?」
グイッと肩を抱かれ、朔夜さんと抱き合う形になる。ぎゅうっと抱きしめられて心が幸せになる。こんな所で抱き合うなんてダメなのに、だけどもう少しこのままがいい。
朔夜さんの体温はすごく落ち着くんだ。モヤモヤしていた心がスーッと軽くなる感じがする。癒し効果、ストレス軽減効果もあるなんて万能すぎる。
エレベーターが着き、ぱっと体が離れていく。あぁ、もうちょっと……と名残惜しい気持ちになるが仕方のないこと。
「もう、律と寝られなくなるのは少し寂しいな……」
「え?」
「なんでもないよ」
ちょうどエレベーターが開いて外の音がうるさくて、朔夜さんが何と言っていたのか分からなかった。
何か言っていた気がするんだけど……。
モヤモヤしながらも車まで歩いて、助手席に乗り込んだ。後部座席には僕の布団が乗っている。乗ってよかった。これがダブルサイズだったら乗らなかっただろうな。シングルサイズにしておいて正解だった。
「あ、そうだ。律、目瞑って手を出して」
「え、目?」
何だろう、と思いながら目を瞑る。
ふにっと唇に柔らかいものが触れて、しばらくすると離れていった。
今度は手の平に何かが置かれた気がする。とても軽いもの。これは何だろう。
「目開けていいよ」
「……あ、ぬいぐるみ!可愛い!」
「一人で寝る時、寂しくならないように買ってきたんだ。やっぱり可愛い」
さっき唇に触れたのはこのぬいぐるみだったのかな。ふわふわしていたし、うーん……でも毛の感触は無かったかもしれない。でもあの一瞬だし、毛の感触までは分かんないよね。
朔夜さんが買ってくれた、小さなテディベア。クリクリの黒い目と、ふわふわした柔らかな毛並み。首には赤色のリボンが巻かれている。可愛いくてずっと見つめていたい。
「朔夜さん、ありがとう!」
「どういたしまして」
これは僕の宝物にする。絶対に手放さないぞ!
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