23 / 143
第23話
白衣を着た科学者がフラスコを持っている姿を想像した。実は人間はフラスコの中で産まれたのかもしれない、なんてありえない事を思ってしまった。
だけど赤ちゃんって、女性のお腹の中にいるんだよね。コウノトリさんがお腹まで運ぶのかな。でもどうやってお腹の中に入るの?お腹を切るのかな……、痛そう……。
コウノトリさんが赤ちゃんを運んでくるのに、赤ちゃんを作るって意味がわからない。
「うーん、律はショックを受けるかもしれないけれど、赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるものじゃないんだよ」
「……え?」
「赤ちゃんは、ほら……、うーん、セックスしたら出来るんだ。わかる?」
「せっくす?」
初めて聞く単語だ。せっくすって何なんだろう。みんなは知ってるのかな?
「そう。律もいつか経験するんじゃないかな」
「僕も?朔夜さんも経験した?」
「まぁね。大人だから」
「ふーん」
大人になるとせっくすをするらしい。それが何なのかはよく分からないけれど、いつか分かるのかな。
約15年間信じてきた、コウノトリさんが赤ちゃんを運んでくるのが嘘だった事の方が衝撃だった。
ドラマは、暗い部屋の中でベッドサイドの明かりだけ付いていてよく見えないが、布団の中で体を密着させた男女がキスをしている所だった。
「朔夜さんもキスしたことある?」
「あるよ」
「へー、どんな感じ?あんなに夢中になるの?」
僕はテレビを指さした。さっきから夢中でキスしているシーンしか写してくれなくて正直つまらない。唇と唇をくっつけるだけなのにあんなに時間かかるの?
そりゃあ好きな人にキスされたら嬉しいんだろうけど、あまり長いキスは嫌だなぁ。
「試してみる?」
「え、僕とするの!?」
「それ以外に誰かいる?」
「……待ってて!」
朔夜さんの衝撃の言葉に心臓が一回転するかと思った。
僕と朔夜さんがキス!?有り得ん!!そんな事したら僕の心臓が爆発してしまう!!
急いでリビングを出て、自分の部屋に戻りテディベアを持って再びリビングに戻った。
そしてテディベアを朔夜さんの前に差し出す。
「これとして!」
「え?」
「僕は、僕は……その、心の準備が出来てないというか……!だから今日はテディとして!」
「今日はってことは、明日ならいいの?」
「なんでそうなるの!」
クスクスと笑いながらグッと顔を近付けてくる。朔夜さんの顔の前にテディベアを持ってきて、キスしやすいようにする。何だか僕まで照れてきた……。
そして、チュッとテディベアにキスを落とした。
はわわわ……!!もう一回みたい!キスする朔夜さんが可愛い!
「これで満足?」
「も、もう一回みたい!」
「もうダメ」
「減るもんじゃないじゃんー!」
テディベア相手なんだし、もう一回くらいやってくれてもいいじゃないか!とむぅーと頬を膨らませると、朔夜さんに両手で顔を包まれた。
そして
……チュッ。
唇に柔らかな感触が。
「減るもんじゃないんでしょ?」
「……っ!?」
「顔真っ赤。可愛い」
「!?!?」
クスクス笑って、もう一回キスされた。
もうやめて!僕の心臓が持たない!死んでしまう!今日が僕の命日になってもいいの!?
「もう……、寝る!!」
「そう?おやすみ。 あ、おやすみのキスもした方がいい?」
「要らないよ!」
顔を真っ赤にしてリビングを出た。後ろで朔夜さんの笑い声が聞こえてきたが、笑い事ではない。
今日寝れなかったら朔夜さんのせいだ!こんなドキドキしてるのに眠れるわけないじゃないか!
ともだちにシェアしよう!