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第25話
寝癖が直らない。
鏡の前で何分も睨めっこしたが、全然直らない。そもそも寝癖ってどうやったら直るのかすら分かってなかった。水で濡らせば直るのに、乾くとまた跳ねるの繰り返し。だから水はダメだと学習した。
しかし水以外の方法ってあるのだろうか……なんて考えていると、もう家を出る時間になっていた。
僕の朝の時間、ほぼ寝癖直しに使ったようなもんだ。それでも直ってないんだからこの寝癖は一生直らないんじゃないか?いっそ芸術品だと言って歩き回ってやろうか。
ぴょこんと跳ねた前髪を気にしつつ、学校へ向かった。学校まで近くてよかった。もし電車通学だったらこの前髪を見られる所だった。
手で前髪を抑えてなんとか教室までたどり着いた。すごく長く感じた……。ずっと上に上げてるから腕もダルいし。
でもこれ、どうしよう……。
「おはよう律!」
「あ、おはよう千花ちゃん」
今日も元気に僕に体当たりして、いつもの千花ちゃんだ。もう毎回こうだから慣れてしまった。
なんとか教室まで辿り着き、授業が始まったらずっと抑えている訳にはいかないし.......と考えて、閃いた。
あ、そうだ!千花ちゃんなら直し方知ってるかも!一応女の子だし、千花ちゃんの髪はサラサラで寝癖なんて全く付いていない。毎朝直しているのかもしれない!
「千花ちゃん、寝癖の直し方って知ってる?」
「え?寝癖?」
「実は前髪が……」
手を退けると、ぴょこんと髪が跳ねる。なんでこんなに跳ねるの……。ずっと手で抑えていたのに全く直ってないし!
千花ちゃんは「可愛い!」と言っていたけれど、寝癖を見て可愛いなんて言うの千花ちゃんぐらいだと思う。それに何と言われたって寝癖がついたまま放っておこうとは思わないだろう。
「うーん、私はもともと癖ないからなぁ。普段もあんまり寝癖ついたりしないんだよね」
「え、いいなぁ。僕はすぐに寝癖付いちゃう」
「髪が短いからね。ピン留めとかあったらいいんだけど……」
なんと千花ちゃんは寝癖が付かないらしい。なんと羨ましい!髪がサラサラなのいいな。僕もサラサラな方だと思うんだけど……。
ピン留めなんて持ってるはずもなく。今日はずっと前髪を抑えていないといけないのか……と気分が落ち込んでいると
「私持ってるよ」
「蛍ちゃん!」
えーと、確か城山 蛍ちゃん、だったかな。
千花ちゃんと何度か話しているところは見たことがあるけれど、僕と話すのは初めてなんじゃないかな。
「すごい跳ね方してるね。芸術品かよ。写真撮っていい?」
「え、うん……」
落ち着いた口調でそう言った。寝癖の写真を撮るのが趣味?なのかな……?
大人しい性格かと思ってたのに、なんかイメージと違うかも。
パシャリと写真を撮って満足したのか、僕の前髪を掴んで何かをしている蛍ちゃん。見えないけど、引っ張られて痛いのは分かる。ピン留めでパチンと頭の上を留められた。
「完成!いいじゃん。似合ってる」
「本当だ!蛍ちゃんアレンジ上手だね!」
「え、なになに?見えないんだけど!」
2人で盛り上がってるところごめんね。僕自身全く見えてないんだけど。
千花ちゃんが鏡を貸してくれて、やっと見ることができた。
うわ!すごい!
跳ねていた前髪ごとクルクルとねじって頭の上にピン留めで止めてある。すごい!こんなの思いつかなかった!
「ありがとう!蛍ちゃん!」
「別にいいよ。 それと、クマも酷いよ?どうしたらそんな青クマ出来るの?」
「あはは……」
やっぱり酷いよね……。
2日寝なかったら出来ましたー、なんて言えない。
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